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6-9 砂焼きコーヒーを恋の思い出と嫉妬とともに

 鳥取草原で遊びへとへとになった僕たちはすなばっか珈琲に戻り一休みをする事にした。終末の世界とは思えない綺麗でオシャレな内装は、廃墟に慣れた僕にはどうにもこうにも落ち着かない。


 もっとも最大の理由はそこにある地下へと続く階段だけどね。あの先にあった光景は今まで一番のトラウマ画像だったから。


「おお、なかなか良いコーヒー豆デスね。ちょっと拝借しちゃいましょう」

「大丈夫なの、数百年モノだけど。って何それ、随分と新しそうな」


 キッチンを借りたナビ子ちゃんの手元にはポーションタイプのミルクや真新しいコーヒー豆があり、それはこの世界ではまず見つける事の出来ないものなので僕は驚いてしまった。


「ああ、どうやらここはトオルさんや希典さんが拠点にしていたようデス。腹いせにちょっとつまみ食いしてしまいましょう」

「そ、そう、大丈夫なのかな」


 ナビ子ちゃんはニヤリと不敵な笑みをするけれど、僕からすれば彼らはラスボスコンビだからちょっぴり怖い。


 でも彼女にとっては昔の仲間だし大丈夫なのかな? 親しき中にも礼儀ありということわざもあるけど。


「大丈夫デスよ。このダックワースも食べちゃいましょう。みのりさんを怖がらせた罰デス!」

「まあナビ子ちゃんがそう言うのなら」


 ビクビクはしたけれどやっぱりスイーツの魅力には叶わない。あのトオルには戦っても絶対に勝てないだろうからささやかな復讐をしてやろう。


 さて、そんなわけでこの世界ではお金を出しても出来ないお菓子付きのコーヒーブレイクが始まる。


 ナビ子ちゃんと向かい合って座った僕はミルクをかき混ぜ、まずはコーヒーを一口飲んだ。


 うーん、コーヒーの味だ。僕は別にコーヒー党ではないので味がよくわからずそんな感想しか出てこない。


「トオルさん、しっかり砂丘の砂で焙煎しちゃって。相変わらずこだわっていますねー。勝手に飲んじゃって今更ながら怒られないか心配デス。食べ物の恨みは怖いデスから」

「トオルって人はコーヒーが好きだったんだよね」


 タイムカプセルの中にコーヒーのレシピを入れるあたり彼がコーヒー好きなのは間違いない。僕は少しだけトオルに興味を抱き情報を探る事にした。


「それにナビ子ちゃんの恋人で……ハーレムとかで……」


 ま、一番の理由はこれだけどね。ナビ子ちゃんの親友を自負する僕からすれば色んな意味で宿敵だ。


 もし僕が親父で、娘が彼氏を連れてきて、彼氏が娘を俺のハーレムの一員にさせてくださいなんてふざけた事を抜かせば躊躇なくパイルドライバーをぶちかますだろう。僕は正直研究所の事もあってトオルという男にいい印象は一切なかった。


「はい、トオルさんは本当にコーヒーが好きでした。バスのバックミラー越しに窓から外を眺めながらコーヒーを飲むトオルさんの横顔を見るのが、運転中のささやかな楽しみでしたね」

「そう」


 僕はそれを聞いてしまってまあまあ後悔してしまった。だってこんなに乙女チックな照れた顔をされたらね。


「コーヒーの香りを嗅ぐとバスで過ごした日を思い出してしまいます。ワタシは何度かトオルさんにコーヒーを淹れた事がありますが彼が本当に満足する一杯は作れませんでした。それで試行錯誤をしているうちに世界が滅んじゃったわけデス」

「ふーん」


 つまり僕が今飲んでいるコーヒーも、元々はあいつのために頑張って作ったものという事か。


 僕はブスっとしてダックワースをもしゃもしゃとかじる。サクサクとした食感も香ばしいアーモンドの香りも悪くない。僕はこの美味しさにすら腹が立ってしまった。


「みのりさん、どうしてそんなに不機嫌そうなんデスか? もしかしてやきもち妬いてます?」

「べ、別に妬いてないよ」

「本当デスか~?」


 ナビ子ちゃんはニヤニヤしながら僕をからかう。全くもってそのとおりだけど認めたらもっとからかわれるだろうから絶対に言わないさ。


 ああもう、トオルめ、覚えていろよ! これで勝ったと思うなよー!

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