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戦闘嫌いの女魔王。私が魔王とか無理ゲーなんですけど……  作者: ぽん太
第一章~戦闘嫌いの魔王誕生編~
7/16

学校へ行きましょう

 時刻は十七時。魔王の城で起きた宣言は既に街中に広まっていった。魔王の城から屋敷に向かったイヴを乗せた馬車は今、屋敷に到着した。


「…ヴさ…イ…様…イヴ様、お屋敷に着きましたので起きてください」


 そう言って誰かが声をかけるのが聞こえてきた。もう、うるさい、人の睡眠を邪魔するのは誰? 目をこすりながら声のする方へと視線を向ける。


 すると、そこに居たのは、若干顔が赤くなりながら視線を空へと漂わせているボブだった。


「なんだ、ボブか……なに、もう家に着いたの? てか、なんで顔赤くして視線を変なところに彷徨わせてるの? キモイよ?」

「き、キモイってなんですか!? 自分だって見てはいけないものくらい心得てますから!」


 ボブはそう言うとこちらを見ないまま指さしてきた。


「見てはいけないもの? あぁぁ、これね」


 ボブの指さすほうを見ると、ドレスが捲れていて下着が見えそうなくらいはだけていた。中学生の生足見て顔赤くしてるとか……やばっ、めっちゃウケる!


「な、なにを笑っているんですか!? イヴ様は女性としての恥じらいをですね……性格や言動はともかく見た目は良いんですから気を付けてください! 寝るときは羽織るものをお貸ししますから、それをかけておいてください!」

「へぇ、性格や言動はともかくって言葉には大いに引っかかりを覚えるけど……それでも、ボブは私のこと可愛いって思ってるんだねぇ~。だから生足見たくらいで顔赤くしてるんだぁ~」

「ニヤニヤしないでください! 自分はイヴ様のことを思って言っているだけです。やましい気持ちなんてありません! それとボブじゃなくてアダマスです! なんなんですか、ボブって!」

「えぇ、ボブでいいじゃん。アダマスって長いし。うん、ボブに決定! あと今度からボブが私の専属ね。久しぶりに面白そうなやつ見つけたんだから」


 私はボブにそれだけ告げると馬車から降りて家に入る。後ろからボブがなにやら騒いでいるが気にしない。「専属って何ですか! おもちゃ扱いですか!」とか意味わからないこと言っているが知らないふりをしとく。性格なんか簡単に変わるはずもないのに、ボブだけには普段の自分とは違う自分を見せれる。それがどんな気持ちで起きていることか分からないが、私には関係ない。


 今も昔も変わらず自分の世界を生きるだけ。周りから見れば根暗で気持ち悪く、戦闘嫌いの出来損ない、コミュ障の屑であろうと私はそんな自分が大好きだし変える気もない。魔王なんて面倒なことはしたくないし、家でゲームしてるのが一番。


「ただいまぁ」


 家の扉を開け挨拶をする。すると、二階からどたどたという足音が聞こえたと思うと、ものすごい勢いで階段を下りてくるリッ君の姿が!! 驚いているとそのままの勢いでリッ君がだきついてきたぁぁぁ!? わ、私のお腹にリッ君がう、埋まってるよぉぉぉぉ。


「りりりり、リッ君!? ど、どうしたの? そんな走ってきたら危ないでしょ?」

「ご、ごめんなさい。お姉さま」


 リッ君が顔を上げて謝ってくる。私を見つめる瞳がうるうるとしている。


「り、リッ君? ほんとにどうしたの? お姉ちゃん、リッ君を泣かせるようなこと何かしちゃったかな?」

「な、泣いてなんかいません! ただ……」

「ただ?」

「ただ、先ほどお姉さまがおじい様から次期魔王様に選ばれたという話を聞いて……お姉さまはとてもすごい方ですからそれを受けるのは当然なのに、友達や周りに居た大人の人はお姉さまをバカにしていたので……」


 そう言って、うるうるとしていた瞳から涙が零れ落ちる。零れ落ちた涙が、私のドレスを濡らしていく。リッ君の涙を見て、私は家に入るまでに考えていたことを後悔した。私は自分の世界を守っていればよかったけど、そんなものを守っているあまり、大事な弟のことすら守れていなかったのだと気づかされた。


「ごめんね、リッ君。ほんとにごめん……だめなお姉ちゃんで本当にごめんね」


 気づいたら、私はリッ君を抱きしめて泣いていた。人生で初めて大泣きしたかもしれない。リッ君も抱きしめ返してくれて、大泣きしていた。家にはお母さんは居なかったらしく、誰にもバレることなく二人で泣き続けた。


 と思っていたら、不意に声をかけられた。


「えっと、イヴお嬢様? それにリック坊ちゃん? そんなに泣いてどうしたんですか!?」


 ほんと空気読めない、ボブだな。だからボブなんだよ。と心の悪態をついておく。リッ君はボブの出現に驚いて離れてしまった。あぁぁぁ、私の癒しがぁぁぁ……うん、やっぱこのボブは土に帰しておこう。


 目をこすり涙を拭きとるとボブをにらみつける。


「ねぇ、姉弟水入らずでいたのになんで空気読まないで入って来たかな? かな? ほんとボブの癖に使えない……」

「いきなり辛辣すぎじゃないですか!? あんな大声で泣いていれば心配して入ってきますよ!」


 ボブはそう言うとハンカチを二つ取り出して渡してきた。なんで、こいつは二つもハンカチ持ってるの?


「ありがとう。でもさ、なんで二つもハンカチ持ってるの? 普通に考えて一つで足りるよね?」


 ハンカチを受け取り一つをリッ君に渡す。リッ君はハンカチを受け取るとボブにお礼を言って涙を拭いていた。


「二人の泣き声が聞こえたんで同僚から借りてきたんですよ! なに気持ち悪いみたいな顔してるんですか!? もう、心配して損しましたよ……って、それよりもリック坊ちゃんの前で変な呼びかたしないでくださいよ!」

「変なって失礼。せっかく、私がボブの為に付けてあげた名前なのに……」


 そう言ってハンカチで目を隠して泣いたようにみせる。すると、リッ君がさっきまでの可愛い顔じゃなくて怒ったような顔をしてボブを睨んでいた。


「お姉さまを泣かせないでください! お姉さまはとても優しくて素晴らしい人なんです! イジメないでください!」

「うえぇぇ、自分イジメてなんかいないですよ!?」


 しかしリッ君の膨れた顔は顔は変わらない。リッ君……そんな顔も可愛いよぉぉ。


「謝ってください! お姉さまに! 早く!!」

「は、はい! えと、イヴお嬢様! 泣かせてしまいすんませんでした!!」


 リッ君に言われるがまま、ボブは勢いよく頭を下げて謝ってきた。ぷふっ、こ、こいつ、十一歳に言いくるめられてる。


「あははははは……ふぅふぅふぅ、もう笑わせないでよ。まったく……リッ君、ありがとうね~。お姉ちゃんのことで怒ってくれて嬉しかったよ~」


 リッ君の頭をぐしぐしと撫でる。頭を撫でられた当の本人は、顔を真っ赤にしながらなでなでから逃げようと頑張っている。が、逃がすわけがないので抱きしめながら続ける。


「それで、どうしてあんなことになっていたんですか?」


 諦めたのか、ボブはさっきまでのことには触れず聞いてきた。なので、さっきまでのことをかいつまんで簡単に説明する。


「なるほど、事情は分かりました。イヴお嬢様やリック坊ちゃんには悪いんですけど……正直に言えば、自分も今日まではそいつらと同じような気持ちでしたよ。魔族としてはあるまじき戦闘嫌い、そして人見知りによるコミュ障。学校にも行かないで家では人間なんかが作ったゲームや機械なんかを使って、服も異世界人の作ったものを着ている。そもそも、イヴお嬢様は魔族とは考え方が違いすぎるんですよ。なので、理解できない気味の悪いものと思っていました」


 その言葉に腕の中のリッ君が、またむすっとして反論しようとしていたのを手で口を塞いで止める。まだ、ボブの話は終わってないから少し待ってね。


「しかし、今日、ほんの少しでしたけど行動を一緒にさせていただき考えが変わりました。イヴお嬢様は我々とはたしかに違う考え方をしているのかもしれませんが、間違ったことは言ってなかったのです。そりゃ未だにイヴお嬢様の思考回路は理解なんかできませんし、性格も言動もおかしいです。ですが、それでもイヴお嬢様も一人の女の子でちゃんと感情があるんだって分かったらどうでもよくなりましたよ」


 そう言って、ボブは照れたように笑う。その言葉を聞いて不覚にも涙が出そうになった。危ない危ない、さっきまで泣いてなかったら涙が出てた……まったく、ボブのくせに生意気な。


「い、一応ありがとう。そ、それで、結局どうしたらいいの?」

「そう、ですね。とりあえず……学校に行きましょう」


 は? 何を言ってるんだこいつは? さっきまではかっこよか……ごほんごほん、認めてやろうと思っていたのに……


「学校なんて行くわけ——————————」

「そうですね! 一度、学校に行けばお姉さまのことを分かってくれる人ができるかもしれません!」


 リッ君まで……


「お姉さま! 学校へ行きましょう!!」

「う、うん。い、いこうかなぁ」


 リッ君……そんなキラキラした目でお姉ちゃんのこと見ないでぇぇぇぇ!!!


 弟の期待のこもったまなざしには勝てず学校に行くことが決まってしまいました。

読んでいただきありがとうございます。

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