4-24 VS擬態カシャ
ポーッ!
「?」
だけどその時なぜか汽笛の音が聞こえた。そんな事はあり得ないから一瞬空耳かと思ったけれど、何処からともなくシュポシュポという音が徐々に近づいて来る。
「ねえヒロ、光姫ちゃん。これってあれ?」
「まあ、薄々予想はしていたけどな」
「話に聞いていた、あれだろうナア」
ポーッ!
一際大きな汽笛の声が聞こえ僕たちは慌ててその場から走り出す。直後、右側にあった建物を突き破り機関車が突っ込んできた!
「うわあ!?」
逃げながら振り向くと建物は言うまでもなく木っ端みじんになっている。機関車はそのまま空へと走り、空中を旋回しながら僕らの追尾を始めた。
「おいおい、この世界はこんなわけわからん化け物がいるのカ! そもそも生き物じゃねえケド!?」
「さすがにこんなのはレアケースだよ!」
僕は改めて機関車を観察する。機関車の前方には怒り狂った鬼のような顔があり、車輪は炎で包まれ、移動するたびに炎をまき散らしてあちこちに火をつけている。放っておけば辺り一帯が火の海になってしまうだろうけど町を護る事なんて出来やしない。
後にカシャと名付けられる巨大な機関車の怪物に人間如きが敵うはずもなく、僕らはただただ逃げる事しか出来なかった。あんな敵にどうやって勝負を挑めと言うのか。
カシャはシュポシュポと煙突から黒煙を噴き出し繰り返し突撃攻撃を仕掛けてくる。とてつもない馬力から繰り出されるのその攻撃に対し、隠れるなんて無意味なことはせず僕らはとにかくひたすら避けて避けて、避けまくった。
敵は一番弱そうなヒロを狙いに定める。だけど彼は寸でのところで攻撃を回避した。
「おわっと!」
バキバキバキ! 人々の生活していた廃墟はカシャによって完膚なきまでに破壊しつくされる。その無慈悲な攻撃には恐怖を抱くと同時に怒りも覚えてしまう。
「無茶苦茶しやがるナ……!」
パワーもスピードもあるが機関車がモチーフの敵である以上急には曲がれないのがせめてもの救いか。なので一度攻撃を回避すれば次の攻撃に備える程度の余裕はある。
だけどカシャは学習し道に沿って攻撃を繰り出す事を思いついたようだ。僕らが逃げてきた道を戻り、敵は背後から全力の突進攻撃を行った!
「ひー!」
僕らはひたすら走る、走る、走る! 追いつかれる瞬間、僕らは十字路で左右に別れどうにかギリギリ生き延びる事が出来た。
「ヒロ、光姫ちゃん!」
「あーもう、死ぬわ!」
「こっちは無事ダ! クソモヤシも泣き言を言うナ!」
僕は戦場で孤立してしまう。僕らが先ほどまでいた通りは焼き尽くされ、メラメラと炎が燃え盛っていてとても足を踏み入れる事は出来そうになく、戻る事は不可能だ。
「すぐに合流するから、お前はとにかく逃げてクレ!」
「う、うん!」
僕は光姫ちゃんの指示どおりその場から逃げ出す。だけどどういうわけかカシャは僕をターゲットに変更してしまった。
「こっちに来ないでよー!」
その悲鳴を聞いて狂喜したカシャは汽笛を鳴らした。まるで狩りを楽しむ悪趣味な成金のように敵は僕をじわり、じわりと追い詰めていく。
隠れる場所はどこにもない。コンクリートの建物も、この機関車の突撃の前には無力なのだ。カシャはあらゆるものを破壊しつくして美しい町を焦土に変えていった。
「ヒィ、ヒィ、ヒィ」
ずっと走り続けるのも限界だ。燃え盛る炎から立ち上る有害な黒煙は僕の肺を侵し続ける。
呼吸が出来ない。首を絞められているかのように苦しい。僕は地面に突っ伏してしまった。
前方から汽笛の音が聞こえるのですぐそこまで迫っているのだろう。だけど僕は怖くて顔をあげる事が出来なかった。
ああ、これ以上はもう無理だ、走れない。僕はここまでなのかな。
死ぬのは、嫌だよ……!
「こっちダ!」
「え!?」
だけど光姫ちゃんがわき道から飛び出て僕を抱えてカシャの攻撃を回避した。直後、紅蓮の炎は道を焼き尽くし、僕は唖然としつつも助かったのだと理解した。
「うおらあッ!」
続いて現れたヒロは意味もなく走り去るカシャに大きめの瓦礫を投げつけた。もちろんそんな攻撃が効くわけがなくこけおどしにもならなかったけど。
「あ、ありがとう、二人とも」
「口を動かす暇があったら逃げロ。酸素がもったいナイ!」
「つっても、どこに逃げればいいっちゅーねん!?」
ヒロはキレ気味に叫ぶ。カシャの炎により周囲は焼夷弾を落とされたかのような光景になっていた。炎に包まれている以上これ以上逃げる場所はどこにもない……!
だけどその時、救いの天使が現れた。
「お困りデスね! このスーパーロボットメイドが来たからにはもう安心デス!」
「ナビ子ちゃん!」
彼女は屋根を飛び交い、両足を機関銃に変形させ空中で回転しながらカシャに銃弾を浴びせる。
「うららー!」
弾幕で怯ませたところで雄叫びをあげたナビ子ちゃんは屋根を走り、ガトリングを撃ちながら接近、全てを断ち切るレーザーブレードでその頭部を一刀両断にする。あれだけ苦戦したカシャは派手に爆発しあっさりと撃破されてしまったのだ。
「ぶい、デス!」
「あはは、本当にナビ子ちゃんはすごいね」
ナビ子ちゃんは屋根の上でブイサインを作り、ピョンピョンとこちらに飛んでくる。そのあまりの強さに初めて見た光姫ちゃんは呆れてしまったようだ。
「全くダ。こんな事なら助けるんじゃなかったヨ。アタシらただの足手まといじゃねぇカ」
「だよなあ」
「何を言っているんデスか、お二人がみのりさんを助けて時間を稼いでくれたおかげで間に合ったんデス! でも……」
ナビ子ちゃんはフォローの言葉を言ったあと何かを言いたそうにしたけど、すぐにシュンとして黙り込んでしまった。
「でも? どうしたの、ナビ子ちゃん」
「いいえ、何でもないデス。さあ、バスに戻ってごはんにしましょう! 新鮮なアユがワタシたちを待っています!」
彼女は不安げな表情を食欲で誤魔化す。その時彼女が何を思ったのか僕はちょっと気になったけど、こんな暑苦しい場所にいるのは嫌だしすぐに戻る事に決めたんだ。