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バリヤ 9  作者: 縁ゆうこ
第1章
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第6話


「まず、直正は無理だろうな」


「ええー?! 何でだよ」

「大丈夫です。直正さんがいなくても、俺たちだけでちゃんと任務は果たします」

「任せてください」

「って、なんで他のヤツらは通れる事になってるの?」

「日頃の行いだろう」


 あのあと、尾ひれのついた噂のおかげで今まで使われていなかった事が判明した次元の扉。管理を任されている通称バリヤ、MR.スミスの承諾が採れたので、早速、三者三様ならぬ四者四様で上司に許可を取りつける。

 ただ、どこの上司も、通れるかどうかもわからないものに大きな予算も時間もつくはずがないとの見解から、とりあえず構成は最初の調査メンバーのみ、しかも向こうにたどり着いた者が調査をしてくる、と言う話しになった。

 ただ、冒頭の通り、何故か直正は通れないだろうと誰もが確信? している。


 しばらく留守にするので、黙っていたらあとで煩いだろうと、いきさつを話した幼なじみでお目付役のナズナからは、

「落ち込まないでー。帰ってきたらなぐさめてあげるわよ」

 などと、今まで聞いたこともないような優しいことを言われて、またムカッとする。

 所長ですら、

「ああ、手塚は休暇ってことで、ダメ元で行ってこい」

 などと言う始末。

 ぶすっとむくれた直正に、MR.スミスだけは違っていた。

「大丈夫でございますよ。皆さまきちんとあちらへ行かれることと思います」

「ですよね! さすがは老舗のバトラー! 聞いたか、綴」

「ですが、何か根拠があるのですか?」

 綴が、確信を持っているようなそぶりのMR.スミスに聞くと、ひとこと。

「爺の勘、でございます」

「はあ?」

 思わず吹き出した綴を横目で見ながら、直正は「ひでえー」と泣き真似をする。

 その上、極めつけが。

「大丈夫です、手塚様。すぐにお戻りになられた際は、当ホテル自慢のリラクゼーションエステで身も心も癒させて頂きます」

 これはやはり、MR.スミスにさえ、彼だけすぐに帰ってくると思われているらしい。

「ふん!」

 と、しかめ面の直正は、だがそんな風に言われると、かえって燃えるタイプだ。

「わかった! 今に見ていろ、何が何でも通り抜けて、あれこれ言った奴にほえ面かかせてやる!」

 MR.スミスが手を叩いて言った。

「さすがは手塚様。その意気です」


 そのあと彼らがMR.スミスに案内されてやって来たのは、ホテルの広大な敷地に隠れたようにある庭園だった。いつでも開け放たれているが、いちおう門と柵で仕切られているため、向こうはホテルの外だと思って、人はあまり入ってこない。

 門をくぐり抜けて少し進むと、木々で覆われたあたりに、また門があった。先ほどと違っていたのは、きちんと扉が設置されていることだ。

 だが、奇妙なことにそこには門しかない。まわりを取り囲む柵もなくて、ただ、扉のついた門が独立して立っているのだ。

「こちらでございます」

「これが」

「次元の、扉……」

 試しに直正がクルリと向こう側に行ってみたが、同じ門があるだけで、消えたりいなくなったりはしなかった。

「実は私も、お通しするのは初めてでございます」

 落ち着き払ったMR.スミスの言葉に、かえって誰もが緊張して、ゴクリ、とつばを飲み込む音が聞こえる。

「だが、俺たちの世界がかかってるんだ。それに、以前は行ったり来たりしてたんだ」

 綴が意を決したように言うと、他の3人も真剣な顔で頷く。

「では、よろしくお願いします」

「かしこまりました」

 MR.スミスが把手に手をかける。

 ギ、ギギギ、と、重厚な音がして、少しずつ扉が開かれていった。

「わあ」

 鈴丸が思わず声を上げた。

 中から金銀の光が漏れ出して、あたりをまばゆく照らす。

「それでは、いってらっしゃいませ」

 うやうやしく頭を下げるMR.スミスの声に先導されるように、彼らの姿は扉の中へ消えた。



 いつの間に扉が閉まったのかわからなかった。

 中は金銀が降り注ぎ、足を踏みしめてもフワフワと浮かんでいるようだ。

 最初はどちらへ進んで良いのかわからなかったが、しばらくすると、直正はまわりに、かすかに人がいるような感覚を覚える。

「誰かいる?」

 それは他の者も同じらしく、皆、辺りを見回している。

 だが唐突に、それは以前ここを通った者たちの残像だと言うことに気づく。何故わかるのか、わからない。けれどきっとそうだと何故か確信できるのだ。

 残像は同じ方向へと進んでいく。

 彼らはそれに習って、そちらへと足を向けるのだった。


 その人たちはふいに直正の隣に現れた。他の者とは違って、姿がはっきりとわかる。

一直いちなお!」

 キャッキャとはしゃぎながら走って行く子どもを追って、母親らしき人が慌てて跡を追う。ものすごく綺麗な人だ。残念、人妻でなけりゃお声をかけてたな。

「おい、あんまり走るとスッ転ぶぜえ」

 すると、また隣にやって来た男が2人に声をかける。なんだか鷹揚なオッサンだが、それ以上にカッコイイと思ってしまう。

「だって直人なおとさん。一直が行っちゃうわよお」

「はは、わかったわかった」

―――直人さん?

 確か、伝説のバリヤ総括隊長の名前って、手塚 直人。

 って、この人たちもしかして、もしかして。

 男の人の前に出て顔をよく見ようとしたのだが、なぜか足が動かない。するとその人は、直正にニヤリと笑いかけると(そんな気がした)、前面に広がるもやの中へと消えてしまった。

「なんだ、今の」

 つぶやいてあたりを見ると、綴が目を見開いて誰かを見ているのがわかる。直正にはその人はぼんやりとしたシルエットに見えるだけだ。

「どうなってるんだ?」


 それからどれほど歩いたのか、時間も空間の感覚もないまま進んでいると、今度は前から何かがやって来た。

「なんだ?」

 4人は身構えてそれを見やる。

 すると現れたのは、遠目には鹿のような、だが頭に長い角が1本だけある動物だった。

「あれって」

「うわっアニメで見たことある! ユニコーン」

 直正は大喜びだったが、かなり驚いているのは、琥珀だった。

「一角獣だと? もしかしてあちらの世界には現存するのか?」

 引き寄せられるように琥珀が近づくと、それはなんと! 琥珀の身体に巻き付くように彼を一周して、また元来た道へと帰って行く。

「おい、待ってくれ」

 琥珀は思わず後を追って走り出した。

「あれ、琥珀さん行っちゃったよ。追いかけましょう」

 鈴丸がまたその後を追う。

 綴と直正もうなずき合うと、また彼らを追って走り出した。



 どんどん光が強くなる。

 やがて目も開けられないほどに輝きを増した金銀が、パチン! とはじけたような感覚があって。

 目をあけると、彼らの前には枯れたような草と、その少し向こうに沢山のカラフルな建物の屋根が見えた。

「次元の扉をぬけた?」

「ここが、向こう側?」

 しばらくは、唖然としていた彼らだったが、無事に通り抜けたのがわかると、手を取り合って喜び合う。

「やった!」

「成功だ!」

 だが、鈴丸があることに気がついた。

「あ!」

「どうした?」

「直正さんも、いますよお」

「え?」

 思わず自分を指さした直正は、はっと我に返ってふんぞり返る。

「どうだ! 思い知ったか! 俺だってやるときゃやるんだぜ」

「あはは、本当だ」

 嬉しくてハグする鈴丸に、そのまた上からハグする琥珀。

「良かったな」

 綴はひとりクールに、かれらの肩を叩いて喜んだ。

「だが、問題はここからだ」

 しばし喜び合った4人だが、すぐに冷静になった綴の言葉にハッとなる。

「本当ですね。ここの人たちに、僕たちが調査のためだけに来たと、わかってもらえるでしょうか」

「って言うより、ここって言葉通じるのかな」

「そりゃあ、俺たちのご先祖様もいるし、大丈夫だ、……きっと」

 そんな不安にさいなまれていたとき、彼らの前にまたあの一角獣が現れた。

「ここへ連れてきてくれたんだな、ありがとう。おい、どうしたんだ?」

 それは、また来いと言うように、ときおり後ろを振り向きつつ先へ進んでいく。

「どうする?」

 直正が言うと、琥珀が決心したように言う。

「行きましょう。僕には彼が何かを伝えているように思えてならない」

「だな、こんなに好かれたんじゃ、無碍にできないよな? 琥珀」

「ああ、まったくです」

 苦笑しつつ、彼らは一角獣に先導されるように街への道を進んでいった。やがて、目の前が大きく開けると、美しい石畳が敷かれた広場のような所に出る。




 急に走り出した一角獣だったが、彼らは誰も驚かない。

 なぜなら。

 その先に、見慣れない服装をした人が何人か立っていたからだ。

 中央にいる、精悍な顔つきの若者が一歩前に歩み出て、よく通る声で言った。


「ようこそクイーンシティへ。あなた方の到着をお待ちしておりました」



ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

久々に登場したネイバーシティを交えての、バリヤシリーズです。

とりあえず、クイーンシティとネイバーシティが交互に登場した、第一弾はここでおわりです。

彼らが協力していく第二弾まで、しばらくお待ち下さいね。


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