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4-35 見捨てられた祖父

 頃合いか。様子を見ていた俺は渋々口論している祖父と川津とかいう男の間に割って入った。


「はいすみませーん」

「善弘!?」

「む」


 祖父は藁にも縋る思いで俺を盾にするように背後に移動した。川津は俺を復讐の障害となる敵と認識し、包丁を構えて臨戦態勢になる。


「何だお前は」

「あ、俺の事は気にしなくていいです。あんたに少し聞きたい事があるんで。答えによっては別にこのジジイを死なない程度に殺してもいいですよー。俺も積年の恨みがあるので」

「善弘!? お前何を言っとるんじゃ!?」


 ジジイはひどく絶望した顔になっているのだろう。けれどゲーム機の恨みもあるし俺は彼を助けようとは思わなかった。


「ふん、死なない程度に殺してもいいってどっちなんだよ。まあいい、何だ、聞きたい事は」


 川津はその言葉で警戒心を緩むどころか、むしろ同じ被害者だと考えわずかながら親愛の感情を向けてくる。先ほどの話を聞く限りでは悪いのは祖父だし俺も出来れば彼の復讐を黙認したいしな。


「確認だが、暴動の混乱に乗じてうちのジジイとババアの家に火をつけたのはあんたか?」

「ああ、そのとおりだ。だが殺し損ねてここまで来るはめになった」

「やっぱりそうか。じゃあその時も今も、ぴーひゃら、ぽんぽん、って笛と鼓の音は聞いてないよな」

「ぴーひゃら、ぽんぽん……? ああ、なんか暴徒がそんな事を呻いていたな。その事か?」


 川津は困惑している事からどうやら彼と笛と鼓の怪異とは全く関係がなかったようだ。つまり俺のした事は無駄足だったというわけである。


「ふむ、わかった。もう殺していいっすよ」

「善弘ッ! 何を言っとるんじゃ!?」


 俺は川津に背を向けてジジイを見捨てて立ち去る。当然の事ながらジジイは慌てふためくが正直助ける気持ちにはならなかった。


「ハハ、無様だな。そういうわけだ、とっとと念仏を唱えろ御門ォッ!」

「クソォッ!」


 背後から怒声が聞こえるが俺は無視を決め込んだ。刃傷沙汰に巻き込まれる前にとっとと離れるとしよう。


 でもちょっと気になるし軽く様子だけでも伺おうか。やっぱりガチで殺されそうになったら止めたほうがいいかな。


「死ねやァ!!」

「ギギギィィ!!」


 俺はくるりと振り向きもみ合う二人を眺める。おお、ジジイの奴、歯を食いしばって火事場のバカ力で頑張ってるぞ。


 だがその時、


「わるいことしたらめっ、なのー!」

「ぶぎゅるぁぼッ!?」


 何だか聞き覚えのあるロリの声が聞こえ川津の右方向から見事なドロップキックが飛んでくる。彼女は転倒した彼にサソリ固めを決めてじわじわと関節にダメージを与えた。


「ひぃ!」


 しかしその隙にジジイはその場から逃げ出してしまう。チッ、命拾いしやがって。


「ふににー!」

「ギブギブギブ!?」


 それにしても革命戦士の現役時代を彷彿とさせる見事としか言いようがないほど美しい技だなあ。幼女なのに包丁を持った男を取り押さえた勇気よりもそっちの方が気になるよ。


 俺はこの金髪ロリにもちろん見覚えがある。真壁家の中華屋で大食いをしていた奴だ。見た目に反して戦いの心得があるらしい。


「おーい、その辺にしてやれ、死ぬから。サソリ固めは素人がやると危ないぞ。泡吹いてるし」

「え? ほんとうなの! たいへんなの! おきるのー!」

「ぼえ、ぼぼ、あぼッ!」


 川津の顔は右へ左へ勢い良く曲がる。幼女はベシンベシンと川津をビンタするがそれは黒のカリスマのように強力な一撃だった。


「ぴくぴく」


 これでは目を覚ますどころか永眠しそうだったがどうにか一命をとりとめたらしい。気を失ったけど。


「よかった、いきてたの! でもあなたひどいの、ぷんぷんなの!」

「え、ああ」


 ロリは幼稚な声で俺に対して怒りをあらわにする。まあ事情を知らない人間からすれば祖父を見捨てた俺はなかなか残酷だったからな。


「そのなー、普通は包丁を持った男に立ち向かえないもんなんだよ。取りあえず警察に電話するからさ」

「むー」


 ロリは納得していないようだったが俺はスマホを操作して警察に電話をする。こいつが放火や人を刺したのは事実だしそこは善良な市民として最低限の義務を果たそう。あのジジイを殺してくれなかったのは残念だけど。

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