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6-21 因果の外側にいる者

 さあ、後は白倉山に向かうだけだ。気合を入れ身を翻したその時――。


 ズゥン!


「ッ!?」

「きゃあああ!」

「うわあああ!」


 まるで大型トラックが突っ込んだかのような轟音が聞こえ、俺達は慌てて音がした病院の入り口に視線を向ける。


 そこには木っ端みじんに破壊されたバリケードの残骸があった。避難民たちは喚き散らし、悲鳴を上げその無慈悲なる殺略者に恐れおののいていた。


「ウウウゥウウウ」


 それはガブリヘッドに似ていたが大きさがあまりにも違い過ぎる。サイズは六メートルほどあり、四本の腕を持つ異形の巨人はバリケードの残骸を押しのけ、その悍ましい顏で建物の内部をのぞき込み裂けた口を大きく開いた。


 そこに存在するだけで圧倒的な絶望感を抱かせるそれは今まで戦ってきた怪物とは次元が違う。俺はそれを見てすぐ、この化け物は人間などという矮小な生命体が敵う相手ではないと理解してしまった。


 そいつの名は眷属ガブリガルグ。あらゆるものを破壊する怪力で、かつての世界で多くの無力な人間を蹂躙した最強クラスのクリーチャーだ。


「逃げろ! まともに戦って勝てる相手じゃない!」

「あ、ああ!」

「ヴオオオオォオ!」


 俺の叫び声はガブリガルグの咆哮によって掻き消される。奴は病院内部に侵入しようとまずは入り口を破壊し始めた。


 鉄筋コンクリートの病院はまるで張りぼての様に容易く破壊される。あの中を強行突破するのはあまりにもリスクが大きすぎるだろう。


「死にたくないよぉ!」

「なんで、こんなのが……!」


 人々は恐怖し正常な行動がとれなくなる。これでは確実に死人が出るだろう。しかしもう俺達には避難民を気遣う余裕はなかった。


「ヒロ君、つるぎちゃん! 無事でいて!」

「はい! 行くぞ、つるぎ!」

「逃げるしかないのか……!」


 俺たちはみのりの母親に別れを告げ病院からの脱出を図る。心苦しいが今は自分たちの身を護らなければ!


「ヴッォオ!」

「うげ、こっちに来やがった! 走れ、ヒロ!」

「わかってる!」


 さて、幸か不幸かガブリガルグは俺たちに興味を示してしまった。他の人間に攻撃がいかないのはありがたいが俺達としてはたまったものではない。


「オオオオオ!」

「ひぃ!?」


 ガブリガルグは四本の腕を振り回し外壁を破壊して俺たちを叩き潰そうとする。こういうデカい怪物からひたすら逃げるゲームがあったなあ、とどうでもいい事を思いながら俺は死に物狂いで走り続けた。


「畜生! 無茶苦茶しやがる!」


 そう言いながらもつるぎはみのりを背負っているというのに俺よりも素早く動いていた。本当にこいつは大したメスゴリラである。


 けれど出口は、出口はどこだ。このままじゃやられる……!


 だがその時ようやく光明が差した。俺たちは裏口であろう殺風景な扉を認識する。バリケードもない、ここなら通り抜ける事が出来る!


「あそこから出れるぞ!」

「ああ!」


 俺はドアを勢い良く開けて飛び出る。ただ外に出たのはいいが、もちろんガブリガルグとも直接対峙するわけで。


「ヴオオオオオン!」

「逃げるぞ!」

「わかってるよ!」


 ガブリガルグは腕を振り下ろし鉄槌のような一撃を繰り出す。それを回避した直後、破砕音とともに細かなガラス片が首筋に飛んできた。


 一瞬だけ後ろを振り向くと駐車された車が巻き添えを食らい、一撃で押しつぶされてスクラップになっている。人間がもしあの攻撃を食らえばひとたまりもないだろう。


 俺たちはひたすら逃げるがある事を失念していた。病院の入り口には多くの警察官がいた事を。


 最初に現れた段階ですでに大打撃を受けていたであろう全員傷だらけの彼らは、怪物の再来にひどく絶望した顔になったが無謀にも抗う事を選択してしまった。


「化け物めッ!」

「こんな奴、ニューナンブでどうしろって言うんだッ!」

(まずいな……)


 警察官は拳銃を発砲するがガブリガルグにとっては小石を投げるような攻撃だ。もし俺たちがこのまま逃げればあいつはこの警官たちを次の標的に選ぶだろう。


 けれど俺はみのりとつるぎを護らなくちゃいけない。一体どうすればいいんだ……!


「お疲れちゃーん」

「え!?」


 だがその時聞き覚えのある気だるげな声が聞こえ、ガブリガルグの四本の腕は切り落とされズシン、と地面に落下した。


 苦悶の声を上げている間に、爆発音とともに頭部が爆ぜガブリガルグはその場に崩れ去ってしまった。転倒の衝撃は凄まじく地面が揺れて俺たちは思わずよろめいてしまう。


「いよっす」

「ま、希典先生!?」


 そこにいたのは希典先生だった。しかもその時の彼は普通の姿ではない。彼は相変わらずニマニマした笑みをしていたがその両腕は鋭利な刃物に変わっていたのだ。


「ウウウウウ」

「おっと」


 その時増援にゾンビやガブリヘッド、シラクラプトルが現れる。しかし彼は笑みを崩さず、敵の群れへと突っ込んだ。


「あたしを食べてねん」


 そして爆音とともに希典さんの肉体が爆ぜる。それは命と引き換えに確実に相手を殺せる自爆攻撃だ。普通に考えればとるはずがないであろう行動に俺たちは絶句するが、周囲の状況を確認しさらに驚愕してしまった。


「鬼さんこちら」

「手のなる方へー」


 何故ならそこには数十人の希典さんがいて、その肉体を銃火器や刃に変え容易く雑魚敵を蹴散らしていたのだから。


 自爆攻撃などで多少数が減っても彼は鼻歌交じりに分裂し続々と数を増やしていく。分裂の速度は異常というほかなく、頑張って一人を殺してもなんの意味もない。化け物如きに彼を止める事なんて出来なかった。


「んばー!」

「ウオオオオ!?」


 カエルの様に頬を膨らませた彼は口を開き、吐しゃ物をガブリヘッドに勢いよくぶちまける。それは高濃度の酸だったらしく、ガブリヘッドの頑丈な頭は焼けただれ苦しそうに絶命した。


「くるくるー!」


 ある希典さんは両手をチェーンソーに変化させ、コマのように回転しながらシラクラプトルを狩っていた。


「弾幕薄いよー!」


 別の希典さんの胸部のガトリングによる弾幕の嵐は、敵を一切寄せ付ける事無くあっさりと撃破していく。


「な、何だこりゃ。希典さん、あんたは一体……」


 そのどれもが狂ったような攻撃方法で、あり得ない状況に混乱する俺に希典さんは笑って告げた。


「そこの痛車を使いな、鍵はつけっぱだから。バズーカくらいなら耐えれるように改良してるよ」

「ッ! は、はいッ!」


 そうだ、ものすごく気になるが今はみのりだ。希典さんの無双を眺めている場合ではない。俺は彼が普段から乗っている痛車を発見し運転席に乗り込んだ。


「つるぎ、急ぐぞ!」

「この車に乗るのか、ちょっと嫌だな。けどお前運転は出来るのか?」


 つるぎはそう言っていたが躊躇なく後部座席にみのりを寝かせたあと助手席に乗り込む。そんな彼女に俺は自信満々でこう言った。


「レーシングゲームの全国大会で上位ランカーになった事はある!」

「そりゃ頼もしいな!」


 彼女は苦笑していたがシートベルトを身に着ける。これだけ強い希典先生がいれば問題ないだろうしとっとと白倉山に急ごう!

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