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戦闘嫌いの女魔王。私が魔王とか無理ゲーなんですけど……  作者: ぽん太
第一章~戦闘嫌いの魔王誕生編~
3/16

魔王の命令

 ゆっくりと進む馬車に揺られながら眠りにつく。この屋敷から、祖父の居る魔王城までは歩いてだいたい二時間、馬車でも三十分はかかる。


(あぁぁぁぁ、この若干の揺れが心地いんだよなぁ。眠気を誘発してくるような揺れが……今日は起きたのがいつもより早かったからなぁ~、うーん、眠い)


 うとうとしながら馬車に乗っている不意に前から声をかけられる。


「イヴお嬢様。乗り心地はいかがでしょうか?」

「大丈夫。快適快適。少し眠るから着いたら声かけてね~」

「「はっ! 承知いたしました」」


 はい、会話終了。最近、特にここ一週間は話したこともない使用人たちから、今みたいに話しかけられることが増えた。ほんと勘弁してよ……私は魔王なんて面倒なことごめんなんだからさ。いちいち私なんかにご機嫌取りみたいなことしなくていいのに。


 てか、あんたら! あんたらと一度も話したこともないし、なんなら陰で私の悪口言ってんのだって知ってるんだからな!! みんなみんな、分かりやすすぎんのよ! 媚びうるなら、もう少しバレないようにやんなさいよ!


 イライラした気持ちを押し殺すようにヘッドホンを耳に当て、目をつぶる。自分なりの早起きが効いているのか、目をつぶってから程なくして眠ってしまった。




(うーん……どれくらい寝てたんだろ? まだ馬車が動いてるってことは城に着かないのかな~……ってあれ? なんか外が騒がしい気がする。ん? 止まった……どういうこと?)


 寝起きで重い頭と瞼を必死に上げる。ヘッドホンを越しからでも聞こえてくる誰かの怒鳴り声。状況判断の為、面倒だけど声をかけることにする。


「ねぇ、どうかしたの? さっきから外がうるさいんだけど」


 そう聞くと馬車から降りていたのか、左の小窓を少し開けて説明してくれる。


「も、申し訳ありません! それが、街中には入ったのですが……フェルド様に見つかってしまい……なんでも学校から城へと向かう途中であったらしく、家の馬車が通ったのを見かけ追いかけてきたとのことで事情を説明したところお怒りに……今は自分ではなく、もう一人が必死に宥めているのですが……」


 想像してたことより数十倍めんどくさい展開になってる……あぁぁぁぁぁぁぁ、なんでこんな時に会っちゃうかなぁ~。絶対に説明したところで聞くはずもないじゃんかぁぁぁぁ。


「あの、イヴ様からフェルド様へ説明していただくことは出来ませんか? 自分たちでは説明しても聞く耳を持っていただけないので……」


 そう言って名前も分からない使用人……ボブでいいや、ボブに頼まれるが。


 いやいやいやいや、あの直情バカ兄さんが、妹の、しかも今は敵認定してるであろう相手の言葉なんか聞くわけないじゃん……


 もし、この場を治められる人がいるというなら、それは……


「フェルド、それにお前たちもこんな往来で何をしているんだ? 周りの迷惑になっているではないか!」


 じじい、いや、おじい様、そしてお母さんとお父さんである。って、お父さん!? え? マジで!?


「フェルドが時間になっても来ないから、いったいどうしたのかと探しに来てみれば……これは何の騒ぎなんだ?」

「父さん……これは、その……」

「どうした? お前がはっきりと物事を言わないのは珍しいな。それでは、そこのお前! この馬車は何だ? 俺は今日、家の馬車が出るなどと聞いてないが?」


 お父さんは、はっきりしない兄さんに聞くのを諦めボブに話しかける。ボブは、指名され緊張しているみたいだ。少し開いている小窓からでもわかるくらいガチガチになってる。ファイト! ボブ。


「は、はい! 実は馬車を動かしているのは魔王様からの命でして……」

「なに? 父上からの命だと!? いったいどういうことだ! 早く説明しろ!」

「は、はいぃぃぃぃ!! さきほどお屋敷のほうに、魔王様よりイヴ様を城までお連れしろとのご命令です! なので、今現在はお城までご案内している最中であります!! そうしておりましたら、フェルド様に見つかり問い詰められ、このような騒ぎへと発展した次第でございます!!」


 ボブの奴、テンパりすぎて要らんことまで言ったなぁ。私はしーらないっと。とりあえず、ヘッドホンを装着しなおして知らないふりでもしとこうかなぁ~。


 そう考えていると……


「では、イヴはそこに居るのだな? ふむ、わかった。では俺たちも城へ連れて行ってもらえるか? どうせ向かうところは同じなんだし、四人乗りの馬車なんだ。何より主である俺が言っているのだから分かっているな?」


 不穏な声が聞こえてきた。嘘でしょ? 兄さんとお父さんが乗ってくるの? いやいや、絶対に嫌なんだけど! ボブなんとかしなさい!


「かしこまりました! すぐに扉を開かせていたただきますぅぅぅ!!」


 ボブはそう言うと、勢いよく扉を開けた。あっ、兄さんと目が合った。うわぁ、めっちゃ機嫌悪いじゃん……すんごい睨んできてるし、今にも襲い掛かってきそうな感じなんだけどぉ。


 こうなったのはボブのせいだな。うん、使えない奴め。あとで文句言ってやろう。少し睨んでやろうと思い、ボブを見ると顔色を赤青白と変化させていた。目もぐるぐる回ってるし……仕方ない、軽く小言を言うだけにしといてやろう。


「すまんな、イヴよ。城まで一緒に行かせてもらうぞ。よいか?」

「う、うん。どうぞ? って私が言うのもおかしいんじゃないかな?」


 お父さんが尋ねてくるが……乗り込んでから言われてもなぁ……そんなの強制じゃん。ほんと、この目の前の親子は似すぎている。傲慢なところとか自己中なとことか直情バカなとことか。


「そうか。ここからだと少し距離があるからな、助かるよ。フェルドもぼーっとしてないで早く乗りなさい」

「… … … は、はい!」


 お父さんに言われ、ハッとするとすぐさま乗り込んできた。目の前……地獄すぎる。ボブ! そしてもう一人の……誰か! 早く城まで走って!!


「そ、それでは安全運転で出発いたします!」


 ちがぁぁぁぁぁう!!! 安全なんていいから早くしてぇぇぇぇ!!!


 私の願いとは裏腹に、街中からだというのに普段の倍の時間をかけて城までたどり着いた。お城に着くと、私はすぐにおじい様のところに向かった。なぜか、お父さんと兄さんまで後ろについてきているんだけど……その、少し距離を開けて目的地が同じだけだからね!的な空気出さなくていいから。とりあえずは、そんな面倒な二人を無視しながら目的地の大広間に来た。


 大広間に着き、ノックをすると中から「お入りください」と返事が返ってきたので入ることにする。


「し、失礼します」

「「失礼いたします!」」


 二人とも私の後にちゃっかりと入って来てるし……さっきまでの隠すって設定は終わったのかな? 


 大広間に入ると、両脇には何十人もの貴族や、魔王の配下、側近、幹部まで列をなして集まっていた。なにこれ? 今からどこかの国と全面的に戦争にでも行こうとしてるの? おじい様だけかと思ってたのに、こんな大勢の人たちがいるなんて思ってなかった。そもそも、幹部クラスが全員集合してるとかおかしくない? お父さんも兄さんも口を大きく開けて目が点になってるし……


「よく来たな、イヴよ。レビンやフェルドまで来たのは意外だったが、どうしたというのだ?」

「申し訳ありません、父上。街で、偶然イヴの乗る馬車を見かけまして、何事かと思い、聞いたところ父上に呼ばれたと言っておりましたので。俺、いえ、わたしはそのことを聞いておりませんでしたので一緒に言ってどういう訳なのかを聞こうと思いやって参りました。フェルドもその付き添いです」


 お父さんは頭を下げると、そう言って説明する。その説明で満足したのか、おじい様は大きく頷くとお父さんと兄さんを列の最後尾に並ばせた。


「さて、イヴよ。少し話が逸れてしまったが戻すとしよう。勘のいいイヴの事だ、儂が何を言うのか分かっているとは思うがな」

「そう、ですね。通算で何度目か分からない数言われていますから……」


 そう言って私は苦笑いする。こんな大勢の前で話をさせるとか卑怯すぎる! 絶対分かっててやってるな!


「そうだな。これで何度目かは忘れたが……イヴよ、魔王になる気はないか?」

「何度も言っていますが。お断りします」


 私がそう言った途端、その場の空気が凍った。いや、それ以上に鋭い殺気をおじい様と私以外の全員が放っている。それと同時に周りから罵詈雑言が飛んでくる。


「静まれ! これは儂とイヴの話しぞ! 貴様らが荒立てる出ないわっ!!!」


 おじい様は、周りを見回しながらそう言って、この場のすべての人間が放っている殺気よりも鋭い怒気を放って黙らせる。そして、私に向き直ると頭を下げ謝ってきた。


「儂の部下たちがすまんな」

「い、いえ。この答えをすればそういう反応になるのは分かっているので」

「そうか。周りがどういう反応するのか分かった上で、自分の意見を曲げなかったと言うわけだな」

「い、いや……そんな大したものじゃないんだけど……」


 少し照れ臭くなり、頬を軽く掻く。


「だが、儂も本気でな。イヴには悪いとは思うが人を集めさせてもらった」


 集めさせてもらった? どういうこと? 私が首をかしげているとおじい様はその言葉の続きを紡ぐ。


「魔王ラシウスはここに命ずる。我が孫イヴを次期魔王へとする!」


 今度こそ、その宣言でこの場の空気が凍った。

読んでいただきありがとうございます。

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