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5-5 壊れた餃子像の女神の怒り

 オープニングムービーでは和風なのか中華なのかよくわからないBGMが流れ、何だか宇宙を漂っているような違和感を覚えてしまう。


 耐えろ、耐えるんだ。正気度を保て! これはまだ序の口、このゲームはきっとこんなものじゃすまないから!


『ここは餃子をこよなく愛する国、トチギ。トチギの民は朝にウツノミヤが愛情を込めて作った餃子を食べ、昼に餃子を食べ、夜に餃子を食べるという、誰もがうらやむとても幸せな生活をしていた』

「偏食にもほどがあるね」

「さすがにナビ子もそんな生活はキツイデス」


 うん、早速ぶっ飛んだナレーションだ。きっと僕が正気なのはツッコミ要員としての役割を求められているんだろうね。


『しかしある時、悪の料理人ハママツ率いるシズオカの軍勢が北関東の同盟国とともにトチギに攻めてきた。侵略者である彼らは自分たちの国の餃子を食べる事をトチギの民に強制し、朝にハママツが作った悪しき餃子を食べ、昼に餃子を食べ、夜に餃子を食べるという過酷な日々を強いられていた』

「大して変わってないと思うよ?」

『だが絶望に支配されたトチギを救うため、伝説の男ウツノミヤが立ち上がる。彼は中華包丁を片手に愛と自由を求めて立ち上がった! 行け、ウツノミヤ! オウイェス、ウツノミヤ! ワンダホー、ウツノミヤ!』

『お前を餃子の餡にしてやろうか!』

「ええー」


 アップになったウツノミヤの決め顔に理解のキャパを超えてしまった僕はもうツッコむ事が出来なくなってしまう。いや、これじゃダメだ、気をしっかり持たないと。


『ファーストステージ:トチギ・駅前』

「あ、始まった」


 とにかくどうにかこの爆弾処理の様な時間を切り抜けよう。画面の前方からはサルの敵がわらわらと現れ画面は賑やかになってしまった。


「おーし、それじゃあ手分けして倒すぞ。アイテムはちゃんと拾って有効活用するんだ。ああ、この塩コショウは俺が貰っておくぞ。耐久度には気をつけろよー?」

『デヤー!』

「では、この鉄パイプをお借りしますね」

『ナマダブ! ナマダブ!』


 リーダーはプレイヤーでもあるヒロが務め、ナビ子ちゃんは鉄パイプを拾ってサルと応戦を始めた。TPトチギポイントを使って魔法的なものが使える代わりに、通常の攻撃力が低めな彼女のキャラはこうでもしないと火力が不足してしまうからね。


「シュタ、シュタタ! でも駅前にサルがこんなにいるのって何だかシュールだね」

「栃木は実際こんなもんじゃね?」

「そんな事言わないでよ、つるぎちゃん、炎上するから。それに鳥取も人の事は言えないでしょ」

「はは、確かに。市内でもちょいちょいサルとかクマが出るしな」

『ゴザル! ゴザル!』

『ウーハー! ウーハー!』

「っていうかさっきから鬱陶しいね、掛け声が」


 談笑しながら操作しているキャラクターは攻撃するたびに同じ掛け声を出し、正直耳障りで仕方がない。というか忍者だからゴザルって安直過ぎないかな。


『キー!』

「あいたっ」


 僕は距離を取ってサルに手裏剣を投げていたけどそのうちの一匹が飛び掛かってダメージを受けてしまう。でも実際に痛いわけじゃないのに変だね。


「みのり、そこにレ○ン牛乳があるから拾って適当なところで回復しとけ」

「うん、わかった。でもレ○ン牛乳って実際にあった気がするけど」

「ああ、この作品には実際に栃木の名産品が出てくるんだ。ちなみにレモンは一切入ってないらしいぞ」

「え、じゃあ何でそんな名前なの?」

「さあ、俺は知らん。栃木県民に聞いてくれ」


 それはきっと哲学的な考察が必要な難問なのだろう。けれど僕は難しく考えず牛乳を拾ってアイテム欄にストックしておいた。


「そらよー!」

『かんぴょうロール!』


 つるぎちゃんのキャラは敵をジャイアントスイングのようにグルグルと回し、周りの敵も巻き添えにして撃破していく。現実の彼女同様随分と武闘派なキャラなようだ。でもかんぴょうロールって……作る時確かにクルクルと回すけど。


 一面という事もあり四人でかかれば割とサクサク進んだ。ナビ子ちゃんの魔法も便利に使ってそんなこんなで早速ボス戦に突入する。


 最初のボスは餃子と一体化した女神だ。ビーナス像を模した彼女は不動明王の様に厳めしい顔をしており、怒りに満ちあふれている事が伝わってくる。


『許すまじ、トチギの民。ハママツの餃子に魂を売り、駅前にあった私の依り代を壊すとは!』

『それは違う! 餃子の女神よ、俺の話を聞いてくれ!』

『問答無用! 死ぬ覚悟は出来ているか!』


 女神はウツノミヤの言葉に耳を貸さず一方的に攻撃を仕掛けてくる。画面のあちこちから羽根つき餃子が飛んできて、とてもではないが避けきる事なんて出来なかった。特に動きが遅いつるぎちゃんの獣人は格好の的になっている。


「わ、わわ! 無駄にでかい当たり判定が憎い!」

「もー、餃子を投げちゃいけません! 食べ物を粗末にしたらダメデス!」

「うん、餃子が飛んでくる事自体なかなか異常なんだけど、その程度の事でこのゲームにツッコんだらダメなんだよね」

『ゴザル! ゴ、ゴザ、ゴ、ゴザル!』


 僕はこのカオスにも慣れてきたので無心で手裏剣を投げる。ボスといっても一面だし、僕らは集中攻撃をして、最終的に体力が半分になる程度に削られたものの難なく撃破する事に成功した。


『ああ、ここで私の生涯は終わるのか。ウツノミヤよ、私を殺しハママツの餃子に魂を売るがいい! その代わり永遠に口が臭くなる呪いをかけてやる!』

『女神よ、聞いてください! あなたの依り代が移転の際に壊れたのはただの作業員の凡ミスです!』

『馬鹿な! しかし二回目も逆向きに設置されたぞ! それでも故意ではないと言うのか!』

『それもやっぱり凡ミスなんです!』

『な、なんという事だー! 私はトチギの餃子への愛を疑ってしまったのかー!』

「ちなみにこれは実際にあった出来事だぞ」

「へー。栃木の業者はとってもうっかりさんなんだね。でも全然興味ないや!」


 女神とウツノミヤの茶番を見届けた僕はそんな感想しか出てこなかった。だけど会話イベントはまだ続く。


『すまなかった、ウツノミヤ。償いにはならないが私がグンマへの道を切り開こう』

『おお、ありがたき幸せ! では早速参りましょう!』


 まあ、そんな感じでイベントはようやく終了し僕らは次のステージに進んだ。

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