4-36 VS 暴走老人 御門善治郎
その時、ロリはジジイがいなくなった事に気が付きキョロキョロと周囲を見渡す。だがどこにも彼の姿はなかった。
「あれ、おじいちゃんはどこいったの?」
「さあ。逃げたんじゃね。あーもしもし、警察ですか?」
俺はあんな奴の事なんてクソほどの興味がなかったからとっとと警察を呼んで家に帰るとしよう。あ、でもまた事情聴取があるかも、面倒だなあ。
「おいコラジジイ! 俺の車に何をするんだ!」
「今、駅前でジジイが、ん?」
だが騒がしい声が聞こえ俺はその方向に視線を向ける。車上荒らしでもあったのかな。今日の白倉は物騒だなあ。
「があッ!?」
作業服の男性は盗まれまいと運転席のドアにしがみつくが車は急発進して転倒してしまい、何故か車はこちら目掛けて突進してきたのだ!
「って!?」
「わー!」
俺達は慌ててその場から逃げ出すと直後、バンが猛スピードで俺たちが立っていた場所を横切った。
回避したその刹那、悪鬼のような形相をした運転席にいる人物を視界にとらえる。それは言うまでもなくあのクソジジイだった。
すぐにロリの安全を確認するが彼女は気絶した川津を抱え、どうにか回避する事に成功したらしい。つーか成人男性を米俵みたいに余裕で担ぎ上げるなんて滅茶苦茶力持ちなロリだな!?
「どいつもこいつもワシの事を馬鹿にしおってぇぇエエッ! 全員ぶっ殺してやるッ!」
「きゃあああッ!」
「うわあああッ!」
バンは周囲の人間に構う事無く暴走し歩道を走行、自転車や看板をなぎ倒していく。まるでニュースでよく見る高齢者ドライバーの事故のようだが、こちらは明確な悪意を持っている分それらとは一線を画す。
「おわッ!」
まず祖父は俺に狙いを定め突進をしてくる。数日前に戦った機関車の化け物と比べればなんて事はなく割と簡単に回避出来たが、こちらは攻撃に強い怨恨が混ざっており違う意味で恐ろしかった。
「い、痛いッ!」
「はあ、ひぃ、いい!」
それにここはあの時とは違い周りに多くの人間がいるためあちこちから悲鳴が聞こえた。巻き添えを食らって怪我をしている人もいるし早々にケリをつけなければならないだろう。
「川津ゥッ!!」
「やべッ!?」
祖父は続いて金髪ロリ、正確には彼女が抱えている川津目掛けて突進しその命を奪おうとする。
だがここにはナビ子はいない。俺にはただ狂った老人により少女の罪なき命が奪われるのを黙って見届ける事しか出来なかった。
「やめろッ!」
俺は最悪の事態を想像してしまった。しかしその時――!
ズドン、ズドンッ!
「ッ!?」
二発の銃声が聞こえると同時にタイヤが破裂する音が鳴り響く。バランスを崩したバンは壮大に横転し、金髪ロリの右側を火花を散らしながら滑る。
「ぐわあああ!?」
ガン、ガン、ガン! バンは跳ねながら転がり耳障りな音とともに電信柱に突っ込んで、ようやく祖父の凶行は止まった。
けど今の音は銃声だよな……一体誰が。
「おっと」
周囲をうかがうと建物の影に薄幸そうな少年を見つける。一瞬、彼は銃を持っていたようにも見えたがすぐに身を隠してしまった。
「わ、ととっ!」
「あ、おい」
金髪ロリは川津を一旦地面に置いてスクラップになったバンに走っていく。そしてなんとドアをバールも使わず素手でやすやすと引きちぎり中から祖父を救出したのだ。
「う、うう……」
祖父は頭から血を流しているが幸か不幸か生きている。俺は取りあえず彼の元に駆け寄り救助を手伝う事にした。
「生きてるか、ジジイ」
「うん、でもはやくちりょうしないとだめなの。けがしてるの!」
ロリは心の底から心配そうにそう告げる。それが俺にはさっぱり理解出来なかった。
「お前は優しいんだな。こいつはお前を殺そうとしたんだぞ?」
「それはそれ、これはこれなの。とにかくばくはつしたらあぶないからはなれないと!」
「へいへい」
俺たちは祖父を車から離し固い地面に寝かせる。彼は苦しそうに呻いたが、仮に死んだとしても自業自得だろう。
そんな彼に俺は見下すように言った。
「よかったな、完璧な殺人未遂だ。刑務所に入れば衣食住には困らない生活を送れるぞ。お前の貯金は全額被害者の弁償に使わせてもらう。もう老後の心配なんてしなくていいからな」
「クソぉ……!」
そう告げるとジジイは惨めに泣きじゃくる。パッと見た感じは大怪我をしている人もいないようだし、いてもせいぜい骨折程度だろう。
遠くからサイレンの音が聞こえる。これだけの騒ぎだ、地元のニュースでしばらくネチネチ言われるだろうな。
「はい、今手当てしますね」
いつの間にか薄幸そうな少年が戻って来て被害者の治療をしてくれている。随分と慣れた手つきで包帯代わりに破った布を巻いているがこういう事を日常的にやっているのだろうか。
いや、俺もボケッとしている場合ではない。不本意だが暴走老人の尻拭いをしてやらないと。さて、救助を手伝うとするか。