6-13 戦いに赴く我が子を見送る親
――御門善弘の視点から――
ぴーひゃら、ぽんぽん。
ぴーひゃら、ぽんぽん。
「うぐ……」
脳味噌をかき乱す笛と鼓の音が脳内に直接響き、俺は頭を抱えながら無理やり上体を持ち起こす。
やはり最後に動画を見た自室のゲーミングチェアに俺は座っていた。頭痛がするが今日ばかりは二度寝をするわけにはいかない。
時刻は朝の五時五十八分。久しぶりにこんな早起きしちまったよ。今日ばかりはゲームもログボを回収するだけにとどめておこう。
頼みの綱である改造ネイルガン、催涙スプレーも準備して。職質をされたら一発アウトだろうな、と思いつつ俺は最低限の身支度を整えた。
おっと、ナビ子から預かった衣装を忘れるところだった。取りあえずタンスの中にでもしまっておこう。中身がぐちゃぐちゃだったから自分の服をどかして詰め込んでと。
『――です』
「?」
だがその最中防災無線の音が聞こえてくる。性能が低いせいで音が割れておりハッキリと聞き取る事は出来なかったが。
『――地区に、避難勧告が――』
「避難勧告……?」
その単語だけはわかったのでリュックを背負った俺は、取りあえず天気を確認するため窓から外を眺めてみる。
「おいおい」
だがそこに広がる異様な光景に俺は寒気がしてしまう。空には赤と紫のオーロラがうごめき、白倉はまるで異界のような空間に変わっていたのだ。
人里離れた村とホラゲは相性がいいけど、不気味過ぎるこれを見ればそれがなぜ好まれるのか納得してしまう。
何かのイベントというわけではないだろう。こんな大掛かりな事が出来るのなら今頃白倉はもっと賑わっている。
「嫌な予感がギンギンにするけど、やるしかないな」
部屋から出ると居間からテレビの音が聞こえてくる。母さんたちもこんな時間から起きているのか、と思いつつ最後の戦いを前に顔を合わせる事にした。
「あ、ヒロ! 戻ってきたのね!」
「すごく心配したんだよ?」
二人は突然いなくなった俺を目撃し安どのため息をつく。毎回毎回心配させたけどそれも今日が最後だ。全部が終わればちゃんと埋め合わせをしておこう。
「ああ、そこは悪いと思っているけど……穏やかじゃなさそうだな」
『――未明から、中国地方を中心に発生した暴動は――』
テレビで放送していたのは国営放送の臨時ニュースだったが、画面の中には炎に包まれた山陽の都市が映っており、そこにはぴーひゃら、ぽんぽん、とお決まりのフレーズをうめき笑いながら暴れる暴徒の姿があった。
「ヒロがいない間に大変な事になっていたの。白倉でも暴動が起こって避難勧告が発令されたわ。一緒に私たちと早く避難しましょう」
「ふーむ、こりゃえらいこっちゃ」
母さんも含め多くの人々は突如として発生した暴動の理由がわからないだろうが、俺にはわかる。言うまでもなくオクラとオヨシによるものだ。
これほどの規模になれば一般人の俺には何も出来ない。政府直轄のよくわからない特務機関みたいな組織が上手い具合にやってくれるように祈る事しか出来なかった。
やれやれ、もう少し楽出来ると思ったが残念だ。
「けどごめん、俺には行く場所があるから」
「え? もしかしてつるぎちゃんのところ? で、でも」
「それもあるけど……ごめん」
俺は断腸の思いで謝罪の言葉を口にする。だけど母さんは引く事はなかった。
「な、何言っているの。今日ばっかりは大人しくしたほうがいいわ」
「母さん」
その時父さんが母さんの肩にポンと手を置く。そして、優しく首を横に振った。
「今はとても危険だけど、命を懸けてでもどこかに行かないといけないんだね?」
「……ああ。俺はもう逃げるわけにはいかないから」
そして、父さんもまた覚悟を決めたように微笑んだ。
「そうか、なら仕方ないね。子供が命よりも大事なもののために戦うなら親に出来るのは見守る事だけだ。邪魔をしちゃいけないからね」
「あなた!?」
意外な場所からの援護射撃に俺は驚いたが、母さんもまた熟考ののち決心する。
「わかったわ。私たちはヒロの学校に避難するからヒロも用事が済んだらどこかに避難しなさい。絶対に怪我しないで、無事に戻って来てね」
「ああ、わかってるよ」
俺は安心させるように笑みを見せると、振り返る事なく玄関の扉を開いた。
母さんと父さんの事も心配ではある。けれど俺にはするべき事があるんだ。
さあ、これが最後の戦いだ。
戦いに必要なのは武器と絶対に生き残るという強い信念。勝利を掴み、全てに決着をつけるんだ!