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ある日、独り暮らしの大学生の俺の家になんだか大きい箱がうちに届いた。50センチ四方程はあるだろうか。そんな箱で届けられたわけだが、俺にこんなものを頼んだ覚えがあるかと言われれば、そんなものはない。全く持って迷惑極まりないものだ。
ただ、宛名は確かに俺、小泉 哲也宛だった。
「誰だよ……いきなりこんなデカブツを送ってくるのは。」
そんなことをぼやきつつ依頼表を見てみたら、差出人名の欄に書いてあるのは、とても見覚えがある名前だった。
ご依頼主 小泉 和也
……見覚えがありすぎる。この名前は、俺の父さんだ。
「こんなでかい物送ってくるなら、せめて一言教えてくれればいいのに。」
とりあえず箱を開けてみよう。
カッター厳禁とか書いてある癖にしっかりガムテープ固定されているので、テープを剥がすのに少し手間取った。うぅ……爪が……。
「んで、何送ってきたんだよ……。こんなでかい箱に入れるものってなんだ??」
開けて最初に出てきたのは大量の緩衝材だった。いわゆるプチプチだ。ひとつひとつ潰すのもあり、いっぺんにまとめて潰すのもありという便利グッズ。日々のストレス発散に!
……それはおいておこう。
大量のプチプチをひっぱり出して、お次に顔を見せたのは手紙だった。中は後で読むとしよう。
そして、最後に出てきたのが、プチプチでぐるぐる巻にされた塊だった。
「何これ……??」
ぐるぐる巻の塊を解いてみると、中身は箱だった。側面には『Anschluss』という商品名らしき名前が書かれていた。……ただし、手書きで。
「Anschluss?って言うとどっかで聞いた気がするな。あれか、最近発売されたとかいう新型VRゲーム機だっけ。」
最近よくテレビCMなんかで見るやつかな。たしか、所謂フルダイブ型と呼ばれるタイプのVRゲーム機で、今までのVR機器と比べて内部での解像度が良いとか言ってた気がする。
ところで、なんで箱に書いてある『Anschluss』の文字が手書きなんだろうか。これ、絶対最初に入ってた箱じゃないよね?もともと入ってた箱どこいったし。しかも、開けてみてわかった事だが、段ボール箱の中身の6割はプチプチで、残りの4割が『Anschluss』の文字が書いてある箱だった。なんでそんなに緩衝材入れてんだ……うちの父さんは……。
「突っ込みどころ多すぎだろ……。はぁ、まぁいいや。んで、さっきの手紙手紙っと。」
さぁ、読んでみよう。
『久しぶりだな。元気か?二十歳になったお祝いにVRゲーム機を送っておいたぞ。なんだっけか。若者に人気?とかなんとか店で言ってたな。まぁ、詳しいことはとりあえず取説でも見てくれ。ソフトはAttack SectionVRをインストールしておいた。人気のレースゲームらしいぞ。父さんにはよくわからん世界だが、まぁ楽しんでくれたら嬉しい。あぁ、箱は最初に開けて見たときにうっかり壊しちまったから、別の箱にしたけど、ちゃんと新品だからな?それじゃ。
p.s. たまには帰ってこいよ?』
どうやら二十歳のお祝いらしい。あんまりゲームはする方じゃないんだけど、せっかく送ってもらったことだしやってみることにしよう。やる事もなくだらけているよりかは有意義になるかもしれない。
てか、箱を壊すとか、どんな開け方したんだ父さんは……。
「まぁ、いいや。Attack Sectionがどんなゲームなのかは知らないけど……あ、レース系って書いてあったか。とりあえず、やってみれば分かるだろ。そうと決まれば、取説取説っと。」
箱を開けてみると、ゴーグルのようなものと何本かのケーブル。それに取り扱い説明書らしき冊子が入っていた。とりあえず本体のゴーグルとケーブルは取り出して、説明書を読むことにしよう。
「えーと?最初はセッティングかな?使い方は…………っと。お、ここか。えーと?まずは……電源ケーブル……これか。これを本体と接続して。……よし、んでもって次がLANケーブルを接続してっと。」
そのあとあーだこーだといろいろとやって、準備は完了したらしい。あとは機械が自動でセットアップをしてくれるんだとか。
というわけで、ごろごろしたり取説を読んだりAttack Sectionの事を調べたりして待っていた。調べてわかったのが、Attack Sectionは2ヶ月前に発売されたアンシュラス専用のフルダイブ型VRレーシングゲームで、発売元は新規参入の【grow up】というもともとはAIを開発していた企業だそうだ。新規参入でそこまで有名ではなかったが、車に関することはもちろん、AIのクオリティもとても高く、口コミで一気に人気に火がついたらしい。割とマイナーなジャンルながらアンシュラスの主力ゲームだそうだ。
気になったのは、レーシングゲームとはいいつつ、実際はリアルさを追求したシミュレーションゲームに近いらしいことだ。例の高機能AIも搭載で、現実に近いレース体験ができるとか。他にもいろいろと機能も内部にあるらしく、一応簡易的な生活もできる……らしい。
そんなこんなで約30分。ゴーグルからピーっと音がなった。ようやくセットアップが終わったみたいだ。
「お?終わったかな。そしたら次は……こいつを被って、ゲーム名言えばいいのか。」
ゴーグルを被ってからベッドに横になりゲーム起動。
「Attack Section 起動。」
音声コマンドに反応してAnschlussが起動。一瞬の間のあと、浮遊感がやってきた。