まどろみ
ピピ、ピピピ、ピピピピピピピー!
耳障りな目覚ましの音でうっすらと目を開けるが、まだ夜は明けていないらしい。
立春が過ぎてしばらく経つというのに、春には程遠く布団から離れがたい日々。
もう少しこの温もりに包まれていたい。もう少し。ほんの少しだけ。
まずは布団を手繰り寄せて・・・
ピピピピピピピピーーーー!!!!
さっきよりもけたたましい音を撒き散らす。
「分かったよ。起きますよ」
目覚ましは自分でセットしたので誰にも罪はないし、独り言を言うのも日常だ。
もうここ何年も、起き抜けに会話を交わすことなどない。
身支度を済ませて、朝食を食べながらテレビとしゃべる。そんな寂しいやつなのだ。僕は。
「何作ろうかな」
上体を起こしながら呟く。しつこいようだが、それに応えてくれる彼女などはいない。
当然、朝食も自分で用意する。寒さが身に染みる。
必要最低限の物しかないワンルーム。ここで僕は生きてる。
多分、これからも。
初期設定の無機質な着信音が鳴り響く。誰だこんな朝っぱらから。
液晶画面から漂う面倒な香り。
「もしもし?」
「もしもし、青也?」
「青也ですよ母上。こんな時間にどうしたの」
「この時間なら電話に出てくれると思って。ここ最近出てくれないから」
食事は摂っているか、ちゃんと寝ているかとお母さんあるあるよろしく
毎回質問攻めなのでのらりくらりとかわしていたのだ。
「ごめん、色々忙しくて。」
「そうね、ごめんなさい」
こういうのも参る。さっさと終わらせてしまおう。
「で、どうしたの?」
「青也、近々帰ってくる気はない?もうすぐ春休みでしょ?」
「そうだけど、もうシフト出てるから休めないよ」
嘘である。
「そう・・・」
「夏には帰るよ。ごめん、もうバイトの時間だから切るよ」
「あ、」
素早く画面をタッチして通話終了。
そろそろ帰ろうとは思っていた。大学に進学して1年。1度も帰っていない。
一人息子が知らない土地にいるのだ。さぞかし心配しているだろう。
でも、まだ帰れない。
まだ・・・。