涙味のラムネ
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私が意図せず漏らした溜息に、傍らのその人が顔を上げた。
「どうしたの」
ちらりとこちらに視線をやってすぐに手元の本に視線を落として興味なさげに尋ねてきた。
「いや、なんでも」
読書の邪魔をされることが嫌いな彼が問いかけてきたことに、思わずかまってアピールに見えたのか考えてしまって咄嗟にそう答えてしまったが、溜息を零れた理由を考えると理由を言った方がよかったかもしれない。
ベランダで二人並んで本を読んでいる今、本の内容よりもセミの鳴き声や扇風機の音、夏の日差しが今日も照っていることに思いが行く。
所在なくさまよう自分の視線を切るために立ち上がり、冷蔵庫へと足を運んだ。
彼が好きなラムネが二本丁度入ってるのを見つけて、声をかけるきっかけに持っていくことにした。
はい、と渡したラムネにまたちらり、ありがとう。と彼は視線をよこした。
彼が口をつけたのを確認して、自分の分もちびりちびりと半分ほど飲み進めてから彼に話しかけた。
「ねぇ。私たち、しばらく会話もスキンシップもしてないよね」
そう思い切って彼に言うと、彼は僅かに栞の紐を捩じって黙すと、ぱたりと本を閉じて向き直ってきた。
「今、必要?」
そう短く返され、しかも必要か否かなんて聞かれるとは思わず絶句していると
「俺もちょっと”いいところ”だったし、あれだわ」
距離置こうか。とあっさり告げて本だけ持って部屋から出て行った。
彼の存在が隣にあるラムネぐらいしかないことに呆然としつつ、その「距離」は一体何を示すんだろうと不安が胸をよぎり、ラムネを一気に飲み干した。
太陽のまぶしさが目に付く、彼の分まで飲み干した炭酸の強いラムネは涙の味がした。
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