5-26 すなばっか珈琲の秘密の地下道
僕らを乗せたバスはようやく星鳥駅に辿り着く。駅周辺は過去の世界にも増して閑散としており、ランドマークである大型アーケードのバッドキャップは骨組みだけになっていて、屋根があった部分までツタが生い茂っていた。
僕らは取りあえず地下を探して駅の周囲をうろつく。真っ先に目に付いた地下道は通路以外の用途はなく、他に道らしい道もなかったのでここではないとすぐに判断出来たので除外した。
駅前にはしゃんしゃん傘の塔や、よくわからない両手を合掌させたような巨大なモニュメント、大国主命と因幡の白兎のブロンズ像もある。
前の世界ではわざわざ見るようなものでもなかったけど、今となってはちょっとした遺跡のようになっていた。気持ちに余裕があれば観光出来たんだけど。
「地下っつってもどこヨ?」
「そうだなあ、もうちょっとヒントを出してほしかったな」
光姫ちゃんとつるぎちゃんはそれらしいものを見つける事が出来ず困ってしまう。こんなところで手間取る事は想定していなかったので僕らは途方に暮れてしまった。
「そもそも、うーん。これはどこで使うんだろ」
僕はタイムカプセルの中に入っていたカードキーをポケットから取り出し、裏返したりしてまじまじと見つめる。経年劣化で使えないとかそんなしょうもないオチはないだろうけど。
でもこれって……よく見ると、いやよく見なくても、うーん。
「駅の地下、つってたからこの辺なのは間違いないだろうが。もう一度地下道を調べてみるか? 地下にある建物とかもさ」
「うーん。一応周りにはそういうお店とかもあるけど」
ヒロのアドバイスを聞いて僕は周囲を見渡してみる。駅前には半地下にあるお店も多くそこはまだ調べていない。
「まあ最悪ワタシが掘削マシンになるという手段もありますが。じゃんじゃん掘ってプクプクポンしちゃいます!」
「そうですね、時間がかかり過ぎたらそれも一つの手かもしれません。深い地層で敵を倒して高得点を狙いましょう」
(プクプクポン……?)
ナビ子ちゃんとうみちゃんは何を言っているのかわからなかったけれど僕らは華麗にスルーをした。きっと僕が生まれる前のゲームかなんかの話だろう。
「ところでシリアスな空気だからずっと言おうか言わないか迷ってたんだけど」
地下を見つけるのに手間取り、これ以上時間がかけられないと判断した僕はとうとう言及してしまう。皆があえてツッコまなかった事に。
「これカードキーじゃなくてポイントカードだよね、すなばっか珈琲の」
「あ、言っちゃうのね。皆空気を読んでたのに」
僕がそう言うとヒロは苦笑して脱力してしまう。それはうちのダジャレ好きな知事が、とある深夜番組で鳥取にはス○バはないがすなば(鳥取砂丘)はあるというしょうもない自虐ネタから生まれた、すなばっか珈琲という喫茶店のポイントカードに酷似していたのだから。
「わあ、ぜんぶスタンプがうまってるー。コーヒーがいっぱいむりょうでのめるよー」
「ちー!」
「うん。埋まってるね……」
喜ぶもふもふコンビに僕は乾いた笑顔でそう相槌を打つ事しか出来ない。このもふもふから見てもやはりこれは紙製のポイントカードに見えるようだ。
まあタイムカプセルの中にあったとはいえ数百年も耐えれるという事は普通の紙ではないのだろうけど。質感としては駅の切符に近いかな。素材は何で出来ているのだろう。
「普通に考えればこれを使うのはすなばっか珈琲だ。あそこは駅前で半地下にあるから条件にも合致している。けどそれが正解なのはなんかちょっと嫌なのはわかるよね。これだけシリアスな空気でさ……ラストダンジョンの入り口がクッソローカルな喫茶店なんて」
「わかるぞ、みのり。けどうちはそういう世界観ァンなんだ、ここは大人しく諦めて試してみてはどうだ?」
ヒロはやる気をなくした僕の肩に手をポンと置く。
「わかったよ」
僕は覚悟を決めてはぁ、とため息をついて取りあえず皆で半地下のお店へと向かったわけだ。
数百年も放置された室内は当然の如く荒れ放題だろう。洪水とかで浸水もしているだろうしちょっと嫌だな、と思っていたけれど……。
「おや、何だかおしゃれデス!」
「まじか」
入り口付近にやって来てすぐ僕らはその異常な光景に気が付いた。何故ならすなばっか珈琲は世界が滅びる前と何も変わらず綺麗な内装のままそこに存在していたのだから。
室内にはオシャレな照明や椅子も設置されてどういうわけか電気も通っている。つべこべ言わずにもっと早くに調べるべきだったよ。
「これは多分ビンゴデスね」
「見ればわかるよ。さて、入り口はどこかな」
どういう原理かはわからないけれどここが特別な場所だという事はすぐに理解出来た。渋々僕は現実を受け入れてカードキーを使えそうなドアを探す。
「さて、このカードキーはどこで使うのかな」
「ポイントカードならレジでつかうんじゃないかなー」
「ちー」
「……………」
ごもっとも。もふもふ君にそう指摘され僕はレジでカードを読み取る装置を発見する。これはスタンプを押すタイプのカードだし、電子的なものではないだろうから違っていてほしいな。
そう祈りながら僕は装置にカードを差し込むと、ピッ、と音が鳴ってしまった。
ゴゴゴゴゴ……。
そして無情にも鳥取砂丘が描かれた壁が下にスライドして、その扉は開かれてしまった。
「お、正解みたいだな! もう、何でもっと早くにここに来なかったんだよ」
「察してよ」
つるぎちゃんは能天気に喜んでいたけれど僕は何だか虚しい気持ちになってしまう。いいんだよ、いやいいんだけどさ……。
ただやる気のない僕に対してナビ子ちゃんは真面目モードに戻り、いつでも戦闘出来るように身構えた。
「さて、多分大丈夫だとは思いますがこの先には何があるかわかりません。皆さんもワタシから離れないでください」
「了解」
「わかったよ」
僕らはナビ子ちゃんの指示に従い彼女を先頭にして地下へと進む。地下通路は無機質なコンクリートと照明だけの殺風景なものでほんのり怖くなってしまった。