6-5 フィギュアの博物館でデート
そして記念すべき初デートのトップバッターを飾るのは、ドゥララララ。これはドラムロールのつもりだ。
「なあ、ここをデートの一発目で持ってくるってお前なかなか勇気があるな」
俺達がやってきたのは白倉フィギュアミュージアム。円形の校舎を再利用して作った様々なフィギュアが展示されている白倉の観光スポットだ。どちらかというと特撮やロボットアニメ、少年漫画系のフィギュアが多いが正直デート向きではない事は重々承知だ。
「惚れるなよ」
「いや褒めてないからな?」
つるぎは呆れて笑ってしまうがそもそも俺たちはデートではなく遊びに来たのだ。前からずっと行きたいとは思っていたし、口ではああいった彼女もどことなくワクワクしているようにも見える。楽しめれば何でもいいだろう。
「おお、これがシラクラプトルか。よく出来てるなあ」
「そもそもシラクラプトルは架空の生き物だけどな」
つるぎは寄付を募って作られた博物館自慢の作品、シラクラプトルをしげしげと眺める。それはとてもリアルに作られ、魂の込められた匠の逸品は今にも襲い掛かりそうなほど生き生きとしており、ラスダンに出てくる最強クラスの雑魚モンスターみたいで実に強そうだ。
「もっと言えば元ネタのヴェロキラプトルはあの映画に出てくる姿とは全然違うらしいぞ。七面鳥くらいのサイズで」
「へー」
俺が雑学を披露するとつるぎはそれだけしか言わずに眺め続ける。興味を失うまで俺は別の物を見るとしよう。
フィギュアの博物館である以上もちろん美少女フィギュアもある。俺はゲーマーであってフィギュアにそこまで関心はないオタクだが、そのキャラクターは俺の好きなゲームの登場キャラであり、それだけで興味を引くには十分だった。
しかしこれ、見えそうで見えないな。これが俗に言うはいてないというアレか。ローアングルで見れば、ううむ。
俺はリンボーダンスをするように膝だけを曲げてこれでもかと背中を低くする。あともうちょい、もうちょいぃ。
「何してんだ?」
「スカートの中を見ようかなと」
「ああそう。絶妙にブルマ的なものをはいてるけど」
「むう、それは残念だ」
戻ってきたつるぎに俺はそう返事をしてぐにゅん、と気持ち悪い動きで元の姿勢に戻る。その後、一言も発さずに作品の鑑賞を続けていたが俺は耐えきれずに言った。
「何か言ってくれ。罵りの言葉でもいい。そうすれば俺は救われるんだ」
「いや、何も言わないのも優しさかなと」
「それがどれだけ残酷だとわかっているのかね!」
「えー」
熱弁する俺に向けられるつるぎのゴミを見る視線がとても気持ちがいい。ああ、やっぱり俺は本当にマゾだ。この幸福のためなら喜んで恥を晒そう。
しかしこれ以上掘り下げると友情に亀裂が入りかねない。それを察してくれたのかつるぎは話題を変える意味も込めてあるフィギュアに興味を示した。
「おお、ハ〇ク・ホーガンのフィギュアだ。こんなものもあるんだな」
「こっちには純金の猪〇もあるぞ。きれいなアゴをしてやがる」
どうやらプロレス好きな神様はこの博物館も侵食していたらしい。だがつるぎはここに来て一番興奮していたので別に俺はそれでもよかった。
「楽しそうだな」
「まあな。こういうのって結構プレミアがついていて買えないものも多いんだよ。数万はザラで、これも三十万はくだらないぜ。その猪〇にいたっては純金な上に数量限定だからわかるだろ? まあそのまま置かれているからレプリカかもしれないけど」
「かもな」
俺は同意したがこのサイズならば単純に金だけで価値を計算すると数十万。玩具屋ならともかく、高いものがほかにもたくさんある博物館ではケースで厳重に保管するには微妙なお値段だ。手で触れる事は出来ないので見ただけでは真贋はわからないが、この博物館はそんなケチな事をしないと思いたい。
「しかしお前もなんだかんだで楽しんでるな、つるぎ」
「まーな。お前の影響でそれなりにサブカルチャーには造詣が深くなったし」
「そりゃよかった」
ま、デート向きではなくても結果的には正解だったのかな。
いや、むしろオシャレな場所でデートしても俺達らしくない。こうして気取らずに遊べればそれでいいだろう。