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戦闘嫌いの女魔王。私が魔王とか無理ゲーなんですけど……  作者: ぽん太
第一章~戦闘嫌いの魔王誕生編~
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少しお話ししよう

 おじい様の掛け声を遮り、兄であるフェルドが声を上げる。大勢の貴族や幹部の人たちからの視線を受け硬直している様子。傲慢で自信過剰の兄さんであっても、さすがにこのメンツに見られるとなると緊張するんだなぁ。


「フェルドか…… どうした? なにか質問でもあるのか?」

「そ、その、えっと……」

「言いたいことがあるならはっきりと言ってくれていいんだぞ? それとも何か言いにくいことなのか? それなら、こいつらを解散させてからでも……」

「い、いえ! 皆さんも一緒で大丈夫です! じ、自分が言いたいのは妹の魔王就任のことで……」


 ほんとに精一杯なんだろうなぁと思った。前に出たはいいけど、顔を真っ赤にしてるし、体なんかガタガタと震えている。こんな兄さんを見るのは初めてだから、こんな兄さんを見ると調子が狂う。うん、ウザい兄さんは嫌いだけど、そうじゃない兄さんは気持ち悪くて、もっと嫌だ。どちらも嫌いだけど、質?が違う。


「はっきり言えばいいのに……」


 なので、兄さんに聞こえるように言ってやった。言った瞬間にこっちを睨んできた。あははは、そうそう、その顔だよ、そのこの糞女がぁぁってバカみたいにイライラしてる顔のほうがよっぽど、らしい、よ。


 これなら、きっと……


「妹の分際で俺に意見しようってのか! 魔王に選ばれたからって調子に乗ってんじゃねえよ!!」


 ほら、簡単に挑発に乗った。ほんと、単純バカだなぁ。こんな簡単に安っい挑発に乗ってちゃダメでしょ……これじゃ魔王になったとしても上手くいかないでしょ。さすがに戦争ばっかやってたら王としては下の下だからね。私の持ってるゲームの一つにも王様になって領土増やしたり街を発展させたりするのがあるけど、戦ってばっかじゃすぐに国が滅んじゃうから。


「なにをニヤニヤしてんだよ! そんなに俺に勝てたのが嬉しかったってのか? おじい様! イヴを魔王にする件、考え直してくれませんか! 俺は生まれてからこれまで、必死でよりよい魔王になるために努力してきたつもりです。小さいころから野に出ては魔物を狩り、魔王になるための勉学も欠かさずしてきました。人脈も広げ、多くの賛同者を得ております!、どうか俺にもチャンスをいただけないでしょうか!!」


 そう言って勢いよく土下座をする。兄さんの賛同者は「おぉ、さすがはフェルド様!」や「そうだそうだ! フェルド様のほうが立派に魔王を務められる!」、「こうなったら決闘だ! 決闘させろ!」などと騒ぎ始めた。


 バカなのか、この貴族共は……さっき、おじい様が次の時代に必要なのは戦闘力じゃないって言ったじゃんか。一人が決闘だ!と言ってから、たちまち「「「決闘! 決闘! 決闘!」」」とバカみたいにコールを始めた。幹部の皆様や、おじい様の側近の人たちはその光景を呆れたまなざしで見ている。自分の部下までもが、そのコールをしているのに気づき心底嫌そうな顔をしている。


「はぁぁ。あなたたち、一旦黙りなさい… … … …   ねぇ……黙れって言ってるのが聞こえないのかしら?」


 ラージュさんはため息をつくと、静かに、しかしこの大広間に居るすべての人間を飲み込むように声を出した。底冷えするような声色、視線を向けられていないのに感じるとてつもない殺気。兄さんやお父さんのように荒ぶる魔力でもなくおじい様のように他者を動かせなくするほどの重みのある魔力でもない。静かで、だけどここ居る者全てを凍り付かせるような魔力を放っている。


 土下座している兄さんも、その魔力を感じて立ち上がってしまった。


「そこまでだ、ラージュ。お主の魔力は儂らでも凍えそうになる。ここに居る者を全員凍死させるつもりか? もうこいつらは騒いだりせぬよ。だから、魔力を鎮めよ」

「ラシウス様がそう仰るなら……出過ぎた真似をいたしました。申し訳ありません」


 そう言って頭を下げるラージュさんに対し、にこやかに笑って首を横に振る。


「よいよい、あれでは話も出来なかったからのう。それで、フェルドはどのようにしたいのだ? こやつらが言うように決闘でもしたいと?」


 おじい様は兄さんに向き直ると、先ほどのにこやかな顔とは違い、言い逃れをさせないような、それでいて試すような真剣な表情をしている。あっ、兄さん、またぶるっと震えた。


「おじい様……いえ魔王様の言うことも分かります。これからの世界や、他種族との交流を考えるのであれば少しでも新しい考えができる人物がいいという事は。しかし、王である以上、他者に示せるだけの力は必要だと思います。力を示すにも人材の確保や、学力でもいいのでしょうが、我ら魔族が賛成するには武力の他にないのも覆せない事実です! なので、イヴとの一騎打ちを願います!」


 兄さんが言ったその言葉に拍手が送られる。兄さんの支持者だけでなく、幹部の皆さんや側近の人たちまでもが兄さんの言葉に賞賛の拍手を送っている。かくいう私自身も、心の中で拍手を送っていた。


 少しバカにしすぎてたなぁ。いくら、感情的になりやすいタイプだとしても、なにも考えてないわけじゃない。これからの未来がどうなるかを、おじい様の言った言葉から少しだが読み取ったのだろう。これまで努力し続けてきたことが、この場で発揮されたのだろう。


「ふむ、お主の言いたいことは分かった。…… レビン、お前の意見はどうなんだ? 息子と娘の事だろう? なにを黙っているのだ?」

「ははは、正直言えば自分としては複雑ですよ。自分ではなく、息子と娘が選ばれたのですからね。それに、父上の話は長く生きてきた我々にとっては少々理解しがたいものですからね。どちらを応援というものもないですよ。ただ、父親としてではなく一人の魔人族として話すのであれば……イヴが魔王になった時の心配は計り知れませんね。フェルドがなったほうが理解しやすく安心できる」

「そうか…… この場に居る全員、少なくともそう思っているという事だな?」


 おじい様が周りを見渡しながら問うと、気まずそうに、力強く、静かにと多少反応の違いはあったが概ね全員が頷いた。って、貴族だけじゃなくて、幹部の人たちまで頷いてる!? まぁ。それもそうか。普通に考えたらおじい様の言ってることが狂ってるんだもん。この反応が普通だよね。まぁ、少しだけ話した?ラージュさんとハイドさんって人は、頷いてはいたものの他の人たちとは何か違った気がした。


「皆の考えは分かった……よかろう、そこまで言うのであれば決闘させようではないか。イヴが負けた場合は一度白紙に戻し、改めて話し合いを設け決めることにしよう。フェルドが負けた場合は、イヴが力を示したという事で認めてもらうが…… それでよいか?」

「自分はそれで構いません。今の自分では魔王様の期待に応えられないのも分かっております。考え直していただけるだけでもありがたいです!」


 兄さんは、おじい様の意見に納得の意思を示す。周りの人たちは「考え直すのではなく、フェルド様を魔王に」とか言ってるやつらばっかだったけど、兄さんの言葉を聞いて渋々納得したのか黙った。


 うん、てゆーかさ……私の意見を聞かないまま話が進んでるんだけど!? 私、魔王になる気なんてないし、譲っていいなら兄さんにでもお父さんにでも譲るよ!? なぜ、皆、私のことをシカトした状態で話を進めてるのかな? ちゃんと聞いてほしいんだけど!! こんな大勢の居る前で空気になるとか、私、天才かも!? はは、自分で言っても笑えないわ……


「イヴも、それでいいな?」


 おじい様にそう聞かれたので、否定してやろうと思い口を開いた。のだが……


「はい。私もそれでいいです。私も、ちょうど自分の力を見せる時が来たと思っていますから!」


 などと、思ってもいないことが口からこぼれた。


 は? なにこれ、どうなってんの!? あたふたする私を見て、怪訝な顔をする貴族の皆様。そして、絶対にそんなことを口に出さないのが分かっているから驚いているお父さんと、若干挑発っぽくなってしまたせいか睨みつけてくる兄さん。そして、おじい様の近くにいてニヤッと笑った、ラージュさんが見えた。


 あんたの仕業かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!


「そ、そうか。まさかイヴからそのような前向きな言葉が聞けるとは思わなかったな。よし、では一週間後に闘技場にてフェルドとイヴの決闘を行う。お前たちにはその準備や観客の動員、国中にこのことを宣伝しておいてくれ。それでは解散!」


 おじい様の号令に一同、「「「「「はっ! 仰せの通りに!」」」」」と言って跪くと、速やかに行動を開始した。


 何がどうしてこうなった……こうして、私の意思とは関係なく兄さんとの決闘が一週間後に決定された。

読んでいただきありがとうございます。

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