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4-25 誤魔化す不安

 その日の夕飯はアユの塩焼きと甘露煮がメインディッシュだ。目の前にある焚火の周囲には木の串が貫通したアユが立てられており、じっくりといい感じに焼き目がついていくのが目で見てわかる。魚の焼けるいい匂いもしてきて無性に食べたくなってきたよ。


「なんだかこういうのってサバイバルって感じがしますねー。焚火ってどうしてこんなに癒されるんでしょう」

「人の苦労も知らずに。こっちは死にかけたんですから」


 うみちゃんはこの状況を楽しんでいるようにも見える。きっとたくましい先生はもし無人島に遭難してもなんだかんだで生存出来るだろう。


「なー、まだかー?」

「まあまあ、その間甘露煮でも食べてつなぎなよ」

「お、ども」


 僕は塩焼きを待ち望んでいるつるぎちゃんにアユの甘露煮が入った小皿を渡す。彼女はそれを箸でつまんで口に放り込むとうーん、と幸せそうな顔になった。


「こんなに煮込んじゃって、骨まで食べれるよ。甘辛さも絶妙だしみのりは料理の天才だな。出来れば米が欲しいけど」

「もちろんあるよ」

「お! わかってるじゃん!」


 さらに追加でお茶碗を渡し彼女はバクバクと米を掻き込む。体育会系にジョブチェンジしたせいで食欲は昔よりも遥かに旺盛になったようだ。


「そろそろ焼けたんじゃネ」

「そうだね、早速食べるとしようか」


 アユの塩焼きもいい感じに焼けたので、僕は串を手に取ってかぶりついてみる。


 パリパリとした皮の食感に引き締まった身が絶品な塩焼き。熱々でしっかりと火が通っていて文句なしで美味しく、旬は過ぎていてもまったく気にならない。流石アユが特産品な事だけはあるだろう。


「うわー、うんめー!」

「はいー!」


 だけど皆はじゃれ合いながら料理に舌鼓を打っていたのに、ナビ子ちゃんは食事の間もずっと上の空だったんだ。


 いつもなら奇声をあげたりダンスをしたりするのにそれはかなり異常な事だ。僕はなんとなく声をかける事が躊躇われて黙って料理を食べ続けた。


 理由がわからないまま、夜は更けていく。



 その晩はまるで修学旅行の様なはしゃぎようだったけど、翌朝にはやっぱり皆いなくなってしまった。


 僕とナビ子ちゃんは空っぽの毛布を眺める。本当にどのタイミングでいなくなるのだろう。


「むむ、お帰りになってしまわれました。何だか寂しいデス」

「そうだね」


 だけど二回目だし僕は別にどうとも思わない。きっと巡り合わせがあればまたやってくるだろうし。


「ハッ! ワタシとした事がとても大事な事を忘れていました!」

「え、どうしたの?」

「温泉のイベントスチルデス! 女子どものキャッキャウフフな撮影をする予定だったのに! こうなればみのりさん一人でもいいので撮影をさせてください! もちろん地上波では出来ないパイモロバージョンで!」

「もちろんお断りするよ」


 そんなハイテンションで無理難題を言ってくるナビ子ちゃんは普段どおりで昨日の違和感はどこにもなかった。僕は気のせいだったと自分に言い聞かせそれ以上気にしないようにしたのだった。


 本当は彼女が何を思っていたのか、薄々気付いていたのに。

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