4-30 父の働く姿
翌日、俺は天女伝説の情報を求めて自転車に跨り再び図書館に向かおうとしたが、道中あるものを発見してしまう。
図書館の近くには市民の交流の場である大型の施設があり、そこではしばしば催し物が行われるわけだが、屋外の広場でバザーを行っていたのだ。
バザー、か。情報があるとは思えないが調べ物の最中につまめる軽食くらいは手に入るだろう。たまには気晴らしをするのもいいかもしれない。
俺は敷地内に入り駐輪場に自転車を止め会場をぶらぶらと散策する。会場はそれなりに賑わっており、民芸品や手作りの雑貨、中古品など色んなものが売られていた。
「あれ、御門君」
「ん」
そんな時、一人の女性が俺に声をかけ近寄ってくる。うみちゃんだ。
「先生も来てたんですか」
「ええ、ちょっと知り合いの手伝いで。今は休憩中ですけど。なので今日は、そのぉ……」
「そうですか、先生も忙しいでしょうに、俺の都合で振り回してすみません」
「いいえ、謝るのはこっちのほうですよ、ちゃんと手伝えなくて」
うみちゃんは調査を手伝えない事を謝罪するがそんな筋合いは一切ない。社会人である先生は俺達の中で一番忙しいはずなのだから。
「せめてものお詫びに、先生が何か買ってあげますよ」
「え、いや、いいですよ」
だけどうみちゃんは俺の気持ちをよそにそんな事を言いだした。本来はこっちがお礼すべきなのに本当に申しわけなかった。
「子供が遠慮するものじゃないですよ。ほら、ほら!」
「え、ええ?」
先生はぐいぐいと俺の背中を押し強引に話を進める。仕方ない、ここは適当に安いお菓子でも買って顔を立てておくか。あちこちで軽食も売っているし探せば何かあるだろう。
俺は周囲の物を見渡し透明な子袋に入れられたクッキーを発見する。あれにしようかな、と思いブースに近づこうとしたが俺はすぐに身動きが取れなくなってしまった。
「御門君?」
「あ、いえ」
不思議に思ったうみちゃんは俺の視線の先にあるものを確認した。
そこにあったのは白倉青空工房という障がい者の作業所のブースだった。身体や精神に障がいを抱えている人がお菓子を作って販売しているらしい。
彼らは職員の人と一緒に笑顔で物販をしてそれなりに売れ行きも好調なようだ。この作業所のお菓子は地元のスーパーでも取り扱っており、金欠なところが多い作業所の中ではまあまあ成功している部類に入るだろう。
そこで雑用をしている利用者の中には俺の父さんもいた。うみちゃんも大体の事情を察し、不安げに俺の様子をうかがう。
「場所、変えましょうか」
「うん」
俺は父さんに気付かれないよう気配を消してその場から去った。気付かれたところで向こうが話しかけてくる事はないだろうけど。