4-29 傍若無人な祖父母
そして俺は早速情報収集をする。まずは神在の暴動についてだ。
異変が起きた神在に行ければ一番いいが、残念ながら距離があり気軽にはいけないうえ今なお未承認国家並みに治安が悪くそこかしこに警察官がうろついている。無用なリスクを避けるため俺は大人しくパソコンで調べる事にした。
自宅のパソコンを使ってもいいがジジイどもがいる家でやるのは気が進まない。なのでネカフェを拠点にし、その日は一日中ネットサーフィンをする事に決めた。
「ふーむ」
神在の暴動は多くの人間がスマホなどで撮影した動画を投稿しているので情報の量には困らない。しかしその中で有益なものがあるかと言うと必ずしもそうではなかった。
まず、そもそも映像の中にはグロテスクなものも多く通報され削除されたものも少なくない。またこれだけの騒動だ、日本は比較的報道の自由が保障されているとはいえ検閲もされているだろう。
暴れている人間の中にはぴーひゃら、ぽんぽんと常套句を言っていない人間もいる。こいつらは多分、精神が汚染される事なく混乱に乗じて悪さをしている普通の人間のはずだ。
そんな奴らを見分ける方法は簡単だ。精神が汚染された人間は金に目もくれずひたすら人を襲うが、それ以外の連中の多くは盗みを働くので十中八九そういう奴はただの人間と断定出来る。
俺は狭い個室でそんな動画を見続けてだんだん気が滅入ってしまった。これではどちらが化け物なのかわからないな。むしろ精神が汚染された人間のほうが普通の人間に思えてくる。
「?」
しかしその中で異彩を放っている情報があった。金棒のような武器を振り回すホームレス風の男が暴れる人間を殺しまくっているというものだ。
だがそのような人物が映った動画はどこにもない。その情報がガセネタか、あるいは検閲により削除されたのか……。
ガセネタにしてはホームレスの男に関する情報は多い。なので少なくともそういう人助けをしていた人間はいたのだろう。
(でも、ホームレスの男か)
俺はふと、この前目撃した白髪のホームレスの男を思い出す。
いや、考え過ぎだな。そんな都合のいい話はないだろう。とはいえ気になるので軽く頭の片隅にとどめておくか。
日も暮れて遅い時間になったので、俺は調査を切り上げ重い足取りで自宅に戻る。大した情報が得られなかった事もあるがやはりあのジジババがいる家に帰るというのが大きな理由だ。
「何じゃい、二万くらいええじゃろ」
「そうは言っても……」
玄関のドアを開けると早速口論する声が聞こえる。どうやらジジイが母さんに金を無心しているようだ。
「こんな何もなあ田舎じゃ暇すぎて死んでまうわ。パチンコくらいしか娯楽はありゃせん。あるんじゃろ、金」
「……一万なら」
「ふん、シケとるのお、まあええわ」
母さんは強引な祖父に仕方なく金を渡してしまう。その後頭部を殴り飛ばしたかったが今は我慢だ。
「それじゃあ、パチンコはまた今度にして取りあえず外になにか食べに行きましょうかね」
「え? ご、晩ごはんは作ってますけど」
そんな提案をした祖母に母さんは戸惑ってしまう。だが祖父は鼻で笑って、
「何日も続けてあんなクソ不味いもん食えるかい。わしらは勝手に食事をするからもう飯は作らんでええ」
そう言い放って二人は居間から出ていった。俺は慌てて身を隠し、祖父母と会わないようにやり過ごす。
「はあ……」
俺はため息をついた母親に近付きその様子をうかがった。やっぱりというか、かなり疲れているようだ。
「なんつーか、母さん、ご愁傷様」
「ああヒロ、帰ってたの。え、ええ、大丈夫よ」
母さんは無理に笑顔を作り、部屋から出てきた父さんも遠くから不安げに様子を眺める。逃げていたのは父さんも同じだったようだ。
「え、と、その……何か、ごめん。僕の父さんと母さんが」
「あなたは気にしなくていいわ」
父さんは相変わらず頼りなく俺はイライラしてしまう。母さんが矢面に立たされていたのにこいつは何をしていたのだ。
「でもどうしましょう。晩ごはんをせっかく作ったのに」
食卓には五人分の食事があるがどれもほとんど手つかずだ。けど、ちゃんと俺の分まで用意してくれていたんだな……。
……考えてみれば俺もあのジジババと似たような事をしていたのか。俺がいなくても母さんはずっとご飯を作ってくれていたのに。俺は自分が情けなくて自己嫌悪に陥ってしまった。
「仕方ないか。父さん、食べるのを手伝ってくれ」
「え、う、うん」
俺がそう提案すると父さんは驚きつつも承諾する。何だか久しぶりに会話をした気がするな。
重い空気の中、一言も発さず黙々と料理を片付ける。
別に美味くも不味くもない、普通の安い食材で作った野菜炒め。冷めてしまっているがどうにか食べる事は出来た。これは母さんが俺のために作ってくれた料理だし、面倒事を押し付けた責任は取らないといけない。
父さんはどんな事を思いながら料理を食べているのだろう。冷え切った料理は胃袋に収まり、吐きそうなほどに不快感が蓄積する。
「ごちそうさま」
そう言った後の事は何も覚えていない。とっとと寝て明日の活動に備えないと。