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5-21 世界にいないはずの少女

 そんな和やかな空気の中、深刻そうな顔のマルちゃんという少女が画面に映る。


『戯れはこのへんにしておけ。我らは未来に生きる人間のために真実を残さねばならぬ』


 その言葉によって見ている全員に緊張感が漂う。これはきっと重要な情報に違いない。


『全てはあの日異世界から魔の軍勢が攻め込んできた事から始まった。魔族の騎士である我は悪しき魔王に反逆し、人間とともに戦う事を選んだ。さあ、語るとしよう。千年に及ぶ光と闇の秘められた歴史を!』

「なッ!?」


 ま、まさか、そんなトンデモ展開が!? だけど呆れたトオルが、


『いや勝手にジャンル変えてんじゃねぇよ。全然そんなのなかっただろ。ゾンビと戦って観光して美味いもん食ってなんか適当にこの世界の作者と戦っただけじゃねぇか』


 と、言ったので皆は一気に脱力してしまう。


『むう、ノリが悪いな』

「ちょおい! 緊張感を返せ!」


 出鼻をくじかれヒロは猛抗議するけれど彼女のおかげで空気は和んだので結果オーライという事にしておこう。滅茶苦茶気になる単語の詰め合わせセットがあったけど、動画の彼らはそれに一切触れる事はなかったから気にしないでおこう。


『頼む、ピーコ、数少ないまともなお前が適当にやってくれ』

『ピィ! 責任重大だね!』


 画面に映ったのはピーコ――ヒロが柴咲と言った少女だ。それにしてもこの犬耳としっぽはやっぱり本物なのだろうか。


『ええと、簡単にまとめるとここにいるトオル君は男女血縁関係なく手を出す人だよ。トオル君は私たちを全員口説くついでにゾンビとかを倒して世界を救ったんだ』

『お前まで何を言っている! その通りだけど!』

『いや、私もボケないと駄目かなって』


 ピーコが笑いながら言った発言に終末だらずチャンネルの面々はどっと笑いに包まれる。トオルは少し悔しそうにその事実を認めたからそれは本当の事なんだろうけど。


『ちょーい、何うちらを放っておいて楽しそうな事始めとるだに。うちらも混ぜんさい』

『おや、鰈浜の皆さん、どうしてここにいるんすか?』

『面白そうな気配を感じて』


 そしてなまった女の子を筆頭にぞろぞろと大勢の人間が現れた。というか彼女はもしかして鰈浜に行った時に見つけたあの写真の……?


『トオル! 声をかけないなんて水臭いじゃないデスカ!』

『ズキュゥン! マイクさん、来てくれたんですね!』


 その中の一人、圧倒的な存在感を放つ白人のガチムチの男にトオルはハートを射止められる。その時の彼の眼は恋する乙女そのもので視聴者サイドはほんのりどよめいた。


『ちなみにマイクさんはトオルちゃんの愛人一号っす。トオルちゃんは二刀流なんすよ』

『いや、違わなくはないが! 俺がいける男は銀二だけだ! つーかさっきから何俺をディスってくるんだよ! 視聴者が誤解する……いや誤解って程間違いでもないがやめんか!』

「ふふっ」


 進行のキャシーがそんな事を言うとトオルは猛抗議をする。それを見て映像を見ていたナビ子ちゃんは思わず笑ったんだ。


 今のところ重要なものは映し出されておらずずっとじゃれ合っているだけだ。だけど彼らはとても楽しんでいる事はわかる。


 出来る事ならずっとこんなしょうもないやり取りを続けてほしかった。この喜劇の裏には知りたくもない真実が隠されているのだから。


『遅れてすみませーん!』

『遅いぞー、ナビ子』


 そして映像に過去のナビ子ちゃんが現れともちゃんは叱りつける。姿が見当たらなかったけれどどうやら遅刻してしまったようだ。


『すみません、ちょっとみのりさんのおめかしに手間取って』

『遅れてすみません、ってもう始まってますね』

「……え?」


 僕はその時のやり取りと画面に映し出された光景を見て思考が停止してしまう。いや、僕だけじゃなく、ここにいる全員が。


「……………」


 ただ一人、ナビ子ちゃんを除いて。彼女は僕のほうをちらりと寂しそうな目で見るだけで何も言わなかった。


 画面には照れ笑いをする僕が映っていた。女の子っぽい清楚な服装を着ていて、恥ずかしそうにする鈴木みのりの姿が。


 ああ、これがナビ子ちゃんがさっき言っていた事なのか。でもどういう事なんだろう。全然、全く、わけがわからない。


『うむ、ナビ子とみのりが揃ったところでようやく撮影を始めるとしよう』

『うん、そうだね。けどそもそも何の撮影をするの? 特に聞いてないけど』


 マルちゃんに画面の中の僕はそんな質問をする。何をするかはわかっていないようだがどことなく楽しそうだった。


『いつも通り、適当にグダグダとくっちゃべるだけじゃのう』


 羽の生えた少女はかりんとうをボリボリと食べてそう言った。向こうの僕たちとの空気の落差が激しすぎて僕は過呼吸を起こしそうになってしまう。


『まあ重要な情報の記録は私が後でやるから、お前らは適当にやっていいぞ。って設定が、ヤバイ、もうすぐ記録が終わる!』


 ともちゃんは不具合に気が付き慌てふためくけど、向こうの世界の僕は空気を読んで笑顔でこう言った。


『時間がないみたいだね、それでは皆さん、よい終末を!』

『いや、何でみのりがそのコメントを!?』


 トオルがツッコんだところで映像は強制終了される。そして世界は静まり返ってしまった。


「……ナビ子ちゃん、これは一体」


 僕は震える声でそう尋ねるのが精一杯だった。


 どうして僕が数百年前の世界にいるんだ。何一つ理解が出来ない。一体過去に何があったというんだ。


「今は動画を見る事に集中してください。すべてを見れば明らかになりますから」

「……分かった」


 僕はその言葉を信じてそれ以上質問するのをやめた。真実を知るのがとても恐ろしいけれど、僕は僕に何があったのか知らなくてはならないのだ。

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