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5-13 ナビ子の異変

 さあ、料理完成だ。湯気が立ち上るたくさんのいきなり団子が乗ったお皿を食卓に運ぶと早速メカ少女の黄色い歓声が聞こえてくる。


「わっふー! これが熊本の魂、いきなり団子! 実に美味しそうデス!」


 いきなり団子は輪切りにしたサツマイモにあんこを乗せて薄力粉の生地で包んで蒸したものだ。それほど難しい料理ではなく、いきなり、の名前の通りすぐに完成したよ。


「熊本の魂かどうかはわからないが確かに美味そうだ。俺達も食べていいんだよな?」

「うん、たくさん作ったから遠慮なく食べてね」

「じゃ、早速」


 つるぎちゃんはいきなり団子を手に取ると口に運んでもぐもぐと食べる。


「うめぇわ、これ」

「うん、いいかんじにサツマイモがホクホクしていて、あんこのやさしいあまさと、かわのもっちりしょっかんもすてきだね。だから、あんまりたべないほうがいいよ」

「ちー」


 料理で大活躍したもふもふ君はそんな美味しそうな食レポをしてくれた。最後のコメントはきっと自分がたくさん食べたいという意味なのだろう。もふもふ君はご機嫌な様子でお皿の団子に手を伸ばすけど、


「それはいかん、なら早い者勝ちだな」

「あー」

「ちー」


 もちろんそのようなシンプルかつ食欲が刺激される説明は逆効果で、その団子をつるぎちゃんはひょい、と手に取り食べたので彼らは切なそうな顔になった。だけどそれ以上にナビ子ちゃんはハイペースでもう三つ目に突入しているようだ。


「ばりうまかー!」


 ナビ子ちゃんは喜びを叫びながら団子を次々と食べる。口の中の水分が持っていかれそうで見ているだけでむせてしまいそうになった。


「あはは、そこまで喜んでくれると僕も嬉しいよ」

「今、俺の脳裏に一瞬機関車に石炭をポイポイとぶちこむ光景が浮かんだよ。まあ悪くはないな」

「ならたべないほうがいいよー?」


 唯一ヒロだけは薄いリアクションなので僕はちょっぴりムカっとしてしまい、ヒロが持っていた団子を奪い取ってもふもふ君の真似をした。


「はい、もふもふ君とネズミ君にヒロの分をあげるから」

「わーい」

「ちー」

「嘘ですすみません」


 さて、いきなり団子を存分に味わったところでお次はアイスの時間だ。そのアイスはバニラアイスをチョコで包んだもので、最大の特徴はこぼれんばかりの量のクランチだろう。


「うひょひょ、アイスデス!」


 木の棒に刺さったそれを見てナビ子ちゃんはいきなり団子以上に大喜びした。この世界でアイスは材料を一から手作りしないと手に入らないので中世の頃並みに貴重なものなのだ。


「早速食べてみようか」


 ザク、ザク、ザク。なかなか強烈な食感が心地よい。それに何だか癒される音だ。どこかほろ苦いチョコの甘さと、バニラの滑らかな口どけに僕はあっという間に虜になってしまう。


「えーと、このアイスって何て名前だったかな……何とかモンブランだっけ」

「モンブランの要素はないけど、何でそんな名前なんだ?」

「作った人が山のほうのモンブランに行ってこれにチョコかけて食ったら美味いだろうな、って思ったそうだ」

「へー」


 ヒロはつるぎちゃんに雑学を披露しもしゃもしゃとアイスを食べ続ける。僕らは数年ぶりのアイスだけど、二人にとってはなんの変哲もないアイスだからそこまで感動はしていないようだ。


「ああ、美味なりやー!」

「おいしいねー」

「ちー!」


 ナビ子ちゃんは感極まってもふもふ君に抱き着いた。向こうも向こうで嫌がる素振りは一切見せず彼女はそのお腹を存分に堪能する。ああもう、羨ましい、僕もモフりたいのに。


「もしゃもしゃもしゃ!」

「そんなに焦って食べなくても大丈夫だよ。ゆっくり味わってね」


 そしてナビ子ちゃんはハイペースでアイスに食らいつく。そしてやっぱり頭を押さえてしまった。見ただけで僕も頭痛がしてくるよ。


「うう、キーンとしちゃいます~」

「だから言ったのに」


 ズキズキズキ。きっと彼女は冷たいものを食べた時のアレを味わっているのだろう。ロボットでもこんな風になるんだね。


「う、ぐ、繧? アA……露ゥッ!?」

「って、ナビ子ちゃん?」

「ん、どうした?」


 だけど様子がおかしい。彼女はボトリとその手からアイスを落としひどく苦しみだした。ただならぬ気配に僕は慌てて彼女に駆け寄ってしまう。


「な、ナビ子ちゃん!?」

「……思い出しました」

「え?」


 そしてナビ子ちゃんは魂が抜けたような表情になったあと、血相を変えて立ち上がり走って乗降口に向かい、ドアを開けるとすぐに地面に飛び降りた。


「えと、アイスをせっかく作ってくれたのにすみません! でも行かなくちゃダメなんデス!」

「ちょ、ちょっと待って! 思い出したってまさか!」

「お、おい?」

「よくわからんがあたしらも行くか!」

「じゃあぼくはおるすばんをするよ。かえってきたときのために」

「ちー」


 何を思い出したのか。そんな事は言わなくてもわかる。それはきっと彼女の過去、終末だらずチャンネルにまつわる記憶だろう。僕らは急いでナビ子ちゃんの後を追ってバスから飛び出した。

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