5-20 終末だらずチャンネルの記録
気が付くと僕は朽ち果てた梨の歴史館に戻っていた。幻から現実に帰還したらしい。
周囲の様子をうかがったけれど皆は先ほどと比べて特段変わった様子はない。どうやら僕だけが今の幻を見ていたようだ。
「ナビ子ちゃん」
あんな優しくて悲しい思い出を見てしまえば声をかけざるを得なかった。僕は余計に傷口を広げないか怖かったけれど、彼女に精一杯の想いをぶつける。
「僕がずっと一緒にいるから……! だから、ナビ子ちゃん……!」
だけどやっぱり上手く言葉に出来なかった。けれど想いは伝わり、ナビ子ちゃんは涙を拭って微笑んでくれた。
「……ええ、わかっています。ありがとうございます、みのりさん」
結局僕のほうが気を使われてしまった。これではどちらが慰められているのかわからない。親友がこんなに辛い時に力になれなかった自分が情けなくて仕方がなかった。
どれだけ時間が経ったのだろう。ヒロは頃合いを見計らい、ようやくナビ子ちゃんに質問をする。
「ナビ子。思い出に浸っているところをすまないが……みのりが元の世界に戻る方法について何か思い出したりしたか?」
「何となくは覚えています。この立体映像装置に、確かそれに関連する情報が記録されていたはずデス」
ナビ子ちゃんはずっと気になっていたあの謎の装置を手に取った。だけど僕のほうを見てとても苦しそうな顔をしてしまう。
「みのりさん。ここにはあなたにとって耐え難い真実が隠されているかもしれません。すべてを知る覚悟が出来ていますか」
「え」
その時の彼女の顔は僕が今まで見た中で一番悲しそうだった。その表情から僕はただならぬ事を予想してしまう。
だけど――僕も護られてばかりじゃいられない。肚をくくるんだ。
「もちろんだよ。再生してくれるかな」
「……わかりました。複数のデータがありますがまずはこれからにしましょう」
僕の覚悟を受け止め彼女は装置を床に置く。ピ、ポ、パ、と何かの操作をするとパネルの上に立体映像が映し出された。現代科学ではありえないその光景に皆は少なからずどよめいてしまう。
「日本にはこんなものがあったのカ。流石メイドインジャパンは伊達じゃないナ」
「い、いえ、私の知る限りは、そのー、まだないと思います」
感心する光姫ちゃんにうみちゃんは戸惑いつつそう返答する。まあ人型ロボットを作れるくらいだし僕は今更これくらいでどうとも思わないけれど。
「うーん、でもなんかみたことあるね」
「ちー」
ただもふもふ君だけは違う。彼にはこれが何なのかわかるというのだろうか。
『イヤァオ!』
唐突にボマイェの様な叫び声が聞こえたので僕らはびっくりしてしまう。叫んだのは先ほど穴を掘っていた女の子だ。しばらくして画面をのぞき込む片眼鏡の先生、ともちゃんが映し出された。
『ん、おー、記録出来てるな』
『え、ちょっと待ってよ。前後の事がわからない人が見たらあたしが脈絡もなく奇声をあげる変な女の子に思われるじゃん』
『違うのか?』
『否定しきれぬ』
グダグダなスタートだったけれど楽しそうな事は伝わってくる。そして眼鏡の女の子が前に出てコホン、と咳ばらいをしてからこう告げた。
『えー、はい、どうも、私は終末だらずチャンネルのキャシーって言います。この動画は、たとえて言うならゲームクリア後のおまけと言いますか、声優さんへのインタビュー的なあれっすね』
『いや全然違うだろ。世界を救ったあとの打ち上げ的なものには違いないが』
ヘンテコなたとえをしたキャシーという少女にトオルは呆れたツッコミを入れる。一瞬この世界がゲームの世界だったというオチかと思って冷や冷やしたけど、そういうのではなかったようなので安心した。
『では、まずはマルちゃんのサービスカットでも見て楽しんでくださいっす』
『アホか。いやお前なら有り得る……まさか本当に用意してはいないだろうな!?』
『結局マル姉は最後までエロ担当だったねー』
『もちぃ』
先ほどのイメージに出てきた黒いマスクのマルちゃんという女の子はキャシーとじゃれあい、小柄な少女ともちのような謎の生命体はそのやりとりを笑い飛ばす。仲睦まじく、実に微笑ましい光景だ。
「んん? お、おい、何で柴咲と天神が」
「い、いや、そんなはずは」
「何でダ?」
「さ、さあ、先生には」
「まかふしぎだねー」
だけどヒロたちの様子がおかしい。全員かなり困惑していてひどく戸惑っているように見える。もふもふ君とネズミ君は相変わらずぽけーっとしていたけど。
「ええと、知り合いなの、画面に映っている人と」
「あ、ああ、高校の知り合いだ。けどこっちにいるはずはないし、他人の空似だろうけど……いや、違うよな、マルちゃんって言ってたし」
つるぎちゃんは必死で合理的な説明を考えるけれど全く答えが出てこなかった。僕はそもそも二人と会った事はなく、顔も知らないから何とも言えないけれど。
「それにこの男も……いやまさかな」
ヒロはトオルという少年も気になっていたけれど、それ以上言及する事はなく映像の視聴を続けた。
『ちなみにこの番組はもふもふ君たちの提供でお送りしておりまーす』
『どもー』
『おいっす』
『ちー』
「あれ、ぼくたちがうつってるよ」
「ちー?」
そして今度はもふもふ君たちが。のほほんとした表情は今僕たちと一緒にいるもふもふ君と全く同じで、彼以外にも同じ姿をしたもふもふ君やネズミ君が複数体映っていた。ヒロはもう考えるのをやめて、呆れたようにため息をついてしまう。
「ま、考えてもわからないか。黙って映像を見よう」
「そ、そうだね」
僕は取りあえず同意する。これからどんどん驚くべき真実が出てくるだろうしいちいち考えていてはキリがないのだし。