1-13 最先端なアナログ
早速僕は海上での移動手段を考えてみる。
「それで、どうやって小豆島に行くの? 港にある船は全部壊れているけど」
文明が崩壊して想定数百年。当然の事ながら漁船の類は長い年月で朽ちてしまい、辛うじて形を残したものもとてもではないが航行出来るようには思えない。それ以前に多くの船がどこかに流されているようだけど。
「このバスも昔は水上を移動出来たみたいデスがその能力は失われています。ここは大人しくイカダを作って手漕ぎで行こうかなと考えています」
「パードゥン?」
僕は思わず英語で聴き返してしまった。だけど今更だよね。だってナビ子ちゃんだし。
「いや、その、随分とアナログな事をするんだね、最先端テクノロジーで作ったロボットなのに」
「最終的にものを言うのはアナログデスよ」
「それロボットが言う台詞なのかな? まあいいや、じゃあ適当に材料を集めないとね」
「はーい! みのりさんはブイやロープを探してくださいね!」
「りょーかい」
指示を受けた僕は早速漁港周辺に放置されている素材を集める。壊れないように出来るだけ立派なものを選ばないとね。
ベキベキッ!
「?」
大きなブイを両手で運んでいると木が折れる音がする。そしてすぐに大木を担いだナビ子ちゃんが戻ってきたので僕は言葉を失い脱力してしまった。
「それを使うの?」
「はい! なかなか立派な木でしょう?」
ナビ子ちゃんは右手のブレードを展開するとシュパパと切り刻んで枝を切り落とし、大きさを整えてきれいな丸太に変えていく。最先端技術で何をやっているんだとかツッコむのも面倒くさいし、黙って作業を続けよう。
そんなこんなで小一時間後には立派なイカダが完成した。丸太をロープでつなげ、ブイも取り付けた簡素なものだけど最大の特徴はその動力源だろう。
「ウララーッ! オリーブオイルがァッ! ワタシを待っているゥ! ファイトォ、イィパアァッツ!」
ナビ子ちゃんは両手にオールを持ち超高速で漕いで漕いで漕ぎまくる。瀬戸内の荒波もなんのその、僕らを乗せたイカダは猛スピードで小豆島へと向かっていった。
遊園地のウォータースライダー顔負けのこんなスピードじゃ、とてもではないけど手伝うよ、なんて言えない。マンガの熱血主人公の様にド根性を見せつける彼女からはすっかり可憐さが失われてしまった。
「思ったんだけど普通にナビ子ちゃんだけが泳いで渡ればよかったんじゃ」
「何言っているんデスか! それではみのりさんがお留守番になってしまいます!」
「僕はそれでもよかったけど。でもありがとう」
こんな鬼気迫る表情でもやっぱりナビ子ちゃんは優しかった。でもさっきから物凄く水がバシャバシャとかかって冷たいなあ。
とまあ僕たちはド根性と食欲によって小豆島の港に辿り着く。一仕事を終えたナビ子ちゃんはふひー、と息を吐いて綺麗な汗を流しやり切った顔をしていたんだ。
「ああ、今栄養ドリンクを飲んだら最高のコマーシャルが作れそうデス」
「水ならあるよ」
「どもデス」
僕は持参した水筒に入れた水を彼女に渡すとナビ子ちゃんは幸せそうにコクコクと飲んだ。
「でも、あのCMの人も飲んでから頑張ればいいのに何で後なんでしょうね?」
「法律で決まってるからだそうだよ。そういう流れにしたら薬事法に抵触するとかなんとかで」
「へぇー、そうなんデスか」
「というか大切な記憶は忘れてもあのCMは覚えていたんだね」
僕の雑学にナビ子ちゃんはちょっぴり賢くなった。落ち着いたところで僕は改めて周囲の様子をうかがう。
港には謎の輪っかのオブジェがあるけれどやはり多くの建物は朽ち果てている。ここもまた人がいなくなってから長い年月が経ったのだろう。
どこからともなくほんのりとオリーブの匂いが漂って来る。きっとどこかには樹が生えているはずだ。
「さて、早速オリーブを探しに行く?」
「それもいいデスがまずは観光デスね。動画も撮影しておきたいデスし」
「うん、わかった」
僕はナビ子ちゃんの提案を受け入れ島の観光をする事にした。ここは有名な観光地だったし面白いものが見れるといいなあ。