異世界転生
「.....んー」
俺はゆっくり目を覚ます。目の前には木と青空が見える。背中、手足には草と土の感触がある。どうやら俺は地面に横になってるらしい。これらの分析からどう考えてもここは自室ではない。外である。
「どうなってんだこれ.....」
めちゃくちゃ苦しんで意識をなくし、目覚めると目の前は外。はっきり言って意味不明。考えられることと言えば.....。
「異世界転生.....」
最後に意識がなくなる前に見たスマホの画面を俺は思い出す。
転生するときが来た。
確か、そんなことが書いてあった。俺は本当に異世界転生したのか?いや、そんなわけがない。どう考えてもここは夢の中。そうに違いない。そう思って起き上がり、まわりを見渡す。どうやら俺は森の中で倒れていたようだ。
「随分とリアルな夢だな」
そう呟いた瞬間。近くからファンシーな音楽が聞こえる。それは俺にはよく聞き覚えのある音。スマホの着信音である。スマホは俺のすぐとなりに落ちていたので、拾ってスマホの画面を見た。画面にはメールが1件きていた。俺はメールを開いてみる。
ようこそ。異世界『ユリアス』へ。気分はどうかな?赤谷タクマ。
ユリアス。確か意識をなくす前に見たなろう小説に書いてあった異世界の名前だと、俺は思い出しながらメールの続きを読む。
ちなみにこれは夢ではなく現実である。君は現世で死に、この世界に転生してきたのである。神を決める戦い『ゴッドオリジン』の10人目に選ばれたのだ。
「夢ではなく現実、か」
にわかに信じがたい。君は異世界転生したのだ、とか急に言われても容易に信用できない。むしろ、なろう小説の読みすぎで自分の頭がおかしくなったのではと疑ってしまう。俺はメールの内容を不審がりながら続きを読んでいく。
まずは初期装備として冒険者の服を君に与えた。聖武器、守護者に関しては自分で探せ。それらは世界のどこかに必ず存在する。そして、必ず君と巡り合うようになっている。ゴッドオリジンを生き抜くためには聖武器、守護者は必須となる。先にその2つを揃えることを推奨する。
俺は自分の服装を確認する。自室にいたときはTシャツにジャージのズボンをはいていたが、今はファンタジーゲームによく出てくるレザーアーマーを着ていた。色は赤を特色としている。初めて着た鎧だが、不思議なことに重くない。重くないように作られているのだろうか?
「それにしても、聖武器に、守護者か.....」
守護者と言うからには自分を守るボディーガードみたいなやつらだと予想はできるが、聖武器って言うのはなんだ?そもそも探せと言われてもどう探せばいいかわからないし、ここがどこかもわからない。
俺はスマホの画面を確認するが、聖武器についての詳細は書かれていない。というか、先に2つを揃えることを推奨するという文章から後の文章はなく、ここで終わっていた。不親切なチュートリアルだなぁと俺は呆れた。
わけがわからん。とりあえず、この森を抜けよう。
そう決めた俺は立ち上がり、森の中を歩く。歩きながら、今のこの状況をなんとなく考える。森を抜けたらとりあえず町を探そう。そこでまずは宿とか、飯とかを確保してから今後のこと考えて、聖武器とか、守護者とか、何か知ってないか誰かに聞いてみよう。よし、方針は決まった。まずは森を急いで出よう。日が暮れたら野宿確定。野宿なんてサバイバル知識のない俺に最悪な状況だ。というわけで、俺が森を脱出するためにひたすら歩いていると、どこからか水の音が聞こえ始めた。
「もしかして、川があるのか...?」
僥倖。これはツイてる。川下に歩いて行けばいずれ森を抜けられる。急いで川を探そう。
俺はダッシュで水の音が聞こえる方向に走っていく。すると、大きな川を発見した。幅が大きく、流れが速い。故に離れたところまで聞こえる水音を鳴らしていた。
「よし。このまま川沿いに歩いて行こう」
そう呟いた瞬間。グゥ〜とお腹の音がなった。
「それにしても腹減ったなぁ。早く何か食いたい...」
ふと、俺は川を見る。釣り竿とかあれば、魚を釣ることができるのになぁ。と考えてすぐに、自分が魚をさばけないことに気づき、どのみち食べられないことにがっかりする。さらに、あることにも気づく。
「そういえば金持ってないんだよなぁ俺。街に行けたとしても飯にありつけないかもなぁ」
今更スマホ以外手ぶらなことに気づく俺。ああ、こんなことになるならサバイバル技術勉強しとけばよかった。そうしたら、魚とか獣狩って飯を食べられたかもしれないのに...。
そんなことを考えながら川を眺めていたそのとき、突然、後ろからオオカミの遠吠えのような声が聞こえた。大きさとしてもかなり距離が近い。
嫌な予感がする。早くここから離れよう。
俺は川沿いに下り始めると、ドスドスドスと、後ろから何かが勢いよく走って近づいてくる音がする。意を決して俺は振り向いた。
そこには、体長3メートルほどの2つ頭のある巨大オオカミの化け物がこちらに迫ってきていた。
「な、何だよあれ!?」
化け物にビビった俺は全力で川沿いを下りだした。オオカミの化け物も俺を狙って追っかけてくる。
まずい。このままだとすぐに追いつかれる.....!
俺は川を下るのをやめて、再び森の中に入った。巨大オオカミは俺を追おうとするが、でかい図体というのもあって森の中の木々が邪魔で思うように動けないようだった。
「よし、今のうちに遠くへ逃げ.....」
言いかけたその瞬間。巨大オオカミが大きく吠え、木々を無理矢理なぎ倒し、俺を追いかけてきた。ヤバいと思った俺はひたすら森の中を駆け抜ける。木の枝が腕や顔にあたり、擦り傷ができてものすごい痛いが、今はそれどころじゃない。早く逃げないとあの化け物に食い殺される.....!
俺が正面に全力で逃げていると、森の中を抜け、開けた場所に出る。そして、その目の前の光景を見て絶望した。
「行き止まり.....」
崖下。目の前は岩の絶壁。逃げ場はなかった。この状況に思考停止した俺が立ち止まり後ろを振り返ると、追いかけてきた巨大オオカミがとうとう俺に追いついた。巨大オオカミは俺ににじりよってくる。俺は後ろに下がる。どんどん追い詰められていく。変な汗がでてくる。涙がでてくる。俺は今人生で一番絶望し、恐怖した。
さっきまでずっとこれは夢だと思っていたが、ようやく俺はこれが現実であり、本当に異世界転生したのだとようやく実感した。
このままだと本当に食い殺される。嫌だ。死にたくない!!
「誰か、助けてくれ!!!!」
助けなんてくるわけがない。しかし、どうしようもなくて、怖くて、俺は無意識に叫んだ、そのときだった。ズドオオオオオオオオオンと大きな音を鳴らし、突然、巨大オオカミが横に吹き飛んだのだ。
「な、何が、起きて.....?」
突然の状況に困惑していると、俺の前に1人の少女が現れた。
「間に合ってよかったです」
俺は少女を見る。青髪のショートヘアに、青色の瞳。右手に剣を持っていて、黒い学校の制服のようなものを着ている。顔は整っていて美少女だ。少女は俺の顔を見て優しくニコッと笑った。
「安心してください。私が来たからにはもう大丈夫です。あなたは私が守ります」
「えと、あなたは一体.....?」
「私はレイラ。レイラ・アルティンス。あなたの守護者です!」
これが、俺とレイラとの出会いだった。