5-17 タイムカプセルの在り処のヒント
そして僕らは始まりの場所に降り立った。久々の里帰りだけど生憎僕らは懐かしむ気持ちになんてなれなかった。
白倉に眠るナビ子ちゃんの記憶。それを知ってしまえばきっと後戻りは出来なくなる。そしてこの旅も終わってしまうんだ。
怖い。でも弱音を吐いちゃ駄目なんだ。僕の弱さはいつも天使のように優しい親友を苦しめてしまう。これ以上彼女に甘えたら駄目だから。
「ゴゴゴルルルルルルァアアアア畜生どもォ! ワタシの畑に何しやがりますか! ギェエアボグルルギョォオヴォヴォヴォビゥッフィィィアアアッッ!」
「ブモー!?」
……天使の様に?
ナビ子ちゃんは梨の歴史館に帰って早々、畑を頑張って荒らそうとしていたイノシシやクマをロボット部隊とともに悍ましい奇声をあげながら撃退していた。
畑は電撃攻撃をする鉄壁のトラップに護られ、武装カカシは自動的に唐辛子の弾丸を乱射してナビ子ちゃんを援護し、逃げまどう動物を狩るその姿はさながら紛争地帯の凄惨な虐殺を想起させる。そしてしばらくしてから動物たちは美味しいお肉になりました。
「ウヒャヒャヒャヒャ、ナビ子の畑に手を出そうだなんて百年早いデス。まあおかげで今日は焼肉パーティーが出来ますが。キョキョキョキョ!」
「お、お疲れ様」
このバーバリアンのような少女は本当にバスの中で優しくしてくれたロボットと同一人物なのだろうか。だけど普段と変わらないナビ子ちゃんの姿に僕は安心してしまったんだ。
「コホン、取り乱してしまいました。さて、今までの傾向から考えるとおそらくどこかのタイミングでヒロさんたちが合流するでしょう。可能ならタイムカプセル捜索のお手伝いをお願いするとして、まずはワタシたちだけで調べてみましょうか」
「うん、わかった。それで目星はあるの?」
数年しかここにいなかった僕と違ってナビ子ちゃんは何百年もこの町にいた。きっと隅から隅まで熟知している事だろう。
だけどナビ子ちゃんはうーん、と困った顔になってしまう。
「実のところ全くないんデスよね。ワタシはこの町と周辺に何があるのかほぼすべて把握していますが……」
「そっか。タイムカプセルっていうくらいだしどこかに埋めてるんだろうけど」
「ええ、薄っすらと土の中に埋めた記憶はありますが、どこだったか……」
そもそもタイムカプセルはそういうものだからそんなものはヒントにもならない。手がかりのすべてはナビ子ちゃんの記憶の中にあるため、僕はどうにかしてそれを手に入れようと試みる。
「こういうのって普通は目印になるものがあるよね。樹の下とか」
「そ、そうデス! 樹の下に埋めました!」
ナビ子ちゃんは手をポンと叩いて喜んだけど樹の下、というのは手掛かりとしては弱い。数百年も経てば樹木は倒れたり生えたりするし、樹に限らず自然というものは変化してしまうので当時と風景が同じ保証はなかった。
「うんうん、そ、それで他には?」
だからもうちょっとヒントが欲しいんだけど……僕が誘導する様に何かを言う事で間違ったヒントになってしまったら元も子もない。細心の注意を払いつつ僕は彼女の記憶からサルベージをした。
「……守り神」
「守り神?」
守り神、確かに彼女はそう呟いた。それは一般的にイメージするものと同じだろう。
「守り神の近くの樹の下に埋めました、そうデス! 守り神が何だかわかりませんが確かにそんな記憶があります!」
大体の事を思い出しナビ子ちゃんは大喜びをする。うん、これだけヒントがあれば上出来だ。まだ十分ではないけれど、守り神なんてそのへんにあるものじゃないしかなり場所は特定されただろう。
「わかった、守り神の近くの樹だね。早速調べてみようか!」
「はいデス!」
そして僕たちは気合を入れミッションを開始する。
畑に設置した倉庫からシャベルを回収した僕はいつも以上に張り切っていた。ようやくナビ子ちゃんに恩返しをするチャンスが与えられたのだから張り切らないわけがない。
もっともタイムカプセルを見つけ記憶を取り戻した時、何が起こるかはわからないけれど……彼女なら愛も痛みもすべてを受け入れるだろう。僕は自分に出来る事をするだけだ。