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6-8 鳥取砂丘改め鳥取草原

 さて、星鳥市で一番の観光スポットと言えば言うまでもなく鳥取砂丘だ。鳥取砂丘は鳥取で一、二を争う観光名所であり、梨と同じくらいに行政もあちこちで推している。観光バスとかにも絵が描かれているし。


 けれど数百年の歳月と言うものは実に残酷なもので。


「我らの鳥取砂丘が……大草原になっとるデス!」


 ナビ子ちゃんは変わり果てた鳥取砂丘、もとい鳥取草原を前にしがっくしと膝から崩れ落ちて地面に手をついてしまった。


「鳥取砂丘は油断するとすぐに緑地化するからね。砂丘を維持するために星鳥市民はボランティアという名目で毎年半強制的に除草作業に駆り出されるんだよ」


 世界では至る所で砂漠化を防ごうとしているのに鳥取砂丘では長年真逆の努力が求められていた。それはひとえに貴重な観光資源を護るためである。


「まあいいデス。これはこれですごく素敵な場所デスし」


 ナビ子ちゃんは気を取り直して撮影を再開する。海風によって揺れる草原は波打つように輝き、風を目で見る事が出来る。砂丘の風紋とはまた違った魅力がある事は確かだ。


「じゃ、早速アクティビティを楽しみますか!」

「そだね」


 こんな状態の鳥取砂丘で遊べるのは終末だけだ。だから思う存分堪能するとしよう。


 んで。


「ひゃっほー!」


 僕たちは砂丘でサンドボードならぬグラスボードをしてはしゃぎまわる。互いにレースの真似事をして見たけれどナビ子ちゃんは一切手加減をしなかった。結果は言わなくてもわかるよね。


 僕なんてバランスを取るだけでやっとなのに。けどサーフィンをするように草原を動き回るナビ子ちゃんを見るだけで僕は楽しい気持ちになれる。


「そいやー!」

「おお」


 ナビ子ちゃんは跳躍し大技を決めたので僕は思わず見とれてしまった。なんか空中で十回くらい回転してるけどなんて技なんだろう。


「わわっ!?」


 案の定よそ見をしていた僕は盛大に転倒する。草原だから怪我はしないけど地味に痛かった。


「ありゃりゃ、みのりさん大丈夫デス?」

「平気だよ。けど上手く出来ないし僕はこのへんにしておくよ」


 とてて、と心配そうに駆け寄ったナビ子ちゃんに僕は笑ってそう返答した。大怪我をしても治療出来る場所はないし、運動音痴の僕はここで手を引いておこう。


「わかりました、では別のアクティビティにしましょうか」

「え?」


 んで。


「何で僕は空を飛んでるのー!?」


 僕は何故かパラグライダーで空を飛んでいたので、たまらず絶叫してしまう。


「だからノリノリで準備してたじゃないデスかー!」

「そうだけどー!」


 少し離れた場所で同じく空を飛んでいたナビ子ちゃんはやっぱりはしゃいでいるけれど、僕はかなりビビっていた。けれど慣れてみれば意外と楽しかったりもする。


 飛行機には何度も乗った事があるけれどパラグライダーは未経験だ。身一つで宙に浮くという体験はなかなか心躍るものがある。


 眼下に広がる大草原と紺碧の海。重力から解き放たれ全ての自由を得た僕は、何物にもしばられずに空を飛びつつける。


 この開放感はたまらない。空に憧れを抱く人間の気持ちがわかる気がした。この素晴らしき世界に恋い焦がれるのに理由なんて必要ないんだ。


 唯一の不安はパラグライダーがつぎはぎだらけという事か。ナビ子ちゃんが応急処置で直してくれたけれど。


 ビリ。


「あ」


 ほい、自由時間終了。僕はあっさり翼をもがれ地面に落下しちゃいました。幸いにして地面に近いところで落下したけれど地味に、滅茶苦茶痛かった。


「ひゃー! みのりさん、大丈夫デスか!?」

「あははっ」


 ナビ子ちゃんはすぐに空から降下し僕の下に駆け寄ってくる。すごく痛かったけれど、意味もなくおかしな気分になって思わず笑ってしまった。


「おや、変なところを打ってしまいましたか?」

「ううん、何だか楽しくて。昔はよくこんな感じでヒロたちと無茶したのを思い出してね」

「そうデスか、それは何よりデス!」


 ナビ子ちゃんは安心してにっこりと笑ってくれる。僕は全身の土ぼこりを払い身体を頑張って持ち上げた。


「けど流石にここまでにしておこうか。やっぱり僕はインドア派だったよ」

「そうデスねー。はしゃぎすぎて最終決戦に参加出来ませんでした、っていうのはちょっとアレデスし。痛くないデスか?」


 名残惜しいけど僕たちは撤収作業を始める。うーん、これあざ出来ちゃうだろうなあ。いたた。


「痛いけど、僕は何だか幸せだね」

「へ? そっちだったんデスか」

「もちろんそういう趣味じゃないよ、ヒロじゃあるまいし」


 ギョッとしたナビ子ちゃんに僕は笑いながら答える。


「この痛みは楽しい思い出が形になったものだから。この時間が幻じゃなかったって実感出来るからさ」

「そうデスか、ワタシにはわかるような、わからないような。人間さんは未だに理解出来ません」

「わからなくてもいいよ、人間が何なのか人間だってわかってないんだし」


 エラーを起こして悩んでしまう彼女に僕はそう告げてパラグライダーを片付けた。


 さて、時間が惜しい。もっと遊んでいたいけどとっととこの場を離れよう。


 だってもう僕には、ナビ子ちゃんと過ごす時間はあまり残されていないのだから。

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