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戦闘嫌いの女魔王。私が魔王とか無理ゲーなんですけど……  作者: ぽん太
第一章~戦闘嫌いの魔王誕生編~
6/16

あなたたち誰

 大広間から人が出ていく。皆、一週間後のことを楽しみにしているようだ。どうしてこうなった……私は早速元凶であるあの人を捕まえに行くことにした。途中で、何人かに話しかけられた気がしたが、今は構ってる暇はない。人の波に逆らいながら歩いてくと、彼女はまだ移動しておらず幹部の人たちと談笑しているところだった。


 なにを呑気に話しなんかしているんだろう? 人をここまでおもちゃにしといて、あなたはおもちゃを気にせずあはははと笑っているのか……


 その時の私の顔はきっと素敵な笑顔をしていたことだろう。だって、私を見かけてくれた岩みたいな体をした幹部の人がビクッとして固まったのだから。私の笑顔に見惚れているに違いない。その大男さんが固まったことを不思議に思った皆さんが、大男さんの視線の先を見つめ……固まった。女性まで固まるとは、どれだけ罪作りな女なんだろう……うふふ……


 その微笑みに、目の前の一同は体をより固まらせた。あの話の最中ずっとにこやかな微笑みを浮かべていたハイドさんは、その微笑みをなぜか苦笑いに変えている。そして、こんな事態にしてくれた元凶でもあるラージュさんは顔を盛大に引きつらせながら体をぷるぷると震わせている。


「ああああ、あのイヴ様? な、なぜそのような顔をしているのですか? せ、せっかくの可愛い、おおお、お顔が台無しですよ?」


 ラージュさんがそう言ってくるが、私は首をかしげる。


「そのような、とは? 私は今までで一番いい笑顔をしているはずですが?」


 そう告げると、より一層、微笑みを深くする。その顔を見てラージュさんともう一人の女の人は震えながら抱き合ってしまい、大男さんは額から一筋の汗を流している。苦笑いを浮かべていたハイドさんは、覚悟を決めたような表情をすると私の目をしっかりと見つめてきた。


「イヴ様、失礼ながらこれをご覧ください」


 ハイドさんは、どこからか手鏡を出して渡してきた。私は意味が分からなかったが、渡されたのでそれを受け取ると鏡を見た。するとそこには、とてもじゃないが笑顔とは言えない、死んだ魚のような眼をしてニタっと不気味に微笑んでいる女が居た。


「えーっと……これは誰? 体型とか服装とか髪の色とかは私そっくりなんですけど…… これって普通の手鏡ですか?」

「はい。そちらはただの手鏡でございます。ですので申し上げにくいのですが、映っていらっしゃるのはイヴ様になります」


 とても気まずそうに言ってくるハイドさん。え? マジで……これ私なの? 鏡から顔をちらっとあげて目の前の人たちに確認するように視線を向けると一同は大きく首を縦に振って頷いた。


 おぅ、まさかここで黒歴史が一つ増えることになるとは……もう、お嫁にいけない。ぐすんっ……


 元からもらってくれる人居ないだろみたいな視線をどこからか受けた気がする。そんなことを思った奴には罰として私をプレゼントしちゃうぞ!


「あ、あのイヴ様? どうかなされたんですか? 今度は変ににやけた顔をしているんですが……」


 ラージュさんの隣で未だにビクビクしている女の人がぼそぼそと聞いてきた。声ちっさ! もっと腹から声出してよ! と言いたくなるほど小さい声だった。紅い髪が特徴の少し気の弱そうな少女のような見た目をしていて、こんな人が幹部なのか?と疑いたくなる人だ。


「え? あ、はい。大丈夫ですよ?」

「そ、そうですか。わ、私ごときがイヴ様のご心配をしてもうしわけないですぅぅぅぅ」


 彼女はそう言うと、大男さんの後ろに隠れてしまった。大男さんは頭をガシガシと掻くと無理やりにでも引っ張り出そうとしている。


「おい! いちいち後ろに隠れてんじゃねぇ!! 姫さんに失礼だろうが! そもそもラシウス様の幹部がこの程度でビビってどうすんだよ!」


 この人はさっきの人とは対称的にめちゃくちゃでかい声だなぁ。耳がキーンってする。私の腰くらい太い腕にがっしりとした体、二メートルは超えてるであろう身長。いかにも人の良さそうな顔をした黒髪のおっさんだ。


 そんなやり取りを見ていると、おじい様と一人の女の人がやって来た。おじい様の一歩後ろを歩く女性は、いかにも仕事できますといった感じの出来る女の雰囲気を醸し出していた。


 出来る女は皆、スーツを着てるのかなぁ? などと考えていると、彼女はツカツカとこちらに歩いてきたと思うとキッと幹部連中を睨みつけてきた。


「アルバ、リプカ、君たちはイヴ様の前で何を恥ずかしいことをやっているんだ? そんなことでよくラシウス様の幹部だなんて言えますね……それに、ハイドも……いつものあなたならもう少し落ち着いているでしょうにしっかりしてください。ラージュ、あなたはイヴ様に何をしているんですか! 次期魔王候補でもあるイヴ様に魔法をかけるなんて! あーもう! こんなことではイヴ様にどう思われるか…… ってイヴ様!? い、いつからそこに?」


 あれ? 見えてなかったの!? ずっと居たんだけど……こんな目の前ですら存在感のない私って……


「も、申し訳ございません! このバカどもばかり目が行ってしまっていて……え、えと魔王様の秘書のようなものをさせていただいております、セリカと申します! こ、今後ともよろしくお願いします!!」

「あ、はい。よ、よろしく?」


 ものすごく勢いの強い子だ。コミュ障の私には難敵のような気がする。それに、なんか話した感じ同年代のような感じ? でも幹部の人たちに向かってあんな感じで言えるってことは全然年上なんだろうなぁ。


「おいおい、セリカ! なにてめぇ一人だけ姫さんにアピールしてんだよ! 姫さん、俺はアルバグランって言うんだ! こいつらは皆アルバって呼ぶから姫さんもそう呼んでくだせぇ。力仕事とか戦争でぶっ殺す力が欲しけりゃ声かけてくれよな!」


 そう言って、後ろに隠れたままの女の人を摘まみ上げ、前に置いた。


「いい加減出てきて、自己紹介しやがれ!」

「ひゃ、ひゃい! あ、あの首根っこを掴まないで下さいぃぃぃぃ。高いんですよぉぉ」

「お前が逃げないようにだ。逃げねぇってんなら降ろしてやるよ」

「わ、わかりました! 逃げません、ちゃんと自己紹介しますから降ろしてくださいぃぃぃぃ」


 アルバさんはそれを聞いて手を離した。いきなり離したからそのまま受け身も取れずお尻から、どんっ!と落ちてしまった。


 うわっ、痛そう……


「きゅ、急に離さないでくださいよぉぉ。お尻思い切り打ったじゃないですか! も、もう帰り……いえ、何でもないので手をポキポキ鳴らさないでくださいぃぃぃ。えとえと、私はリプカと言いますぅぅ。そ、その一応魔法が得意です。それで、それで……うぅぅぅぅ……もう無理ですぅぅぅぅ」


 そう言ってリプカさんは目をぐるぐるとまわしながら部屋の角に走っていってしまった。


「あ、あの~……」

「はぁぁぁ、気にしないでください。彼女は極度の人見知りでして、あれでも頑張ったほうなので……どうか嫌ってやらないでください」

「い、いや嫌うとかは……私も人見知り、というか人と話すのは苦手なんで……」

「そうですか。そう言っていただけるとありがたい。もう一度自己紹介しておきますね。わたしの名前はハイド。こう見えて、わたしはこの中ではラージュの次に幹部になっていますので何かと顔が利いたりしますので手伝えることがあればいつでも言ってください」


 ハイドさんはニコッと笑う。一瞬、ドキッとしたがすぐに治まった。今のは何だったんだろう? 前を見るとハイドさんとアルバさん、セリカさんにおじい様、ラージュさんが驚いた表情をしていた。


「驚きました。わたしの魅了を受けないなんて……さすがはラシウス様が選んだ人ですね」


 は!? この人、私にチャームかけようとしたの!? なんなの幹部って、試しに人に魔法をかけるのが礼儀なの!? やっぱこの人たちおかしいんじゃない?


「ハイドの魅了を防ぐなんてすごいわねぇ。あれ、大抵の人なら気づかない内にかけられてるのに……って、イヴ様? なんで私のときだけはそんな怖いお顔をしているんですかぁ……あのですね、あれはイヴ様のことを思ってですね……」

「嘘、ですよね? だって、私がわたわたと慌てたときなんか笑ってたじゃないですか? 絶対に戦わせたほうが面白いと思ったんですよね?」


 ラージュさんはあたふたと視線をさまよわせていたが、私がそう言ってジト目で見つめながら問い詰めると、諦めて小さく頷いて「ごめんなさい」と言ってきた。


 その一連の流れを見ていたおじい様はニヤニヤとした表情をしていた。


「あの、おじい様? 孫を見てその表情は気持ち悪いですよ? 今度、おばあ様に伝えておくんで」

「ちょ、ちょっと待ちなさい。イヴよ、あいつは今関係ないだろ? それに一応ここでは魔王様が正しいと思うんだけどなぁ~」

「私がそういうこと気にするわけないじゃないですか? そもそも誰のせいでこんな面倒なことになったと思ってるんですかね? まだまだ現役続行中のま、お、う、様がいきなり隠居しようとしてるんですかね~? あれれ、皆さんどうしたんですか? そんなに震えて。まさか、私のことが怖いなんてこと……言わないですよねぇ~?」


 そう言ってニコッと笑うと、全員が勢いよく頭を下げて謝ってきた。ぷるぷると震えられたら私が凄い怖いみたいじゃない!



 一通り、自己紹介も終わったということで今日のところは解散とおじい様の一声でなった。皆に見送られながら城を後にする。



 こうして魔王の幹部との交流も一段落すると、外でずっと待っていたボブが馬車まで案内してくれた。兄さんやお父さんは別の馬車で帰ったみたいだ。私は、さっきまでの疲れを癒すためにヘッドホンを装着するとボブに寝ると告げると目をつぶった。


「あの、お嬢様? 自分ボブじゃないんですが……って寝てる……はぁぁぁぁぁ」

読んでいただきありがとうございます。

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