Ⅰ
「おい、レオ!今日から戦場へ行くって本当か?」
背丈が高く、まじめそうな容貌をした青年、キウスは大声で親友の名を呼んだ。
呼ばれた若き青年が振り返る。顔つきはまだ幼さが残っているものの、背丈も十分に育ち、何よりしっかりとした体つきをしていた。
「まぁ、本当だよ。」
キウスは喜び、レオの肩を抱いた。親友である彼が他者から認められると言うことは、誇らしいことだった。
「15なのにやるじゃねぇか。」
「そんなことないさ。」
レオは頬をかきながら話す。
「陛下が早いうちに戦場を見ておいた方がいいとおっしゃったから、連れて行かれるだけさ。何か特別なことをしたわけじゃないよ。」
レオは王族の者だ。本来であれば特別視され、貴族であるキウスでさえも、このように話しかけることは礼儀知らずとされている。だが、レオの人当たりの良さと、キウスの優秀さが相まって、他者からも認められていた。もちろん、公式の場ではそれなりの礼儀を尽くすことを、キウスもわきまえている。
「それでも、俺としてはうらやましい限りだよ。訓練より戦場の方が楽だって言うじゃ無いか。」
彼らは日常的に過酷な訓練を負わされている。王族であったとしても、それは同じ事だった。この国の男達のほとんどは戦士としての訓練を義務づけられていた。
「それは年配の伯父様達が言っているだけで、実際どうかはわからないさ。」
レオは少し困った笑顔を見せた。いけるのは自分だけという負い目があった。本当であればキウスも一緒に行った方がいいのだ。彼が非常に俊敏で、賢いことを知っていた。自分よりも戦績を上げられるだろうが、今回はただの親の七光りだ。もちろん、親友はそんなこと気にもかけていない。
「それでも、凄いことには変わりないさ。頑張ってこいよ。」
「ああ。ありがとう。」
親友はそのまま、去って行った。
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初陣前日の夜、レオは寝床で様々なことを考えた。戦いのこと、どんな強敵がいるのか、そして自分がどれほどの戦績を上げられるのか。そんなことを考えていたら、なかなか寝付くこともできなかった。はやる気持ちを抑えきれずに、壁に開けられた空気穴から、空を見上げた。レオは昔から、眠れない夜はこうやって夜空を見上げるのが好きだった。空から落ちてきそうな星々は、自分に何かを語りかけているような気がしていた。
高台にある彼の家からは、街の家々だけでなく、遙か先の地平線まで眺めることができた。彼の地で多くの人を殺し、戦果を上げて帰ってくれば、厳しい父も認めてくれることだろう。
王は自分にも他人にも厳しい人で、幼少期に褒めらたことはほとんどない。優しさこそ見えないが、それが王であり、弱さを見せることは許されないのだと、周りの大人達が教えてくれた。ただでさえこの国の男児はみな、厳しい訓練のため、7つになると親元を離れる。母の愛情は深く受けた覚えはあるが、忙しい父との思い出は、もとより少なかった。父とともに戦場へ行ける。それだけでも彼にとっては誇らしいことであった。
考えながら、夜空の月を探すが、その日は月のない日だった。少なくとも窓からは、その形は見当たらなかった。レオの心に少しだけ、不安がよぎった。今日は大きく丸い月が出ていてほしかった。だが、月は満ち、欠けるものだ。気にかけたところで、なんと言うことも無いはずだ。そう考えてから、再び横になり、少しでも眠ろう、と目を閉じた。
しばらくたってから、彼は眠りに落ちた。一抹の不安を、心に残しながら。
この後はまだ思案中ですが、戦争ものを書きたいと思ってたので、楽しみです。