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「あ、危なかったぁ……」
「よく納めたわね。あれだけ暴れたらなかなか抑えるの大変なのよ?」
オートブレーキで車が停車した。いやはや、うっかりした。
「そういえば、低速で曲がりながらアクセルを踏み込んでいくって初めてだった……。ある程度速度が出てる時とはまた全然違うな。」
「そうね。ちょっと専門的な話になるけど、中速域で使う3速や4速より低速域の1速や2速はギア比ってものが大きくて、タイヤに伝わるトルクっていう……まぁ、力が大きいのよね。そのせいで中速域の3速や4速で踏み込んだときよりも一気に暴れるのよ。」
そんなことも関係してくるのか。低速なら普段の速度に近いから、そんなに難しくないと思ったんだが。……あれ?そういえば今回ってオートマじゃなかった?
「セラ、今回ってオートマだよな?オートマにその……3速とか4速とかそういうのあったっけ?」
気になったので聞いてみると、セラは全く表情を変えずに一言。
「あるわよ?」
どうやらあるらしい。
「正確には、変速機、トランスミッションが存在する車と存在しない車があるの。ギアがあるって言えばわかりやすいかしらね。今回の車は、その変速機が存在するタイプよ。まぁ、このゲームの中では現実とは少し違って、変速機があるときは、内部でマニュアル車の操作を勝手にやっているだけなんだけどね。」
「つまり、このゲームでは全てがマニュアル車みたいなものってことか?」
「そうね。一部例外的に無段変速機っていうものを使っていたり、そもそも変速機が無かったりするものはまた別なのだけど、基本的にはそう捉えてもらって問題ないわね。」
ただ……
と、セラは付け足して燃費消費率?なるものが回転数によってどうのこうの、パワーバンドなるものが回転数によって……とよくわからない事を話し出してしまったので、適当に聞き流して……
ペラペラ
聞き流し……
ペラペラペラ
き、聞き……
ペラペラペラペラ
「……あの〜、セラさんや??なんか暴走してませんかね??」
聞き流しておこうとしたらセラが止まらなかったので、声をかけたらハッと我に戻った。
「んん!と、とりあえずほら!次行くわよ!!」
そして、テンパった。なんとも人間味があるAIだ。
「……あれ?さっきのでいい感じなのか?」
「あわわ、そうだった!えっと!こうしてこうして……こう!さ!いつでもいいわよ!」
テンパって失敗してさらにテンパった。そして、慌ただしく操作をして、再びスタート地点のストレートの始点に戻った。……本当にAIなのだろうか。
なんというか……最初にログインしたときのしっかりしたイメージが……というより、敬語を使っていた頃のイメージが丸崩れだな、うん。
なんだかんだあって、更に1時間ほどチュートリアルが続いた。
苦戦していたストレートからのフルブレーキングのチュートリアルでは、その後も1コーナーで赤と白の部分(縁石というらしい)にタイヤが乗ってスピンしたり、そもそも止まりきれなかったり、逆に止まりすぎて遅すぎたりと、なかなかうまく行かなかった。それでも、最終的にはなんとかまとまるようになり、無事にクリアできた。
次にやったピットインはブレーキングの応用で、しっかり減速してさえしまえばあとはスピードリミッターが勝手に作動したのでそんなに難しくはなかった。
その後は順調に進み、今に至る。
「さてと、じゃあ次で最後のチュートリアルね。」
長かったチュートリアルがついに終わるらしい。セラが再び半透明のウィンドウを操作すると、コース全体のマップが映し出された。
「最後は今までの総まとめ的な感じね。このコース、チュートリアルをした富士スピードウェイを丸々1周走りきってもらうわ。どのコーナーも簡単ではないけど、今までのチュートリアル走っているところが多いから学んだことを活かせば走りきれるはずよ。」
ラストはなかなかに大変そうだ。ただ、たしかにセラの言うとおり、今までのチュートリアルでほとんどのコーナーを走破はしている。
「今回もあんまり遅いと駄目な感じだよな?」
「ええ、そうね。これがそこそこには出来てくれないとレースはできないもの。」
やはり時間制限はありそうだ。今までのチュートリアルにあって、今回だけ無いなんてまぁ、思わないけども。
「んで、目標タイムは?」
「今回は2分20秒以内が目標ね。このタイムを切れれば……って言っても、正直そんなに難しいものじゃないわ。今までは0からのスタートだったから大変だったけどね。」
「了解。それじゃ、早速やってみるか。」