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「うん。だいぶ形になってきたわ。最初に比べたら凄い進歩ね。」
「……いきなり難易度上がりすぎじゃない!?」
100Rなるコーナーを延々と走り続けた俺は、半分グロッキーになりながらもなんとか及第点をもらった。1つ前のコーナー明けから操作開始だったんだけど、最初はまぁ外に出ていくったらなかったですよ。えぇ。アクセル踏みすぎてそのまま外に行くこともあれば、途中で加速しようとしてリアタイヤが滑ってスピンしかけて、抑えようとしたらそのまま逆向きに車がすっ飛んだり……。
その後アクセルがやっと形になったと思ったら、外にだんだん寄っていって『やばい』と思ってハンドルさらに切ったら、余計に外に寄っていってそのままコースアウトなんて……ねぇ。
普通に考えたら、ハンドルを切れば切っただけ車は曲がるって思うけど、実際はそうではないらしい。ある程度のスピード以上では、タイヤの摩擦力に限界が来てしまうらしく、その時々の限界以上にハンドルを切るとむしろ曲がらないんだそうだ。
「いや〜、疲れるよこれ……。」
「1回休憩する?かれこれ1時間くらいは経ってるし、慣れないことしてるからね。」
「いや、もう少しやろう。なんかだんだん楽しくなってきた。」
とはいえ、これ現実でやってたらとても体力もたないだろうなぁ。絶対腰とか足とか腕とかボロボロだ。
「そう?なら次に行きましょうか。」
「今度は何をやるんだ?」
「次はブレーキを絡めたコーナリングよ。一番最初にやったブレーキの応用で、今度は止まらないで曲がるところまでやるわ。」
「まじか。……ははは。」
正直、今のブレーキが絡んでこないコーナリングの練習ですらこんなに時間がかかったのに、ブレーキが絡んでくるとなると失敗しまくるとしか思えない……。楽しくはなってきたのだが、苦笑いしてしまった。……ヘルメットで顔は見えてないと思うけどね。
「さ、移動するわよ〜。」
例のごとくワープで移動した。移動した先は長い直線が続いているところだった。
「ここは?」
「ここは最終コーナーの立ち上がり、つまりホームストレートの一番始まりの部分よ。ほら、奥の方を見るとコースの上に何か橋みたいなものがあるでしょ?あ、すぐそこのやつじゃないよ?奥のやつね?あそこが一番最初に車に乗ったところよ。」
たしかに奥の方に見覚えのあるものがあった。だが、いったいどれくらい離れてるんだろうか。めちゃくちゃ遠くにあった。しかも心配なのは……
嫌な予感がしつつも、セラに聞いてみた。
「……これ、あそこで曲がるわけじゃないんだよな?」
「そうよ。あそこはただの通過地点。曲がる1コーナーはもっと奥。ここから約1.5キロ先にあるわ。」
「1.5キロ!?そんなにあるのか!?てか、そんな距離全開で走ったあとで止まれる気がしないんだけど!?」
さっきがたしか200メートル。しかも実際に加速してたのはそれより短い区間だ。当然速度は速くなるだろうし、ブレーキングの難易度だけでも跳ね上がるのは簡単に想像できる。
さっきも言ったがもう一度これを言おう。
いきなり難易度上がりすぎじゃないか!?
「あー、大丈夫よ。ちゃんとここからアシストが増えるわ。」
セラがそういうと、またウィンドウをこちらに見せてきた。
「この動画を見てもらえれば何がアシストなのかたぶんわかるわ。」
そこには、誰かが走っている走行動画が映っていた。ただ、俺が今まで見ていた視界にはないものがそこにはあった。
「これが?」
「えぇ、そうよ。やっぱりこれを見ればわかるよね。」
その動画では、路面に緑色の線が映し出され、そのままずっと先まで続いていた。
「このラインがここから使えるアシスト。ラインアシストよ。」
「へぇ。これに沿って走ればいいっていうアシスト?」
「ええ。といっても場合によっては別だけど、基本的にはこのラインに沿って走れば間違いは無いわね。あとはブレーキするべきところでは赤いラインに変わったり、速度を保ったまま曲がるべきところでは黄色のラインになったりするわ。」
これまた便利そうなアシストが使えるようになった。ただ、やっぱり気になる。
「なんで今までは使えなかったんだ?これが使えたら……特にさっきまでのやつとかかなり楽だったんじゃないか?」
「んー、これを使えばたしかに楽だけどね。けど、たぶん無理にラインに沿って走ろうとして失敗しまくってたと思うわよ?」
聞いてみたら、思いもしない返事がきた。無理にラインに沿って走ろうとして失敗するってどういうことだろう。
「さっきは何も無かったから、道路の全ての場所に正解がなかった。だけど、ラインがあればそのラインが正解になってしまってそれに合わせようとする。だけど、まだステアリング操作とアクセルワークに慣れてない状態で合わせようとしたらどうなると思う?」
「……速度を思いっ切り落とした状態で無理やり合わせるか、変なところでステアリングを切りすぎたりするってことか。」
「そう。その通りね。そんなことになったらラインに合わせることに集中して、あの時に一番大切なアクセルやステアリングから意識がずれるかもしれない。だからここまではつけないようになってるの。」
ちゃんと考えられた上で、ここまでは使えないようになってたんだな。だとしたら、なんでここで開放されたんだろうか。とりあえず最低限ブレーキ、アクセル、ステアリングをやったから使っていいよってことなのだろうか。