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医療棟のベッドの上、包帯で拘束されながらも宮廷魔術師達はぼんやりと天井を見つめていた。


「補佐官君、煙草を1本貰えないだろうか?」


「さっき腕ないのに咥えタバコして魔法で着火して落としてベッド焦がして没収されたのは誰っすかねぇ?お陰様で僕のも取り上げられたんすからね!」


儀式が終わり満身創痍で出てきた彼らは、当然の如く医療棟に担ぎ込まれていた。身体欠損と極度の精神消耗、魔力欠乏の為、予断を許さない状況であったそうだ。


「……あの子は、助かったのかな」


「あの子という自己の定義と、助かったという状況の定義にもよりますけどね。一応生命活動は継続してるっすよ」


彼らが行った手段、それは――





セゼレアは魔法陣の上の拘束台に、少女に語りかける


「君は、今から大きな選択をする」


少女は連れてこられた時から既に衰弱しており、眼前の腕を失った魔術師を見つめるのみだった。


「1つはここに売られた当初の目的の通り、生贄となる。そして、この術式はおそらく失敗するだろう。私も、補佐官君も、29人の命も、君の生命も「実験の失敗」といった結果に刻まれる。犬死にで、無駄死にだ」


その生に意味はなく、その死に価値は無い。そんなありふれた結末を、魔術師は示していた。自らの命も天秤に乗せて。


「もう1つは、君を書き換える。全てを消して新しくする。記憶も、容貌も全て消える。だが覚えておいて欲しい、君は、君だ。君はここから出て、別の人間としてそう悪くない人生を送る事が可能かもしれない。少なくともボロ布1枚纏ってこんな場所に売られるよりはまともな未来だ」


少女は一言、魔術師に告げる。


「未来の私は、お肉のシチューを食べられる?」


宮廷魔術師は答える。


「約束しよう。私が君と触れ合える機会が許されるのであれば、おなかいっぱいのシチューをご馳走しよう。この約束を君が忘れたとしても、私は君に、肉が沢山入ったシチューを沢山ご馳走しよう……」


ほぼ誘導されたに近い選択だが、少女が結論を下すのには、そう時間は要しなかった。


――


「まずこの子の記憶を消す。言語情報を残し、それ以外の常識、文化レベルもリセットする。まぁこの出で立ちは文化といったレベルの生活が出来ていたかどうかすら怪しいが」


血みどろの一室、人知れず儀式は変容を遂げていた。補佐官の提案は以下のようになる。

まず最後の生贄の少女の容貌と記憶を操作する。そして異世界召喚されたという自己を吹き込んでしまおうという算段だ。

更には異界の門を開く術式に使う予定だったリソースを少女の強化と加護に無理矢理に捩じ込んでいく。召喚者特有の付加価値を演出しなくてはならないからだ。


異世界召喚自体は過去より何例か存在していた。そしてその対話録を、彼らは彼らなりに網羅していた。


「ニホンジン異聞対話録、異界建造物推論集計、ワショク等調理指南覚書、本当に必要かって思ってたんすけど、必要な時……本当に来ちゃったっすね」


「自我の調整はこちらでしておくから、補佐官君は蓄積魔力の変換と、少女の身体的特徴の編集をお願いするよ。書物の統計からすると、黒髪黒瞳がベターだろうね」


人間をベースに、全く違う人間を1人作り上げる。そのような狂気がこの地下で行われていた。

彼ら宮廷魔術師からすると、狂気の天秤の向こう側に乗るのは、30名もの生贄を使った成功見込みがゼロに近い術式だ。


「さて一般人とはいえ29人分の、更には生命まで魔力化した上での魔力。これをこの子に付与(エンチャント)していこう」


補佐官は抽出し終えた魔力を、少女の全ての基礎値に配分していく。余った魔力は簡易的な防壁と、耐寒耐熱、思いつく限りの付与を施していった。


「うへぇ、異世界召喚もきな臭い非合法術式だけど、今やってんのは正に禁忌の超人計画っすよ」


補佐官の青年は自らの行動を恐れるかのように、引き攣った笑みを浮かべた。


「今更だろう。君の提案で、私の決断で、少女の承認だ。今この場で、誰も咎めようなんか無いさ」


セゼレアに至っても、呼応するかのように諦念混じりの笑みを浮かべていた。






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