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バリヤ 9  作者: 縁ゆうこ
第2章
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第7話


 ここは、クイーンシティ旧市街のはずれ。

 200数十年前に閉じたと思われていた、次元の扉がある場所だ。


 今日、それが開かれ、祝祭広場に、異次元からの訪問者がやって来る。


 現れたのは、筋骨隆々の勇者ではなく、彼らとほとんど変わらないただの若者だった。

 丁央は、それを把握すると、彼らを恐れさせないよう、素早く話しかける。

「ようこそクイーンシティへ。あなた方の到着をお待ちしておりました」


 すると、ポカンとしていたうちの1人が、予想もつかないことを言う。

「うわっすげえ。俺、異次元の言葉がわかるぜぇ!」

直正なおまさ!」

 すかさず横から1人が腕をつかむ。

「俺もです……」

 すると、反対側にいた若者も言うが、なぜか彼は心ここにあらずで、目はあらぬ方を向いている。


 焦ったように隣の男の腕をつかんでいた彼が、キリッとした表情でこちらに叫ぶように話し出す。

「お出迎え、痛み入ります。まさかこのように歓迎されるとは、思ってもおりませんでした。私は、次元の扉を通って、ただいまやって参りました、ネイバーシティの、広実ひろさね つづると申します」

 丁央は、その落ち着いた口調に男の器量の大きさを感じつつ、そう言えばまだ名乗ってなかったと、彼らに歩み寄りながら返事を返した。

「承知しました。名乗りもせず、申し訳ありません。俺は、クイーンシティ国王、小美野おみの 丁央てぃおと言います」

 すると、さっき腕を捕まれた男が、ヒュウと口笛を吹いて驚く。

「国王さま」

「直正、全くお前って奴は!」

「あ、すまない」

 また腕を引く綴に、その男はちっとも反省していないように頭をかいている。

 こいつは俺と気が合うな。

 丁央はそんな風に思って、ついニヤリとしてしまった。

 すると、後ろの方から泰斗が走ってくるのが見えた。



 はじめ泰斗は、「お前は戦闘出来ないんだから、ここな」と、丁央に言われたとおり、広場の後部に設置された席で、ダイヤ国の国王たちとディスプレイで一部始終を見ていた。

 今か今かと待っていたそこに現れたのは、4人の若者。

 泰斗はその中にいた小柄な1人が、丁央たちではなく、横に立っている護衛ロボに目をとめて、そのあとものすごく嬉しそうにキラキラと目を輝かせたのを見て取った。

「もしかしたら、彼……。ねえ、R-4ちょっと来て」

 泰斗は「ナにー?」とか言うR-4を引っ張って、その彼の元に走り寄っていた。

「え? おい! 泰斗!」

 丁央が叫んでいるが、いいよね、護衛ロボもいるし、あの人たちはどう見ても悪い人じゃなさそうだし。

 小柄な彼の前にたどり着いて話しをしようとしたのだが、それより早く。

「え? 後ろにいるのは、もしかして、ロボット?! うわあ、すごい! ちょっと触って良いですか!」

 と、泰斗を通り越して、後ろのR-4に突進する。思った通りだ。

「ヤメテー、護衛ロボ!」

「わあ、しゃべったあ!」

 抱きつく勢いで、R-4に近づく彼の前に、護衛ロボが立ちはだかり、クジャクの羽のような覆いを広げてR-4の姿を隠してしまう。

 けれどそれであきらめる、と言うか、驚く彼ではなかった。

「え? 何が背中に着いてるのかと思ったら、羽根? すごい! 薄~い、これはなにで出来てるの?」

 護衛ロボの羽根に顔をくっつけるようにしてまた目をキラキラさせている。

 泰斗はそんな彼を満面の笑みで眺めた後、護衛ロボを下がらせて自己紹介する。

「あとで説明して上げる。初めまして、僕はここのロボット研究所にいる、新行内しんぎょうじ 泰斗たいとって言います。よろしくね」

 すると、差し出された手を反射的に握り返しながら、「新行内?」とつぶやいて、あっとわかったように笑顔を深める。

「しんぎょうじって、もしかして、あのホテルのオーナーさん?」

「え?」

「初めまして、俺はあちらでロボットテクノロジーを研究しています、鈴丸すずまる・オルコットです」

「やっぱり! 君もロボット大好きなんだね。ひと目でわかった。でも、えーと、オーナーさんって何のことかわからないんだけど」

 不思議そうに言う泰斗に、鈴丸が向こうの次元の扉のことを説明する。

「へえー、SINGYOUJIホテルって言うんだ。けど、僕は一度もそっちへ行ったこと、ないよ」

「あ、考えてみればそうですよね、すみません」

「いえいえ」

 どこまでも真面目で可愛いロボット大好きな2人は、出会った途端に100年来の親友のようになった。


「あ~あ、泰斗が2人になっちまった」

 驚きながら2人のやり取りを見ていた丁央がつぶやいている横に、スッと人が立つのがわかった。

「そっちは泰斗って言うのか。こっちのは鈴丸って言うんだ」

「ロボット馬鹿?」

「ああ、ロボット馬鹿」

 オウム返しに言って、その男は丁央に手を差し出した。

手塚てづか 直正なおまさです。その若さで国王なんて、あんた何者?」

「たまたま惚れちまった人が、王女さまだったってだけ。小美野 丁央です。よろしくな」

 握手をしたまま、ニヤリと不適な笑いを交わす2人。


 そんな光景を眉をひそめて見ていた広実の前に、また1人男がやって来て立つ。

「?」

 いぶかしげに見やる綴の視線に少し微笑んで、その男は自己紹介をはじめた。

「どうやら丁央も2人になってしまったようだ。はじめまして、俺はこちらで歴史を研究している、刀称とね 遼太朗りょうたろうと言います」

「ああ、失礼。俺は」

「広実 綴さんですよね。先ほどの自己紹介を聞いていました」

 少し驚いていた綴が、ふっと笑顔になって言う。

「どうやら、ここでまともに話し合いが出来るのは、俺たちだけ、みたいですね」

 そんな綴を、今度は遼太朗が目を見開いて眺めたあと、本当に楽しそうに言う。

「まったくです。どうぞよろしく」

 可笑しそうに笑い合いながら、2人もまた固い握手を交わすのだった。



 最後の1人、琥珀こはくはと言うと。

「う、うわ! 歓迎痛み入ります。わ、アハハ、ちょ、ちょっとやめてくれよおー」

 集まってきた一角獣から、熱烈歓迎を受けていた。

「ほほう、あやつはとんでもなく良い奴じゃぞ」

「お、ラバラさまもそう思われますかの?」

 そんな様子を遠目に見つつ、ダイヤ国王とラバラが話をしている。

「そりゃそうじゃ、一角獣に好かれる奴に」

「「悪い奴はおりませぬ」」

 最後の言葉を顔を見合わせて言ったあと、2人は楽しそうに笑い合うのだった。




 その夜の歓迎会? は、お祭り大好きなクイーンのおかげで、かの綴ですら表情を緩める場面が何度も見られたほどだ。

「それにしても、なんで俺たちが来ることがわかってたんだ? おい、丁央!」

「すっごいコンピューターではじき出したんですかぁ?」

 盛り上げ上手のクイーンにかかると、「俺は飲めません」と辞退した鈴丸も、ノンアルコールのドリンクだけで、酔ったようにはしゃいでいる。

「そうだ。すっげえんだぜえ、うちのスーパーコンピューターは~」

 丁央もかなり良い気分に浸っている。

「誰が、コンピューターじゃ」

 その頭を、ポコンと何故か手に持っていた扇子で丁央の頭を叩いたラバラが言う。

「うへっ、すんません。直正、このお方がそのコンピューター、じゃなくて、占ってはじき出してくれたんだ」

「へ?」

「え?」

 ニイッと笑うラバラを、直正も鈴丸もポカンとして見ている。

「それもな。場所、時間ともに、ほぼ占った通りだったそうだ」

 隣にやって来た琥珀が笑って言う。

「「ええーー?!」」

 ふたりして叫んだあと、またポカンとラバラを眺める直正と、反対に質問しまくる鈴丸。

「占いって、どんな占いですか? コンピューターを使う、のではないですよね。なんで占いでそんなに正確にわかるんですか?」

 ほほう、と興味深そうに鈴丸を眺めたあと、ラバラはよしよしと言うように鈴丸の頭にぽんと手を置いて、彼の隣に腰かけた。


「お前さんの生きる世界には、魔物と呼ばれる種族はおるかの?」

「はい、純粋な方もいますし、ヒューマンハーフもいます」

「ほう、なら話は早い。わしはの、その魔物の血を引いておる」

「え?」

「その昔、かの次元の扉を通って、沢山の者がここクイーンシティへやって来た。彼らは戦争ばかり繰り返した報いで男子が産まれなくなり、絶滅の時を迎えようとしていたこの世界に新たな希望を与えてくれた。その時に魔物もまたやって来て、ブラックホールからこの世界を護ったのじゃ、リトルたちといっしょにな」

 すると、どこからともなく金銀がすいっとラバラのまわりに集まりはじめる。

「その時に、わずかながらこちらに残った魔物もおったと言う事じゃ」

「へえ。……わ、なに?」

 ラバラの話しを真剣に聞いていた鈴丸の頬に、何かがポンポンと当たる。よく見るとそれは、さっき集まってきた金銀たちだ。

「ほほう、お前さんはやはり泰斗に似ておるのかの。そいつらはリトルペンタグラム、略してリトルペンタとかリトルとか言う」

「あ、さっきブラックホールから世界を護ったっていう」

「そう。こやつらは泰斗をなかなか好いておるんじゃ。お前さんもその仲間らしい」

「そうなんですか。なんか嬉しい、けど、ちょっと痛いよー」

 いたずらっ子のリトルは、時たまチクチクと当たってくる。「やめてよ~」と言いつつも、されるがままな鈴丸が納得したように言った。

「だからあんなに正確なんですね」

 どちらの世界にも、泰斗や鈴丸のような科学者はいる。ただ彼らは、自分たちが見たり聞いたり触ったり出来るものだけを盲信してはいない。この世界には目に見えない大切なものが無数にあるのだと認識している。それはラバラたちのように魔物の血を引く者には感じ取れると言う事もわかっている。だから、彼らが言う占いをバカにしたりはしないのだ。

 ふむふむと頷く鈴丸が、また話しを聞こうと口を開いた途端、誰かがガバッとのしかかってきた。

「わあお、君がネイバーシティのロボット大好きさん? 思った通りだ、可愛いねえ。まあ仲良くしてくれたまえ」

 と、今度は彼の前に回って来ると、ギュウーーーと頭から抱きしめる。

「もう、先輩! 失礼ですよ! ごめんなさい! この人はロボット研究所のジュリー。私は同じくナオです。先輩は見ての通り、何かというと私たちをこけにして遊ぶんです!」

「遊んでなんかいないよお。俺は後輩が可愛くて可愛くて仕方がないだけ。ひどおい、ナオ」

 アルコールが入っていつもより強力になったジュリーの吸引力を引っぱがそうと、ナオは必死だ。そこへ泰斗も彼らの騒ぎを聞きつけてやって来る。

「わあ、先輩ダメですよ。ナオ、そっちの腕ひっぺがして!」

「りょうかい!」

 両側から腕をガシッとつかんで、ようやく鈴丸からジュリーを引き離すのに成功する。

「ぜ、ぜえぜえ……。ああ、窒息するかと思った。ありがとう、泰斗、と、ナオ?」

「いえいえ、よろしくです」

 ニッコリ笑うナオと鈴丸は、またこちらも善き友になれそうな予感がした。


 そんなこんなで彼らの夜は更けていく。



いよいよクイーンシティとネイバーシティの面々の、出会いの時がやってきました。

このあと彼らは水の底にある次元の扉にどう対処していくのか。

第2章のはじまりです。どうぞお楽しみ下さい。

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