6-26 VS魔神オオクニヌシ
――真壁つるぎの視点から――
「ぐあッ!」
トオルは無表情で金棒を軽々と振り回しあたしを吹き飛ばす。どこが痛いのかわからないくらい全身に鈍い痛みが襲い掛かるけれどとにかく気合で立ち上がった。
「もうその辺にしておけ。お前じゃ俺には勝てない」
「こちとら痛いのには慣れてるんだよ……!」
あたしの心はまだ折れていない。ヒロとみのりを助けるためにも負けるわけにはいかないのだ。
「大体なんだその攻撃は、舐めてんのかよ。お前ならあたしくらいすぐに殺せるだろ」
日々戦いに身を置くあたしにはわかる。こいつとあたしとの力の差は歴然だ。その気になれば一瞬で殺せる程度に。
なのに奴はしなかった。その真意があたしにはわからずそんな意味のない質問をしてしまう。そしてその問いかけにトオルは鼻で笑って答えた。
「手加減しているに決まっているだろう。人間如きに神様が本気になるかよ」
「ハッ! あたしも随分と馬鹿にされたもんだ!」
取りあえずあたしは身の程もわきまえず挑発してみる。この状況でそんな事をするのは命知らずの馬鹿しかいないけれど、あたしはそもそも馬鹿だからな。
「お前は勘違いしているようだが……殺しはしないが痛めつける事は出来るぞ」
「ッ!」
けれどその時奴がした氷のような眼を見て、余裕をかましていたあたしは恐怖で身がすくんでしまった。
「人に恐怖を植え付けるには斬るとか潰すとか原始的なもののほうがいいんだ。両手両足を原形をとどめない程度に潰しても希典さんか恵さんあたりが治してくれるだろう。試してみるか?」
「……………」
これは脅しじゃない。こいつは本気だ。きっとトオルは自分と敵対する人間の命を躊躇なく奪ってきたのだろう。
あたしとこいつじゃ住む世界が違う。あたしは死の恐怖を実感し息が出来なくなってしまった。
――負けるな。負けを認めるな。意地を張り続ければ負ける事はない!
あたしは自分自身にそう言い聞かせた。怖くないと言えば嘘になる。だけどあいつらのために戦わないといけないんだ!
「上等だコラァ!」
あたしはレスリングで培った全てをトオルにぶつける。けれど安全を考慮しただのスポーツと成り果てた格闘技なんて奴に通用するはずもなかった。
叫びながら繰り出した大振りな攻撃をトオルは最小限の動きで回避し続け、無言であたしの腹部に拳を撃ち込んだ。
「ごふッ!」
まるで砲弾を食らったかのような重い一撃にあたしの意識は昏倒し立つ事も出来なくなる。土の上に横たわったあたしをトオルは哀れむかのような目で見降ろしていた。
「やっぱりお前は……変わらないな。姿が変わっても」
こいつは何を言っているのだろう。だけどもう何も考える事が出来ない。
ごめんな、ヒロ、みのり……あたしはここまでみたいだ……負けるんじゃねぇぞ……。