6-17 ネズミ軍団の救援
パープルシティの内部には大勢の避難民がいたようですが、流石に火事では脱出せざるを得ません。
予想通り人々は大混乱に陥っていて周囲の人間を押しのけ我先に逃げようとしていました。この状況では無理もありませんけれど。
「また逃げるの!? もう嫌よ!」
「てめぇ押すなよ!」
「おいコラちったあ冷静になれヨ!」
「ど、どうしましょう?」
山口さんの呼びかけに誰も聞く耳を持たずこれでは避難誘導どころではありません。むしろ選択肢を間違えればさらに混沌とした状況になるでしょう。
「ここはぼくにまかせてー! かもーん!」
「ちー!」
「え?」
ですがもふもふ君が両手を挙げてそう叫ぶとどこからともなくどたどたという猛牛の群れのような音が聞こえてきました。私は最初それが何なのかわかりませんでしたが、すぐにその音の主がやってきます。
「ちー!」
「ちー!」
「ちー!」
「わー!?」
それはネズミ君の大群でした。大量のネズミ君は障子を破るように壁を容易く噛みちぎり、それはほんのりホラーな光景でした。
「に、逃げるんだ!」
しかし入り口が大幅に拡張された事によって避難民の逃げるペースが大幅に増加しました。結果、店内のほとんどの人が脱出に成功します!
「もふもふ君たちはこんな事も出来たんですね、すごいです!」
「ドヤァ」
「ちー」
もふもふ君は誇らしげでいつもにも増してもふもふしている気がしました。無茶苦茶なやり方ですけど結果良ければすべて良しとしましょう。
「おーい、生きてるカ!?」
「う、うん」
「って、柴咲さん!」
私がおしゃべりしている間に山口さんは逃げ遅れた柴咲さんを救出しました。彼女は左足を怪我していましたがどうにか立つ事は出来るみたいです。
「無理しないでください、ほら、私が肩を貸すので」
「す、すみません。でもまだ二階にマルちゃんが!」
しかし彼女と一緒に脱出しようとすると柴咲さんからそんな事を伝えられました。それは大変好ましくない情報です。
「天神さんが!?」
「それはたいへんだー」
二階は一階よりも激しく燃えていて早めに行動しなければ取り返しのつかない事になります。けれど柴咲さんも放ってはおけません。ですがその時山口さんがこう言いました。
「わかっタ。アタシが二階に向かう。うみちゃんはそいつを任せタ!」
「ぼくもいくよー!」
「ちー!」
「は、はい、気を付けてください!」
「お願い、マルちゃんを助けて!」
私も柴咲さんもただの無力な人間です。何も出来ず、自分の身を護るために逃げるので精いっぱいなので心配だとしても山口さんたちに頼るほかありませんでした。
私たちは不安な気持ちで一杯でしたが彼女たちを見送りました。必ず無事に生きて再会出来るよう神様に祈って。