6-22 東北の英雄たち
そしてヒロたち一行が病院を出ていったのを見送った希典はさらなる増援と対峙する。怪物たちは敵意をむき出しにしていたが、彼はそんな事をお構いなしに一升瓶を片手に一休みしていた。
「シャアアア!」
怒ったビヤークは空から希典に強襲する。しかし二発の銃声が鳴り響き異形のモノは地面に墜落して絶命した。
「遅いじゃないの」
「すみません、手間取ってしまって」
怪物を迎撃したのはボランティア団体、チーム明日花の古参メンバーのヨシノ。彼はいつものように表情一つ変えず銃を撃って淡々と化け物を撃破していった。
「遅くなってすまないね。後は僕らに任せるといい」
「す、澄州知事!? どうしてここに!?」
警官はそこにいるはずのない人物を見つけて大層驚いてしまう。そこにいたのは敏腕で知られる鳥取県知事の澄州銀二だったのだから。
「大きな戦は大将が自ら動かないとね。それに何より久しぶりに暴れる事が出来るからさ。こんな楽しいイベント、参加しないわけにはいかないだろう?」
銀二はかつての世界同様、ウィッグをたなびかせ不敵に笑いながら日本刀でゾンビを切り裂いていく。
鮮血はまるで大衆演劇の紙吹雪の様に華麗に散る。それはまるで優美な舞いを踊っているかのようで、美麗なる羅刹に警官たちは戦いだという事を忘れて魅了されてしまったのだ。
「ふににー! がんばるのー!」
それとは対照的に電信柱を振り回して豪快に戦うのはいつぞやかの金髪ロリだ。彼女は単独で大勢の敵をなぎ倒し、おそらくこの中では希典の次に実力のある人物だろう。銀二はその戦いぶりを見てふふ、と笑みを浮かべた。
「君たちチーム明日花に依頼して正解だったよ。ミヤタ、無事に戦いが終わったらホテルでのバイキングをプレゼントしよう。僕のおごりだから好きなだけ食べていいよ」
「うん、がんばるの!」
「じゃ、ちゃちゃっと片付けようか」
ミヤタとヨシノはその言葉によって奮起する。英傑たちが集結し、する事が無くなった希典は呑気に酒を飲んで本格的に休憩タイムに入った。
「じゃ、俺っちもそろそろ休むか。これ以上は因果を乱すし」
「ええ、あなたも歳なんですから無茶しないでください」
「はいよー」
銀二の嫌味を気にする事なく彼は病院に戻った。折角だし負傷者の手当てほどはしておこう。
「あ、希典さん、外はもういいんですか?」
「うん、俺っちはこっちを手伝うよ、恵」
彼は病院の中で先に負傷者の治療をしていた荒木グレイスの社長、荒木恵と合流する。微笑む彼女はヒロに薬を投与した時同様、意味もなく看護師の変装をしていたので割と余裕はあるようだ。
「さて、こっちも頑張るとしよう。死人は一人も出さないようにね。また変な薬使っちゃダメよ?」
「もちろんです」
恵は苦笑し希典とともに負傷者の手当てを行った。彼女たちの働きで病院での犠牲者は一人も出なかったが、その功績は裏の力により徹底的に秘匿され人々に知られる事はなかったそうだ。