6-15 白倉防衛戦
俺と行動を共にするつるぎは町を駆けまわりながら、化け物たちに壊されていく白倉を悔し気に眺めていた。
「あたしらの町で好き放題しやがって……!」
「お前も防衛に回りたいか?」
「……いや、あたしたちはみのりを優先しよう」
彼女の気持ちをおもんばかってそう尋ねるがつるぎは首を横に振る。俺も葛藤はあるがここはグッと我慢しよう。
「けど目の前にいる雑魚敵くらいは通行の安全のために蹴散らしてもいいぞ」
「ああ、そうだな。行くぞ、ヒロ!」
つるぎは放置自転車を武器にしてその怪力でガブリヘッドの群れをなぎ倒す。龍が〇くではよく見る光景だが実際にやるには相当な筋力が必要なんだよなあ。
「あんまり町の物を壊すなよ!」
俺は催涙スプレーとネイルガンを使って彼女の援護に徹した。何だか後ろでちまちまと戦うのが主人公らしくなくてちょっぴり悲しいけれど。
「キシャアア!」
「おっと! ヒロ、新手だ!」
「わかってる!」
ガブリヘッドたちを片付けたと思ったらまたしてもシラクラプトルの群れが増援として現れる。まったく鬱陶しいったらありゃしない!
「ドラァッ!」
「せいッ!」
「ッ!?」
しかし屋根の上から現れた人間たちがゴリラの雄叫びとともに放ったキングコングニードロップによって恐竜は撃破される。二人はすくっと立ち上がるとこちらに振り向いて親指を立てて笑ったのだ。
「親父!? 母ちゃん!?」
「随分と面白い事してるじゃねぇか。俺も混ぜろ」
それは真壁夫妻であり、二人はエプロンのまま怪物たちと交戦を開始する。あのゴリラの両親だけあってその腕っぷしの強さは彼女と比べてそん色ないどころか上位に位置する。戦闘スタイルをレスリングではなく喧嘩に限定すればつるぎよりも強いのではなかろうか。
「そっちに行ったぞ!」
「俺に任せろ!」
二人だけではない。援軍として現れた町の人々は武器を手に取り白倉を護るために戦っていたのだ。その多くは金属バットや角材といった原始的な武器だったが、俺にはこの上なく頼もしく見えたのだ。
「ババアを舐めるなァ! イッヒャッヒャッヒャーッ! わしに抱かれたい奴はどこのどいつじゃあッ!」
ちくわの飼い主であるハッスルばあさんも、悪魔の槍の様な三枚鍬を如意棒のように巧みに扱い化け物を蹴散らしている。それを見て俺は思わず、
「鳥取のババアはなんて元気なんだ!」
と自然と口に出てしまい思考をする事が出来なくなってしまったのだ。
「シャアアア!」
「オウンオウン!」
ちなみにちくわは画面の端のほうで頑張ってシラクラプトルのしっぽに噛みつき、ぶんぶんと振り回されてそのもちもちボディを揺らしているぞ。何だか遊んでいるように見えるのは気のせいだろうか?
「な、何してんの親父、母ちゃん! 早く逃げないと!」
「バカ言え、俺はお前も知っての通り若いころはそれなりに名の知れた喧嘩番長だったんだぞ」
「そして私はそいつを倒して自分の男にして、一緒に広島から攻めてきた暴走族を壊滅させた裏番長よ?」
「ギィエ!?」
おばさんはニカッと笑うとその辺に転がっていたシラクラプトルのしっぽを掴み、回転しながら片手で投げ飛ばし空を飛ぶビヤークを迎撃した。この一家にとっては倒れた敵はオブジェクト武器という認識らしい。全く恐ろしい親子だ。
「見てのとおり俺たちは問題ない。白倉は俺たちが護る。お前たちは自分のすべき事をしろ!」
「は、はい!」
真壁父に俺は思わず姿勢を正して敬語を使ってしまう。なんて頼もしい家族だ。うちの一家はこんな化け物一家と家族ぐるみの付き合いをしていたんだなあ。
「やれやれ、親父も母ちゃんも年甲斐のない事をするなよ」
一方のつるぎは無双をする両親を見てちょっぴり恥ずかしそうだった。だがもうそこに不安げな表情は一切ない。
「けどそうだな。ここは皆に任せよう。行くぞ、ヒロ!」
「ああ!」
こんなに頼もしい人々が町を護ってくれるのなら俺達の出る幕じゃない。ここは皆に任せてみのりがいる病院に急ぐとしよう。