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5-18 梨の守り神

 守り神。それは本来往々にして霊的なもので実体が存在しない。しかし多くの守り神は偶像になっていて、様々な宗教が混在する日本においては寺社仏閣や教会などで簡単に見つける事が出来る。


 だから僕もお寺や神社を中心に探せば簡単に見つかると思ったんだけど。


「ないね」

「ううむ」


 お寺の境内は掘削マシンとなったナビ子ちゃんの手により穴ぽこだらけになっていた。彼女の手にかかれば物の数秒で一メートル程度の穴が掘れるので正直僕の出番はないに等しい。うーん、薄々こうなる気はしていたけど役に立てなくて残念だ。


「守り神なんてこの町にはそんなにないと思うんだけどなあ。そもそもどんな守り神だったの?」

「えーと、何だか丸っこかった気がします。ほぼ球体でした」


 ナビ子ちゃんは両手で丸を作りジェスチャーをする。小一時間労働してからそんな新たなヒントが出たので僕は喜びよりも呆れが勝ってしまった。


「いやいや、それを先に言ってよ! 凄いヒントじゃん!」

「すみません、うろ覚えで正確な情報か判断出来なかったので黙ってました」


 怒られたと思ったのかナビ子ちゃんはしょんぼりしてしまったので、僕はそれ以上追及せず慌てて次の行動を提案した。


「ま、まあいいや。でもほぼ球体の守り神の像なんてこの町にあったかなあ?」

「うーむ」


 僕の知る限りそんなファンシーな神様の像は知らない。白倉だけじゃなく、日本全国で。悩んでいるとナビ子ちゃんは監視カメラの映像から変化に気が付いた。


「おや、梨の歴史館に皆さんが来たようデス」

「そっか。なら向こうが移動する前に早めに合流しよっか」

「はい。ついでにお昼にしましょう!」

「そだね」


 ナビ子ちゃんは美味しいごはんに胸を躍らせて僕は笑みを返してしまう。今はまだお互い余裕があるみたいだ。



 梨の歴史館に向かうと今まで出会った人たちが勢ぞろいしていた。ヒロとつるぎちゃんはもちろん、光姫ちゃんとうみちゃん、もふもふ君とネズミ君までいる。


 中央に梨の大木がある部屋で皆は待っている間歓談してしたみたいだけど、施設内に入った僕らを発見しヒロはよっと手を挙げて挨拶をした。


「おう、また会ったな」

「うん、ヒロ。今日はずいぶんと賑やかだね」

「今お茶を淹れますねー」


 ナビ子ちゃんはキッチンに向かいテキパキとおもてなしのための作業を始める。僕はする事もなかったし早速彼女を手伝う事にした。



 ハーブティーを飲みながら、リラックスしていた光姫ちゃんは早速タイムカプセルの事について触れた。


「つるぎたちから大体の事情は聞いているゾ。アタシたちはタイムカプセルとやらを探せばいいのカ?」

「もちろん協力するつもりですが、手掛かりはあるんですか?」


 うみちゃんの質問に僕はこくりと頷いて答えた。


「ええ、ナビ子ちゃんたちは守り神の近くにある樹の下に埋めたそうです。そしてその守り神は球体だそうです」

「球体?」


 やっぱり皆は全員頭の上に疑問符を浮かべた。そんな神様の像なんて全然イメージがわかない事だろう。ヒロは眉間にしわを寄せ難しい顔をしてしまう。


「球体の守り神ねぇ。そんなゆるいキャラみたいな守り神がいるのか?」

「先生の知る限りいませんねー。少なくとも私たちの世界には」

「うーん」


 全員の知恵を合わせても、やっぱりそんなものには心当たりがないらしい。


「一応梨の歴史館にもなんか丸っこいゆるいキャラはいたな。梨だから○ッシーとかいうドストレートなネーミングで、梨に顔を描いて短い手足をつけただけのクソ手抜きデザインな奴が。モヤモヤさ○ぁ~ずに出て話題になったけど」

「すげぇ辛らつだナ」


 つるぎちゃんは地元のゆるいキャラなのに情け容赦なくディスってくる。実際あれはそんなに有名じゃないけどね。


 だけどそれを聞いてうみちゃんはふむ、と考えこんでしまう。


「唐突ですけど、先生の知り合いの話をしてもいいですか?」

「え、はい、どうぞ」


 一体どういう話をしたいのだろう。全く今の話と関係がない話題ではないと思うけど。


「先生の知り合いに開運グッズを集めて自宅にオリジナルの神棚を作っている人がいるんですが、そのメインのご神体として飾っているのがゲームの特典で付いてきたフィギュアなんですよ。ジョッパリとか、イゴッソウとか、そんな感じの名前だった気もしますが」

「ああ、あれですか。一昔前に伝説になりましたね。確かにアレには畏怖の念を抱かざるを得ません。低クオリティの底をぶち破り地獄から現代の邪神として這いあがったあの造形美には」


 サブカルチャーに詳しいヒロはその元ネタがわかったらしい。文脈から酷いデザインなのはわかるけどそこまでいくとどんな見た目なのかちょっと気になってしまう。


「もしかしたらナビ子ちゃんが言っている守り神も、実際は神仏の像の類ではないのかもしれませんね」

「ふーむ、言われてみれば確かにそうかもしれません」


 そのアドバイスを聞いてナビ子ちゃんは記憶をもう一度確認する。僕は本人じゃないから正確な情報はわからないけど頑張って考えてみる事にした。


「でも確かに球体の守り神なんてゆるいキャラみたいだよね。○ッシーとかもろ丸っこいし」

「デスねー」

「そだなー」

「……………」

「……………」

「……………」

「もぐもぐ」

「ちー」


 その言葉に皆が同じ結論に達して場が静まり返り、もふもふ君たちが美味しそうにお土産のクッキーをかじる音だけが聞こえた。


「じー」


 そのもふもふ君もある事に思い至って、じっと梨の樹の根元に置かれていた謎の球体を見つめる。


 そうだ、初めてこの世界にやって来た時からあった不自然過ぎるそれが、ずっと何なのか気にはなっていた。全体的に草花で覆い隠されているけれど、まさか。


 いや、むしろそれ以外考えられない。こんな大きな球体はそのへんにあるもんじゃない。だけど梨の歴史館ならばちょうど同じくらいのサイズのあいつがいる!


 もふもふ君の視線の先を僕もしっかり見つめる。そして草花の隙間からのぞきこむ瞳と僕らは目が合ってしまった。


「ナビ子ちゃん!」

「はいデス!」

「ぼくもてつだうねー」


 力持ちなもふもふ君は〇ッシーを持ち上げてどかし、ナビ子ちゃんは即座に梨の歴史館の中央にある梨の樹の根元、つまりこいつがいた下の地面をシャベルで掘り起こす。


 その時間わずか十数秒。そしてゴツン、と固い何かとぶつかる音がした。


「ありました! 多分これデス!」

「「おお!」」


 彼女の手には球体の鋼鉄の容器が確かに存在しており、あれだけ苦労して見つからなかった物があっさり見つかったので皆は歓声を上げた。もふもふ君だけはいつもの表情でバンザイをしていたけれど、多分とても喜んでいるのだろう。

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