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1-14 終末の小豆島観光

 最初に訪れたのは昭和の建造物が並ぶエリアだ。元々風情のある場所だったのだろうけど、長い年月でさらにそれは味わい深いものに変わっている。


「いやあ、すっかり廃墟になってますね」

「これはこれでいいけどね」


 木造建築物は朽ち果て大地の一部になってしまったけれど、植物に彩られた建物には小動物が住み着き過去と変わらない賑やかさを保っていた。


 スズメは僕たちに気が付くとすぐに逃げてしまい、高い建物の屋根に逃げて様子をうかがう。ナビ子ちゃんはほのぼのとした笑顔でカメラを彼らに向けていた。


「そういえばここには映画村があったっけ。ここはその跡地なのかな」

「映画デスかー。今のシチュエーションもなかなかのものデスからいい作品が出来そうデス。では折角なので映画を撮ってみましょう。それじゃあまず一枚脱いでください!」

「それは映画というよりもいかがわしい何かだと思うよ」

「いかがわしくありません! 芸術とはエロスと死、つまりはエロトスなのデス! 同じ一族のカメラマンさんもそんな事を言っていた気がします!」

「何言ってんの? 一族って?」


 怪訝な顔をした僕にカメラを向けるナビ子ちゃんは迷惑系動画主そのものだったけど、何だかんだで僕はこのやり取りを楽しんでいた。


「あ、あれ? 何だか記憶がおぼろげに……一族? ワタシは何を言って?」

「こんな事で大切な記憶を思い出さないでよ」

「すみません、やっぱり思い出せませんでした。でも知り合いの知り合いに何だかそういうカメラマンさんがいた気がします」

「それは女性の団体から嫌われているあのカメラマンの人なのかな」


 雑談をしていると僕たちは小学校の跡地に辿り着く。やっぱりここも壊れていたけどほかの建物とは違う、懐かしさと怖さが入り混じった独特の雰囲気が漂っていた。


「ここでたくさんの子供たちが勉強していたんでしょうかねー」


 壊れたドアを踏みナビ子ちゃんは教室の中に入る。壁は完全に崩落し、教室は一面植物に覆われていてマイナスイオンが充満していた。


「けど学校かあ。僕はあんまりいい思い出も悪い思い出もないな。芸能活動が忙しくて学校はほとんど欠席してたから」

「それは……寂しかったデスね」


 ほんのり悲しい顔になったナビ子ちゃんに、僕は自嘲気味にこう言った。


「寂しいというか、思い出しても何も感じないから。何も感じない事が寂しいとは言えるけどね」


 だけどそんな僕でもこの場所には耐えがたい郷愁を感じる。ここで過ごした多くの人々の残留思念がそうさせるのだろうか。


「……………」


 不意にナビ子ちゃんはチョークを手にし、黒板の隅になにかを書く。そして本日の日直のところに鈴木みのりとナビ子、と記入され僕は日直に任命されてしまった。


「何してんの」

「日直をやってみようかなと。起立! 注目! 礼! 着席! どうデス?」

「どうって、何だか余計なものが混じってないかな。ナビ子ちゃんは群馬か宮城で暮らしていたの?」

「え、なんか違ってました?」


 キョトンとするナビ子ちゃんの顔がおかしくて、僕は思わずクスクスと笑ってしまう。


 その後も廃墟の小学校で僕らはじゃれ合うようにふざけ続ける。そこには僕が欲しくてたまらなかった日常が確かにあったんだ。


 たとえおままごとのようなものだとしてもその日々が、幸せだったんだ。

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