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4-37 御門きんのその後

 さて、何度目になるのかわからない警察署での事情聴取を終えた俺はぐったりしながらコーヒーで一服して休憩する。


 こんなにどこぞのバーロー並みに何度も事件に巻き込まれると自分が疫病神になった気分だ。顔見知りになった警察の人もそれをわかっているのか何だか投げやりで、話を聞いてる最中にパ〇ドラをしていたよ。


 幸いな事に祖父の起こした事件の被害者はいずれも軽傷で大きな怪我をした人はいなかった。無論、たとえそうだとしても色んなものを破壊したため賠償金は恐ろしい事になりそうだが、そこはあのジジイの老後の貯えをふんだくるとしよう。


 刑務所に入ればそんなものは必要ないからな。日本の刑務所はどこもかしこも年寄りばかりだし、きっと友達が出来て素敵な余生が送れるだろう。


「ん」


 休憩時間を見計らったかのように俺のスマホからアニソンが流れる。家族かと思ったが画面に表示された相手は意外な事に希典先生だった。


 けど何でだ? まあいいや、取りあえず電話に出よう。


「はい、もしもし」

『うぃっす、ヒロちゃん? 事情聴取、お疲れ様』

「はあ、どうしてこっちの状況を知っているのかあなたにそんな質問をするのは野暮ってものですね。んで、どうして俺に電話をしたんですか」

『ああ、俺っちは大阪府警に知り合いがいるんだけど、浪花市のほうのスーパーでババアが弁当を万引きして捕まったみたいよぉ』

「ふむ、世の中のババアは大体万引きをすると思いますが」

『すごい偏見だね。怒られるよ?』

「冗談はさておき、何でそんなありふれたニュースを言ったんですか?」


 クハハと笑う希典さんに俺は意味のない質問をした。そのババアがどこの誰なのかタイミングを考えれば想像に難くない。


『そのばあさんは取り調べでずっと黙秘していたけど、他の場所でも盗みを何件かしていた事がわかってね。別の店で万引きしたであろう大量のギフト券がカバンの中に入っていたんだ。トータルで数千万相当とかなりの金額だよ。まあレジに通せば、だけどねぇ』

「ふーん。島根にはパソコンもないですしそんな事も知らずに万引きしたんでしょうね」

『ただ、紙くず同然でも窃盗には違いない。神在の暴動ではどさくさに紛れて多くの人間が犯罪行為をしていたけど、その中にコンビニからババアが大量のギフト券を盗んだって事件もあってね。そいつは逃走の際車で店員をはねてケガさせたんだけど、同一人物なら実刑は確実だろうねぇ。強盗傷害だからまあまあ罪は重いよ』

「成程、教えていただきありがとうございます」


 警察に保護してもらうように言った時どうしてあのババアがあれだけ拒絶したのかようやく理解出来た。きっとその罪がバレたら警察に捕まってしまうと思ったのだろう。


 ただ俺はこの件に関してどうしても聞きたい事があった。


「ちなみにそのババアにギフト券の仕組みについて教えた時、どんなリアクションをしてました?」

『ババアーン! って叫んで絶望してたそうだよ』

「でしょうね」


 俺はその時のババアの顔をイメージして思わず吹き出してしまった。夫婦そろって同じ日に警察に捕まるとは本当にお似合いのオシドリ夫婦である。


「とにかく教えてくれてありがとうございます」

『うぃ。ああそうそう、ついでなんだけどー』


 俺は電話を切ろうとしたが希典さんは最後に笑いながら、


『もうすぐ白倉でひと騒動あるから、今のうちに逃げれるように準備をしたほうがいいよ』

「え?」


 と言って一方的に電話を切ってしまった。


 本当に相も変わらず勝手というか……しかしあの人の言う事だしおそらく本当に何かは起こるのだろう。だけどそれを予測出来る希典さんも何者なのかねぇ。


 俺は未知の脅威に不安になりながらも気をしっかり持つ。


 何が起ころうと俺のする事は変わらない。みのりをあの世界から連れ戻すだけだ。


 電話が終わって警察署から出ようとしたところでまたしても知り合いに遭遇する。俺の両親と真壁家の面々だ。


「「ヒロっ!」」


 真っ先にホッとした顔の両親が駆け寄ったので俺はよっ、と右手を挙げて返事をする。病院あたりから無事だと連絡は貰ってはいたのだろうがやはり気が気でなかったようだ。


「よかった、無事だったのね。本当にあなたは毎回心配をかけて……」

「ごめんごめん。けど今回は百パージジイの責任だし大目に見てくれ」

「ああ、ヒロは何も悪くない。本当に父さんは……」


 無事を伝えた俺は両親とそんなやり取りをしたが、あのジジイが起こした今回の騒動は殺人未遂事件であり父さんの悪い噂とは比べ物にならない。だけど鼻つまみ者なのは前からだし気にするほどの事でもないか。


 きっとまた周囲から陰口を言われるだろう。俺の家族は俺が護らないといけない。だからしっかりしないと。


「そうだ聡、気にするな」

「力になれる事があったら何でも言ってね。知り合いに弁護士もいるし」


 けれどその時真壁夫妻がそんな力強い言葉を言ってくれる。同行していたつるぎもまた、はは、と普段と変わらない笑みを向けてくれたんだ。


「……ええ、ありがとう。ケンちゃん、サヤちゃん」

「ああ……本当に」


 幼馴染の友情を確かめ父さんたちも涙ぐんでいた。雨降って地固まると言うが、今回の事件は結果的に俺たちの結びつきを強くしたので結果オーライだろう。


「ま、そういうこった。山陰でジジババが車で暴走するのは日常茶飯事だし皆すぐに忘れるよ」

「ああ、ありがとな」


 俺も歯を見せて笑うつるぎに礼を言った。そして俺達は警察署を後にして真壁父の運転する車に乗り、家まで送ってもらう事になった。


 その道中、不意に真壁父はこんな提案をする。


「ああそうだ、聡、利枝。今夜はお前の家で飲むからそのつもりでな」

「え、うん、そうだね。たまにはいいか」

「ええ、そうね」


 両家の夫妻は微笑みあう。俺はそれを見て、大人になってもこういう関係が続いているって何だかいいな、と思ったりしたんだ。

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