お断りします
ぽん太です。二作目になります。どうぞよろしくお願いいたします。
魔王……それは魔族、悪魔、魔人の王にして最強の存在。魔族は好戦的なものが多く、人間にとっては、自分たちの平和を脅かす、最凶最悪の恐怖の象徴であり、幾世紀の間も激しい戦いを繰り広げられている相手。
その対をなす存在が……勇者である。人間たちのとっての希望の存であり最強の戦力。魔族たちにとっての天敵であり、自分たちの王の首を何度も狙い狩ってきた憎き怨敵でもある。
しかし、この数百年、一度も魔王が交代していないのである。何度も勇者が魔王討伐に向かうのだが、魔王の首を持って帰ってきた勇者は一人もいない。数百年の間、魔王が討伐されなかったことは過去に一度しかなく、歴代でも最強と名高い魔王が現れたのである。名をラシウスと言い、彼は魔王の一族ではなかったのだが、あまりの暴力的な強さに、その時の魔王は交代を余儀なくされた。
そして、最後の魔王討伐から百年。ラシウスの息子夫婦に子供が三人できた。長男のフェルド(17歳)、長女のイヴ(15歳)、次男のリック(11歳)の三人である。彼らの家は、魔王である父の住む城から数キロ離れた場所にあり、辺りは森や川に囲まれている。
長男のフェルドは、次期魔王の有力候補として、生まれたときから注目されていて期待も高かった。気性が荒く、感情的で力が強く魔法の威力も高く、戦闘も得意であったこともあり、小さいころから魔物狩りをして自分を高めていった。
次男のリックは、兄のフェルドとは違い、性格は優しく、魔人族にしては力も弱く魔力の質も並みであるため戦闘が苦手であり、一部からは期待外れ、出来損ないと蔑まれている。しかし、天性の戦術眼を持ち、作戦立案や金策、街の発展など裏方としての才能を発揮させている。
長女のイヴは、魔族では珍しい、大の戦闘嫌いであり修行も一切しない。人と喋ることや外に出ることも嫌いであり学校も碌に行かないで部屋に引きこもっている。
最初はそんな彼女を必死に説得して、外に出したり学校に行かせたり修行させたりとしていたのだが、ある時期を境にぱったりと言うことを聞かなくなってしまった。今では、父親であるレビンや母親であるグレイシアは彼女を放置している状態だ。兄であるフェルドは、そんな性格の彼女を嫌っており、彼女も兄のことを嫌っている。弟のリックはそんな彼女に対しても優しく、彼女もリックにだけは普通の反応(ブラコン気味だが)をしている。
そんな中、一か月に数度あるラシウスとの会食の日が来た。ラシウスも、息子夫婦や可愛い孫たちに会えるこの日をとても楽しみにしている。
「久しぶりだのう、レビンよ。この前の戦争もご苦労であったな。グレイシアも久しいな、元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます。父上。しかし、父上も相変わらずの戦いぶりでしたな。いささか敵が可哀想になりましたよ。あの、死の魔王と恐れられている父上に睨まれたら、名のある勇者でも対抗できないでしょうからな」
二人はそのまま、先日あった竜人族との戦争について話し始めてしまった。
尊敬してやまない父と祖父の話にフェルドは興味深そうに耳を傾ける。リックも戦闘面では役に立てなくても、戦術面での参加は近々だと言われており、生で聞ける戦争の話を必死に聞いている。イヴはいつも通り黙々と食べており、興味がないというように視線すら向けない。
そんな様子を見かねたグレイシアが、話に盛り上がっている二人に声をかける。
「もう、あなたもお父様もお食事中ですよ。それに、そういったお話はこの子たちにも、しかっりと話してあげてくださいな。さっきから二人とも興味深そうにお話を聞いていましたから」
そう言って、フェルドとリックを見る。二人は少し恥ずかしそう顔を赤くにすると、俯いてしまった。リックは、盗み聞きしていたことを恥ずかしがったのだが、フェルドはリックと同じようにしてしまったことを悔しがったためである。
「それはすまなかったな、二人とも。そう言えば父上、フェルドはこの前の初戦でかなり活躍していたと、総指揮を務めていたガモスから聞きましたよ。なんでも、敵の将の一人を倒したとか……いやはや、この歳で活躍してくれるとは親としては嬉しい限りですよ。リックももう少しで軍師としての初戦がありますからね」
「おぉ、そうなのか。それは頑張ったのぅ」
ラシウスはフェルドに顔を向けるとそう言って褒めた。二人の言葉にフェルドは嬉しそうに頬を緩ませるのだが、妹や弟の目の前でそんな顔を見られるわけにもいかず必死に顔を作る。その光景を横目に見ていたイヴはくすっと笑うと、また関係ないように食事を再開した。
そして、時間も進み、会も終わりに近づいていきイヴ以外の五人が話に花を咲かせていると不意にラシウスがイヴに話しかけてきた。イヴはゲームに夢中になっていて、初めはその声が聞こえなかったみたいだがグレイシアに肩をポンと叩かれると、ビクッとして驚いた表情をしながらヘッドホンを外す。
「えっと……お母さんどうしたの? 急に叩かれるとびっくりするんだけど……」
「あなたねぇ、せっかくお父様が話しかけてくれたというのに話を聞いてないとは何事ですか!? だいたい、そんな物を持ってきて……家に置いておきなさいとあれほど言ったのに」
怒るグレイシアにラシウスは落ち着くように宥める。
「まぁまぁ、グレイシアもそう怒らんでもよい。急に話しかけた儂が悪かったのだしな。イヴよ、驚かせてすまなかったな。それは、たしか人間たちの国にあるという携帯ゲームというやつか? それに、その首から下げているのは何だ? 声が聞こえなかったみたいだが……」
「これは、えっと、ヘッドホンって言って耳に当てて使うもの、です。ゲームとかに繋いで、ゲームの音が外に漏れないようにする為の物」
「おぉ、そうなのか。イヴは人間が好きなのか? 儂らでは、そのように人間が使っている物など使いたくないという気持ちが出るのだが……」
ラシウスが質問すると、イヴは首を少しかしげながら答える。
「いや、特に好きとかは……そもそも、人間とか魔族とか、そのほかの種族もですけど興味ないです。ただ便利だから、面白そうだから使うしやるだけで、何の感情もないです」
ラシウスはその答えを聞き、少し目をつぶりながら考えるそぶりを見せる。そして、少しの間そうしていたので、イヴは話は終わったのか?と思いながらゲームを再開しようとヘッドホンに手をかける。
イヴがヘッドホンに手をかけ、耳に当てようとしたとき、考え事が終わったのかラシウスがゆっくりと目を開けるとイヴに尋ねてきた。
「イヴよ。お主は儂の後を継いで魔王をやってみんか?」
「お断りします」
その問いに対して、イヴは即答で答える。そして、それで話は終わりだと言うようにヘッドホンを装着する。
そのやり取りを見ていた、家族や少し離れている場所で待機している使用人たちは唖然とした。
「ふむ、まぁ今回はいいだろう」
そう言うとラシウスは満足そうに頷いた。
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