プロローグ
ようやく雨が上がったようだ。
〈水の惑星〉と呼ばれているこの星では、海から大きな恩恵を受けているため、雨は必要不可欠なもの。
とはいえ、もう1週間も降り続いているのだ。
こう続くと、さすがに気が滅入る。
俺、寝てたのか? ここは、どこだ? あたま……いたい。
「うう、ん。やっと雨あがったのお、うっとうしかったぁ」
キングサイズのベッドでふと横を見ると、見知らぬ女が一糸まとわぬ姿でうつぶせている。そのあと、雨よりも鬱陶しくまとわりついてくる女の手を冷たくはがし、ベッドを降りると、のろのろと窓へ歩み寄って外を眺める。
(えーと、こいつ誰だったっけ? 昨日は雨が止まない鬱憤晴らしに、仲間と大騒ぎして、飲んだくれて……、ああ、またやっちまったか)
頭をガシガシしていると、いつの間に来ていたのか、後ろから女が腹に手を回してくる。
「ねえ、もう1回、楽しみましょ」
よく見るとちっともタイプじゃないし、欲にまみれた表情はハッキリ言って気持ち悪い。
(うわ! やめてくれ!)
と、思ったのだが、自分がやらかしたことはもう取り戻せない。
深く深く後悔して反省した、その時。
ガタン!
と、ディスプレイ横にしつらえられた鏡が嫌な音を出す。
「な、なに?」
後ろの女が驚く。
ゴォーーーン!
すぐあとに、鏡が轟音を立てたかと思うと、部屋に竜巻が舞い上がり。
「……あんた、あたしの男に、なに手を出してるの?」
身も凍るような声がして、実際に背筋が凍る。そして、身も凍るように美しくて身の毛がよだつほど恐ろしい女が現れた。
「ひ、ひえっ、魔女!」
そのあとは、「お願い、たすけて!」といいつつも、10倍速で服を着て荷物をまとめて、おまけにメイクまですませると、女はバタン! と部屋を出て行った。
「なんなの、あれ」
肩をすくめて見送った魔女がくるりと振り向くと。
彼女はただの可愛い女性に変わっていた。
「直正~。この状況はなに? 説明して貰いましょうか」
腰に手を当てて偉そうに言う彼女に、直正と呼ばれた男が口を開こうとした途端、バサッと顔に何かが飛んできた。
「とりあえず、それくらいは履いて!」
手に取ると、それは自分のボクサーパンツだった。
「まったく! 手塚一族始まって以来のダメ人間だって誰かが言ってたとおりね! だからって、なんであたしみたいな可愛い女の子がお目付役しなきゃならないのよ!」
可愛い? は、まあ納得するとして、女の子? 確か俺より年上。
ボクサーパンツ1枚で床に座らされて、ベッドに女王然として腰掛ける彼女に、延々と説教を受けている直正。
「あのお、」
さすがに身体が冷えてきたので、女王様にお伺いを立てる。
「なによ」
「寒いんで、何か着ても良いですか」
手塚 直正。
――彼は。
言い伝えによると、次元を超えて超優秀だったと伝説になっている、手塚 直人のダメ子孫? かどうかはこの後のお楽しみ。