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5-1 仲直りの作戦会議

 ――御門善弘の視点から――


 父さんと和解し、御門家の新しい物語が始まったその日も俺はみのりを元の世界に戻すための情報を調べていたわけだが、どうにも手詰まりになってしまう。


 そんなわけで気分転換も兼ね、ジジイによる窃盗事件の被害状況を把握するため俺はしまっておいたゲームや父さんに買い直してもらった奴を確認していたわけなのだが。


「お、これは」


 その中に昔懐かしいベルトスクロールアクションの名作を発見し、思わず手に取ってしまった。


 このゲームは俺にとっては単なる往年の名作ではない。昔、みのりたちと一緒によく遊んだっけ。


 しかし残念ながら俺たちは結局ゲームをクリア出来なかった。当時子供だった俺たちにとってはシビアな難易度で、作中には一定の条件を満たすと戦える裏ボスもいるのだが、拙いガチャプレイでは三面まで行くのがやっとだったのだ。


「これもお土産に持っていくか」


 バスには電源やテレビ代わりに使えるパソコンもあるし上手くセッティングすればゲームは出来るだろう。久しぶりにみのりとこれをやって遊ぶのもいいかもな。


 みのりは見た所当事者なのにこっちの世界に戻るのは乗り気ではない。だが楽しい事で気を引けば帰るためにやる気を出してくれるかもしれない。


「……………」


 けれどそれは結局小細工で現実を誤魔化しているに過ぎない。特にみのりは母親と確執があり、その事が理由で彼女はこの世界に戻りたくないと言っても過言ではないのだ。


「よし」


 俺はある事を決意した。



 そんなわけで、今日の作戦会議は俺の自宅で行う事になった。以前は負の感情が蓄積した事で澱んだ瘴気が漂っていたが今では人を呼べるほど清々しい空気に満ちている。


 会議の現場である、俺の部屋を除いて。


「汚ェ部屋だナァ」

「お掃除はしたほうがいいですよー?」


 慣れていない光姫とうみちゃんはあからさまに嫌な顔をするが、俺は全く気にしない。


「とても男子高校生らしい生活感にあふれる部屋じゃないか。だから光姫、鼻をつまむな、傷つくから」

「カビ臭ェんダヨ。生ゴミの臭いだの、犬のションベンの臭いだの色々混ざってるっていうカ。つーか犬はどこから来たんダ。まさかペットボトルでしてねぇよナ」

「酷い言われようだな。さすがに俺もそこまで落ちぶれちゃいない」


 俺はおもてなしとしてスナック菓子と飲み物を用意する。飲み物はポテトチップスと相性抜群なケミカルドリンクだ。


「随分と身体に悪そうな色をしているが、えーと、飲んでも大丈夫っぽいな」

「ああそっか、つるぎは」


 つるぎは一応原材料を確認しドーピングに抵触しないか確認をしていた。そこは俺も配慮すべきだったと反省し、次からは気をつけようと心に決めた。


 それはさておき時間は有限だ。進行役の俺は早速父さんと和解した事を話す。


「会議を始める前に俺の口から伝えたい事がある。つるぎは知っているけどつい先日俺は父さんと仲直りしたんだ」

「わあ! よかったですね~!」


 手を叩いて喜んでくれたうみちゃんに俺は思わず照れてしまう。折角だし感謝の言葉も伝えよう。


「先生も、いろいろ助力してくれてありがとうございます」

「私は何もしてませんよ。全部二人が歩み寄った結果ですから」

「本当に感慨深いよ。本当によかったじゃん」

「ああ、つるぎも本当にありがとう」

「んー、なんかアタシは置いてけぼりダナ。こいつと親父の仲が悪いのは知ってたケド」


 光姫はあまり興味なさそうにスナック菓子を遠慮なくボリボリと食べ始める。実際今回のイベントには絡んでなかったので何も思わなくても仕方がないが、せめて少しは遠慮しながら食べてほしいものだ。


「で、俺は父さんと仲直りしたわけだが……やっぱり家族との関係は大事だって思ってな。だから、みのりと、みのりのお母さんを和解させようかなって考えてる」

「え、マジで」


 俺がそんな提案をするとつるぎは思わずギョッとしてしまった。何も知らない人間からすれば意外に見えるかもしれないが、みのりに近い人間なら全員がこの意見に否定的な感情を抱くだろうし仕方がないだろう。


「アタシはあんまり詳しく知らないケド、鈴木みのりの母親ってアレだろ? あんまりいい噂は聞かないナ。娘の稼いだ金を使い込んで、ブランド物を買い漁ってホストクラブとかで豪遊してたって聞いた事はあるゾ」

「えーと、週刊誌にそんな事が書かれていたっていう話はチラッと耳にした事がありますけど、実際はどうなんですか?」

「一部異なるところもありますが概ね事実ですね。加えてモンスターペアレントで、学校の先生が学業に支障が出るので芸能活動をもう少し控えてくださいって文句を言ったら逆ギレして、貧乏人や少しでも素行の悪い友人がいればそいつの自宅に怒鳴り込んで、二度とうちの子に関わるなってヒステリックに喚き散らしていましたから、みのりには俺たち以外友達が出来ませんでした」

「ふーん」

「うわぁ……」


 光姫は終始関心がなかったが、その悪行三昧に人間の出来ているうみちゃんですらドン引きしているようだ。


「まあ、ぶっちゃけ、無理じゃね」


 あいつの人間性を身をもって知っているつるぎは俺に諦めるように諭す。以前の俺だったらその意見に全面的に同意していただろう。


「けど、病院で会った時の反応を見る限り半分くらいは可能性があると思う。それにもし今元の世界に戻る方法が見つかったとしても、このままじゃみのりはこっちに帰って来ないかもしれない。あの人との関係が変わらない限り……」


 俺の本当の目的は和解ではなくみのりがこの世界に戻る障害を排除する事だ。正直、本音ではあいつに頭を下げるなんて虫唾が走るけどさ。


「ま、お前がそう言うのならあたしは手伝うけど」

「ありがとな、つるぎ」


 きっとつるぎも同じ事を思っているに違いない。真壁夫妻は昔やんちゃだったから、みのりの母親は好ましくない友人と認識し幼かった彼女にひどい言葉を投げかけたからなあ。


「みのりのお母さんは自宅か病室に行けば会えるだろう。じゃ、覚悟を決めるか」

「そだな」


 俺はそこまで言って話を一旦終了し、会議の本題を話す。


「さて、それはそれとして知っての通り今俺たちは並行世界の調査について行き詰まっている。天女伝説の真実はわかったがそれっきり進展はない。だから今度はアプローチの方法を変えてみようと思う」

「それは?」


 スナック菓子を一人で食っている光姫に、俺は若干の呆れを我慢して言った。


「失われたナビ子の記憶だ。彼女の過去の記憶はつまりあの並行世界にかつて起こった事の記録。同じような事が昔あったかもしれないし調べる価値はあるだろう」

「成程、悪くない案だと思います。先生が花丸をあげましょう」

「はは、まだ早いですよ」


 俺はうみちゃんとじゃれ合うようなやり取りをするとつるぎと光姫は失笑してしまった。だがこれはいい年した野郎を子供扱いするうみちゃんが悪いんだからな。


「なんか知らない間に仲良くなっちゃって。いいけどさ」

「なんだ、つるぎ、妬いてるのカ?」

「妬いてねぇよ」


 つるぎはからかう光姫にちょっぴり怒ったように反論した。この信頼関係は親子の和解を手伝ってくれたから生まれたものであり、幼馴染の彼女もそれを理解していると思っている。


「それじゃあ早速みのりのお母さんに会いに行くか。あの人と話してからみのりにこの事を伝えたほうがいいだろうし」

「そうだな」

「んじゃ、アタシはうみちゃんと適当に調べとくヨ」

「ええ、頑張りましょう、山口さん! ふぁいとおー、ですよ!」


 こうして俺はつるぎと組み、残る二人とは別行動になった。


 今からあの人に会いに行くと思うと多少は気が重くなったが、もし和解する事になればみのりは俺よりももっと勇気を出す事になるだろうし、まずは俺がこの試練を乗り越えなければならないだろう。そう自分に言い聞かせ俺はつるぎとともに病院へと向かった。

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