進路面談
「ヒーローになりたい。」
私が幼少期に描いていた夢である。
お兄ちゃんの本棚に置かれた少年マンガのキャラクターは私にとって憧れだった。当時は先生に褒められていた夢だが、大学生になった私が言うとみんな揃って笑う。しかも女子でこれはかなり痛い。大学3年生の冬、就活シーズンに入り、周りのみんなは進路を決めている。幼少期の頃から夢が変わらない私にはどこの会社も魅力的には見えないのである。
そして今日は憂鬱な進路面談である。
「セイは進路どうするんだ?」
頭は禿げているが、妙に服のセンスが良いゼミの教授が質問をしてきた。
「イヤー、悩んでるというか、なんというか。」
教授の前では、ヒーローになりたいとは死んでも言えない。どこでその服を買っているんですかという質問を投げかけて、話の話題を変えようと思ったが、
「地元に就職しようかなと思ってます。」
その場しのぎで出した答えはすんなりと受け入れられ、教授の部屋を逃げるように退出した。
ゼミ室に戻ると、同級生のゲンと先輩のミキがパソコンの前でせわしく研究をしているようだ。疲れた私は大きく息を吸って吐いた。
「フ〜〜〜、ハ〜〜〜。」
「溜息すんなよ!」
ゲンがよく言う言葉である。進路を定めている彼はその目標に向けて頑張っている。
「ヒーローって、どうやったらなれるんだろう。」
「そんなの世の中で働いている人、みんなヒーローだろ。仕事をすることで誰かを笑顔にできてるんだし。」
最もな意見だが、なぜかムカつく。
「後悔しない選択しないとね。」
優しくてカッコイイ先輩は、某大手企業に内定済みだ。
どうしたらなれるのかを考えてはみるが、答えなんて出る訳がない。毎晩寝る前に、空を飛べるように、手からビームが出るように、ワープができるように、と願ってはいるが、スーパーパワーは目覚めそうにない。
「二人共、お先に失礼します。」
そろそろ現実を見なくてはならない。本屋にでも寄って、就活用の本を買うと決めた私は行きつけの商店街に向かった。