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5-29 残酷な真実を知って

 怖かった。けれど、知らなくてはならない。


「……何となくはわかりました。ただどうしても聞きたい事があります」

「ん、何よー?」

「結局僕は、ヒロたちの知っている鈴木みのりと同一人物なんですか?」


 僕はただそれだけが知りたかった。皆もその事に思い至りどこか怯えた表情になってしまう。


 だけど思えば心当たりはいくらでもあった。


 僕の知っている最強と名高いプロレスラーは、向こうの世界では長く日の目を見ず遅咲きに分類される選手だった。


 ヒロが昔一緒に僕と遊んだという餃子の王というインパクト抜群のゲームをした時も、僕にはそれで遊んだ記憶がなかった。


 富岡製糸場の話になった時も、ヒロたちは昔から世界遺産だったと言っていた。


 そして、先ほどつるぎちゃんとしたプロレスの話。


 今までも何度か僕とヒロたちの話が噛み合っていない事があった。それらのヒントを元に考えればその答えは明らかだったのだから。


「そうだねぇ」


 酒を飲みほした希典さんは、どこか寂しそうに笑って、


「過去の世界の鈴木みのりも、今ここにいる鈴木みのりも、ヒロたちの世界の鈴木みのりも、並行世界に無数に存在する鈴木みのりの一人にすぎない。共通しているのは全員が御門善弘を助けて植物状態になっている事かな。並行世界の数は膨大だから同じ世界の鈴木みのりかどうかなんて考えなくてもわかるよね。震災の時に繋がった世界と、今繋がっている世界が、同じかどうかなんてさぁ」

「っ」


 そんな、聞きたくもないその言葉を告げたんだ。


 ああ、やっぱり。そうだったのか。


「この答えで満足しないのなら教えてあげよう」


 そして、希典さんはさらに残酷な事を言い放った。


「個体識別番号2278252315。それが君の存在を定義付ける唯一の情報だよ。荒木シャンクの器の一つであり物語に登場する事無く没にされたキャラクターさ」


 その言葉に場の空気は静まり返る。


 僕の存在は数字だけで言い表す事が出来るものだったのだ。


 最初から僕は何物でもなかった。ただ廃棄処分を待つだけのゴミに過ぎなかったんだ。


 もう何も考えたくない。知りたくもないすべての真実を知った事で僕の精神は限界に達していた。


 けれど。


「それが何だって言うんデスか!」


 研究所に、僕の親友の甲高い声が響き渡った。


「みのりさんはみのりさんデス! それ以上でも以下でもないデス! ワタシの大切な親友デス!」


 ナビ子ちゃんは呆然とする僕を抱き寄せ鼓膜が破れそうなほどに叫び続ける。その言葉で壊れかけていた僕の心はどうにか形をとどめる事が出来たんだ。


「そうだ、細けぇこたあいいんだよ! お前は俺の親友で命の恩人なんだ!」

「あたしには、その、よくわかんないけど、どうでもいいだろ、自分が何者かなんて!」


 ヒロも、つるぎちゃんも。


「話はそれで終わりカ? 結局お前は鈴木みのりなんダロ」

「難しく考える必要なんて、ないんですよ」

「おいしいものがたべられたら、べつにきにしなくていいとおもうな」

「ちー!」


 光姫ちゃんたちも、皆が僕を励ましてくれる。本当は他人であるはずのこの僕を皆は快く受け入れてくれたんだ。


「あり……がとう……」


 その深い愛情に僕はただ涙を流す事しか出来なかった。文字通り世界で独りぼっちだった僕には、こんなに僕を愛してくれる人たちと出会う事が出来たのだから。


 いつの間にか僕は独りじゃなくなっていた。


 僕は勝手に孤独だと思い込んでいただけなんだ。


 この世界はこんなにも美しく、優しかったのに。


 子供のように泣き続ける僕を、ナビ子ちゃんは優しく抱きしめてくれたんだ。

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