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1-16 幸せの鐘と貝殻に想いを託して

 そして次に訪れたのは高台にある幸せの鐘という場所だ。崖下には干潮時のみ現れる砂浜があるけど、戻れなくなると困るから今回は見下ろすだけにしておこう。


 ゴーン。ハンマーで鐘を一緒に叩くと低い音色が鳴り響き、僕らは互いの幸せを願う。だけど僕はそこである事に思い至ってしまった。


「これって確か恋人が叩く奴だよね。僕らの場合はどうなるんだろう」

「は! いけません、叩いてしまいました! ワタシはみのりさんと結婚しないといけません! キスミークイックデス!」

「し、しなくていいから!」


 ナビ子ちゃんは終始ハイテンションで、唇を突き出しぶちゃいくな顔になってキスをせがんでくる。僕は彼女を押しのけ仲良くイチャついていたんだ。


 僕とナビ子ちゃんは仲良しだと思っているけどそういう関係ではない。もちろんそういう価値観は別にいいんだけど。


「おや、これは」


 ナビ子ちゃんは近くにある貝殻に気が付く。たくさんの貝殻は絵馬のように紐に取り付けられ、そこには何かの文字が書かれていた。


 一部は紐が切れ落下して割れてしまい、その多くは風化で色褪せ読み解く事は出来なかったけれど、ここを訪れた多くの人が愛する人への言葉を綴ったのだろう。


「生まれ変わってもずっと一緒だよ、か」


 僕はその文章を口にする。かすれてはいるけど多分そう書いてあるのだろう。名前の部分はわからなかったけど、桃、羽と書かれている事はわかる。


「これを書いた人はさすがにもう死んでいるだろうね」

「はい。来世でも仲良くなる事が出来たならいいデスね」

「ナビ子ちゃんはそういうの信じるんだ、ロボットなのに」

「ロボットでも見えないものを信じてもいいじゃないデスか」


 ふふ、と優しく笑う彼女に僕は何も言えなかった。なぜなら僕もこの人たちが報われてほしいと心の底から願っていたのだから。


 僕も気付いている。この楽しい日々はいつか終わるのだと。この名前も知らない恋人たちがそうであったように。


「折角なのでワタシたちも書いてみましょうか」

「うん、いいね」


 だから僕はここにいたんだって証に残すんだ。少しでも、そのどうしようもない不安に抗うために。


『ずっとずっと友達だよ 鈴木みのり ナビ子』


 そして僕たちは貝殻にそう書いてみる。シンプルだけどこんなもんでいいだろう。だけどナビ子ちゃんはちょっと不満そうだ。


「もうちょっと捻りましょうよー。空白も多くてなんか寂しいデスね。絵でも描いてみますか?」

「じゃあそうする?」

「はい!」


 ナビ子ちゃんはキュキュッとペンで僕たちの顔のイラストを描き、それは満足のいく仕上がりだったらしくよし、と笑顔になった。


「へたっぴだね」

「味があると言ってください!」


 その絵は子供が描いたようなとぼけた表情でお世辞にも上手いとは言えない。でも、これを見た誰かはとてもほっこりした気分になるのは間違いないだろう。


 そして僕らはその場を後にする。誰もいなくなった丘で貝殻は風に揺られて光を反射し、朧げにきらめいていた。

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