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テンプレ転生なんてしたくない!【前編】

前編・後編です。


 俺という存在を言い表す一言を選べ、と言われたら俺は迷わずこう答えるだろう。


 平凡。


 身長も体重も日本人の平均。見た目に大した特徴もなく、顔の造形もこっ酷く貶すほどではないが、これといって褒めたたえる要素も無い。

 運動能力は全て全国の平均程度。勉強もできないわけではないが、大体偏差値50を超えるか超えないかぐらい。

 父は会社員、母は専業主婦という、これまたごく一般的な家庭に生まれ、弟が一人だけいる。弟との仲は比較的良好だが、どこかに一緒に遊びに行くほどでもない。

 高校でも特に活動的に部活動や生徒会に参加するでもない。カーストで言えば下の上ぐらい。いてもいなくても変わらないその他大多数。口数も多くなく、最後にクラスメートと話した言葉は「あれ、お前って同じクラスだったっけ?」。


 何ともまあ神様がパラメータ調整をサボったとしか言いようの無い平々凡々な人間。テンプレートをそのままなぞったような人生。


 それが俺、鈴木隼人だ。


 自分で自分を客観視して悲しくなりながらも、俺は一人寂しく空き教室で弁当を口に放り込んでいた。


 現在俺は大学一年生。

 つい数か月前に大学受験が終わり、家の近くのしがない私立大学に入学を果たした。とりたてて偏差値が高いわけでもなく、だからといってF欄と謗りを受けもしない。


 平凡極まれりな人生に飽き飽きしていた俺は、心機一転、大学で平凡を脱しようとした。染めたことの無い髪を金髪に染め、何の活動をしているかも分からないようなノリと勢いだけのサークルの新入生歓迎コンパにも片っ端から参加し、同じ学科の人間全員とLINEを交換したりした。


 いわゆる大学デビューというやつである。


 色んなところに顔を出し、平凡を脱すべく奮闘した俺の大学デビューは、今後4年間の大学生活を輝かしいものとする第一歩になる。


はずだった。


 俺は誰もいない教室で一人悲しく母親の作ってくれた弁当を貪る。


「どうしてこうなった…………」


 口の中に入れた酢の物が妙に酸っぱく感じる。

 大学デビューに張り切っていた俺は気づかなかったのだが、どうやら大学デビューをした人間というのは周囲にバレるものらしい。しゃかりきな俺を最初は受け入れていた人たちも、「なんかあいつのテンション違くね?」 という極めて直観的だが納得のいく理由で離れて行った。


 いや、離れていくというのもおかしな話だ。もともと近づいてすらいなかったのだから。


 というわけで、全員と仲良くなり、自分の地位を確かなものにしようとした俺は、こうして誰とも仲良くなれず、腫物のような地位を確立したのだった。


「こんな非凡は望んでねぇ!!」


 ガンガンと教室の机に頭を打ち付ける。

 はたから見れば奇行も奇行。学内であろうと通報待ったなしだが、この教室には俺以外誰もいない。さすれば咎められるいわれもない。


 ここ1カ月ほどで、学内の空き教室についてはほぼ完ぺきに把握した。

 特に、昼休みの前後に授業が無い教室は昼休みの時間中も誰もいないことが無いからオススメだ。是非各位もぼっち飯をキメるときは、参考にしてほしい。いや、参考にしないでくれ。


 大学に入って様々な授業を受けたが、学べたことと言えば「下手に大学デビューをしてはいけない」ということだろう。


 午後の授業が憂鬱だ…………


 嫌が応でも学科の面々と顔を合わせる必要がある。

 はぁ、とため息をついて毛が生え変わりつつあるプリン頭をガリガリと掻くのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 明滅。轟音。衝撃――――


 暗い暗い視界が、一瞬のうちに真っ白に塗りつぶされた。

 ぼんやりとした思考。

 焦点すら定まらない視界の中に、一人の影が見えた。


「お主は死んだ」


「…………は?」


 俺の口から零れた声が、すべての感覚と記憶を引き戻した。

 昼飯を食べて授業に出た後、俺はいつも通り自転車で直帰した。結局どこのサークルにも入れず、友達も作れなかったからだ。いや、違うんですよ。家が大好きだから早く帰りたかっただけなんですよ。


 そして、その帰り道。


 横断歩道を渡る最中に――――


「お主の死因は…………」


「あーあー! 待った!!」


 目の前の白ひげを蓄えた爺さんが何かを言おうとするのにストップをかける。

 そこで初めて自分がよく分からない白い空間に立っていることに気づいた。


 そして眼前にはあったことも無い白髪白髭の老人。


 俺の「待った」に不思議そうに首を傾げている。


「そうじゃな……確かに性急過ぎたかもしれん。まだ自分の死を受け入れられんのじゃな……」


「いや、そうじゃなくてですね、俺が死んだっぽいなってことは何となく理解したんですが……」


 記憶の途切れる直前。


 信号の明滅、肉体と何かがぶつかって弾ける轟音、そしてすべてが歪んでいくような衝撃。

 明らかに即死。あれが夢だとは思えない。


「じゃあ、何が不満なんじゃ」


「いや、まさかテンプレみたいな死に方してないですよね?」


 目の前にいる爺。そいつが何やら俺が死んだとか宣っている。

 これは、あれだ。異世界ものの小説でよく見るやつだ。


 暇つぶし程度によく異世界転移や異世界転生などのWeb小説は読んでいた。それに照らし合わせれば恐らく俺の死因は――――


「てんぷれ……というのが何を指しているのかは知らんが、お主はトラックに轢かれて死んだ」


「やっぱりねぇ!! そうだと思いましたよ!!」


 テンプレのような人生をなぞってきた男は、その死因もテンプレだった。

 日本の若者、トラックに轢かれ過ぎでしょ。


「しかし、すまん。お主を殺してしまったのは儂の手違いでな。あ、言っとらんかったけど、儂は神じゃ」


 「神じゃ」ではないんだけど。何だその雑な名乗り。自己紹介のタイミングで「僕は人間です」って名乗るやついないだろ。


 神様という存在、カジュアルに人を誤殺するが、神界に業務上過失致死とか無いんだろうか。


 って、待て。この流れは…………


 俺は既に引きつりつつある頬を痙攣のようにひくひくさせながら、自称神の言葉を待った。


「お主を元の世界に蘇らせることはできん。だから、別の世界に生まれ変わらせようと思う」


「ですよねぇ! この流れ、確実に転生する流れでしたもんねぇ!!」


 テンプレ通りの展開に俺は思わず叫んでしまう。

 俺は死してなおテンプレに囚われ続けるのか?


 ……………いや、違う。


 今こそ俺はテンプレを脱するんだ。

 ありきたりな無双やチートやハーレムじゃない。

 異世界転生者なのに平凡であるという、非凡を選ぶ。


「それで、転生時に何か特典を付けようと思うのじゃが――――」


「要りません」


「ふむ?」


 自称神の片眉が上がる。


「俺はテンプレとか平凡に飽き飽きしてたんです。異世界転生してチートやら何やらでイキり散らかしてハーレム形成するようなテンプレ異世界転生生活はしたくありません」


 俺の真剣な訴えに自称神は「ふむ」と言うと、柔和な笑みを浮かべた。


「ふぉっふぉっふぉ。なるほどなるほど、ありきたりな生活は嫌じゃと、波乱を望むというのじゃな」


 実際に「ふぉっふぉっふぉ」とか「のじゃ」とか言うやつ初めて見たけど。キャラ付けの方向性に苦戦でもしてるのかこの爺さん。


「…………いや、波乱までは要らないんですが」


「良いじゃろう。お主の願い、聞き届けた」


「え、本当に聞き届けられてます? おじいちゃん、耳遠くなってないですか?」


「お主の次なる人生に、幸のあらんことを!」


 いや、お前が殺したんやろがい!!

 と叫ぼうとするも、既に俺には肉体が無く、意識だけの状態になっていた。やがて、瞼が閉じるようにして意識が遠のいていき、徐々に世界が閉じていく。

 最後に掠めた思考は、「今度こそはテンプレなんかに陥らないぞ」という強い覚悟だった。


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