5-24 自分自身の真実を求めて
ただ、僕はナビ子ちゃんの事を気遣うほど余裕はなかった。過去のナビ子ちゃんの思い出だけだったらよかったのに、タイムカプセルの中には余計なものが多分に含まれていたのだから。
「えーと、まずは……なあ、みのり。元の世界に戻る方法は見つかったが、ナビ子とは、」
「嫌だ」
気まずそうなつるぎちゃんが全てを言い終わる前に僕は大きな声でハッキリと拒絶する。どんな風に思われたって構うものか。
向こうの世界に戻ればナビ子ちゃんとはもう二度と会えなくなる。護ってくれる人がいない何もない世界で僕は独りぼっちになってしまう。
「みのり、」
「嫌だ! また独りになるのはッ! 嫌なんだッ!」
僕の激しい拒絶に、ヒロは怯んでしまう。
それは僕が何よりも恐れていた事だった。この世界はこんなにも満ち足りているのに、辛くて苦しい事しかないあんな世界に帰る理由なんてどこにもなかったから。
「ナビ子ちゃんも約束したじゃないかッ! 僕を独りになんてしないよねッ!? 捨てたりなんかしないよねッ!?」
「その……」
僕はフラれた彼氏の様に、未練がましくナビ子ちゃんに当たってしまった。
彼女は何も言い返す事が出来ず僕よりも辛そうな顔になっていた。終末だらずチャンネルの記憶を見て彼女も傷ついているはずなのに、本当に僕は自分勝手だ。
「みっともないナ。それでもそいつの親友なのかヨ」
「ああわかってる、わかってるよッ! そんな事言われなくてもッ!」
光姫ちゃんは冷ややかな視線を僕に向ける。こんな僕を見てしまえば彼女だけでなくヒロやつるぎちゃんも、ナビ子ちゃんですら僕を軽蔑してしまうだろう。
だけど僕は叫ばずにはいられなかった。それがたとえ無様で無意味だとしても。
「わかった、それでもいい」
「ヒロ!?」
だけどヒロは僕の言葉を受け入れ、つるぎちゃんは驚いてしまう。僕は安心したけれど、彼は続けてこう言った。
「だがそれは過去のナビ子の想いを無駄にする事になる。あいつは未来のお前も助けようと手掛かりを残してくれたんだ。俺も何が何だか分からなくて全部理解出来たわけじゃないが……」
「……………」
その名前を出されてしまっては何も言えない。僕は冷静になって葛藤を抱いてしまう。今のナビ子ちゃんの悲しそうな顔を見てしまえばなおの事だった。
「時間はあまりないですけどすぐには答えが出ないでしょう。幸い、まだオクラとオヨシは現れていませんしそれまでに答えを出せばいいと思います」
「ま、アタシとしてはつるぎに悲しんでほしくないけどナ……」
「ぼくもかなしいのはいやだな」
「ちー……」
うみちゃんたちはこの件に関してどちらかと言えば中立だ。ただ口ではそう言いつつも、本当はどう思っているかはわかり切っていたけど。
「……それともう一つ。お前の事についてだ。映像では星鳥駅がどうのこうのって言ってたけど」
これ以上この事について話し合っても埒が明かない。ヒロはその場での説得を諦めて別の話題に変えた。
過去の世界に存在したもう一人の鈴木みのり。それはナビ子ちゃんと一緒に元の世界に帰れない事と同じくらい衝撃的な事だった。
「俺個人の意見だが、俺はみのりに何があったのか全てを知りたいと思っている。けどやっぱり最後はお前が決めてくれ」
「……僕は」
正直もう頭が破裂しそうなくらいに滅茶苦茶だ。だけどこちらは少し考えれば答えは出る簡単な問題だった。
「……僕は元の世界とこの世界、どちらに残るにしても本当の事は知っておきたいと思う。さっきから気持ち悪くて仕方がないから。時間もないし今から向かおうよ。星鳥なら日帰りでも行けるだろうし」
「……わかりました」
少し投げやりな僕の言葉に、ナビ子ちゃんは何かを言いたそうだったけど黙って頷いた。
そしてその先に待ち受けていた残酷な真実を誰一人として知る由もなく、僕らの最後の旅が始まったのだった。
きっとそこで全てが明らかになるだろう。僕も知らない僕自身の真実が。