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バリヤ 9  作者: 縁ゆうこ
第2章
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第13話


 星読みでわかった「厳しいこと」はどうやら水に関係するものではないらしい。

 だったら、何なのか。

 それがひょんな所からの情報で明らかになった。


 どんな些細な事でも、次元に関係のないことでも、ネイバーシティに変化があったら連絡してほしいと言ってあったため、所長から聞いたときはあまりピンと来なかったのだが。

「地質の研究してるヤツらからね、あのJ最北端近くで近々地殻の変動があるんじゃないかって」

「地殻変動ですか、そんなのしょっちゅうですよね」

 直正が言うと、所長もちょっと苦笑いをする。

「だよねー、けど今回のは少し規模が大きいかもって」

「わかりました。お忙しいときにありがとうございます」

「ううん、全然平気だよ。そっちも大変そうだけど、頑張ってね」

「ラジャ!」

 通信を切ったあと、綴が少し考え込んでいる。

「どうした? 地殻変動が何か気になるのか?」

「今回のは規模が大きいと言っていた。大きく動いた地殻が次元の扉に影響すると思うか?」

「うーん、水の圧がかなり上がるかも知れないけど、星読みによると水じゃないんだよな」

「規模の大きな変動、水には関係ない、だったら……、火?」

 そのあと2人は、同時に叫んでいた。

「火山か!」

「火山だ!」

 ヤバイヤバイと言いながら直正は、タブレットを操作する。

「え? けど、このあたりは海のど真ん中だぜ、……あ!」

 直正が何かを思いついて綴を見ると、彼は静かにその答えを出した。

「海底火山だ。確かあの海域には火山帯が走っているはずだ」

「もし爆発してこちらに土石流が流れ込んだりしたら」

「海のないこちらの世界は、焼き尽くされてしまうかもしれない」

「ダメだぜ! 絶対に食い止める!」




「たぶん、火山です」

「火山?」

 その頃、異界に帰ったロアンも、同じ答えを出していた。

「って、どういうこと? あの次元に火山なんてないはずよ」

 驚くルエラに、ロアンが説明する。

「ですから、ネイバーシティ次元の扉近くに、火山があるのでしょう」

「ええ?! ちょっとお、それってまずいんじゃない?」

「おおいにまずいですね」

「じゃあ、ロアン。貴方はいつでも飛んでいけるように待機しててね」

「ルエラもですよ」

「ええー? 私はもうネイバーシティには行かないって決めてるの」

 するとロアンが、少しにやりとしながら言う。

「大丈夫ですよ。クイーンシティに直行できる鏡を用意してありますから」

 目を見開いたルエラは、思わず笑ってしまう。

「アハハ、あきれた」




 綴と直正の説は、ナズナの直感に響いた。

「火山……。そう、きっとそれだわ」

「だったら、早急に移動部屋に高熱対策を施さなけりゃ」

 話を聞いた鈴丸が、泰斗に連絡を取ったあと、空間移動研究所へと行く。

 火山と聞いても、こちらの次元の者はピンと来ないようだ、火山など見たことも聞いたこともないのだから、あたりまえと言えばあたりまえだが。

「火山? 溶岩? 1000度以上もあるもの? なにそれ、なにがどうなってそんなになるの?」

 興味津々だった泰斗だが、高熱対策を持ち出されると、すんなり答えを出した。

「たぶん、一角獣の角を混ぜたこちらの素材なら、かなりの時間耐えられると思う」

「そうなの? すごい!」

 今度は、鈴丸が驚く番だった。

「ただ、どれくらいまでしのげるかは、わからないけどね」

 とは言え、出来るだけの手は尽くすのが彼らだ。

「ちょっとR-4にも聞いてくる」

 泰斗がそう言って出かけたあと、鈴丸も何か出来ることはないかと考えて。

「うーん、こっちの素材って、あっちとは全然違うんだった。だったら知識を仕入れなきゃ」

 と、トニーに教わった王立図書館へと向かうことにする。

 ダブルリトルを運転しつつ、楽しそうに? 後ろを着いてくるリトルを見るともなく見ていると、ふとある疑問が頭をよぎる。

「……そう言えばリトルって何なんだろ?」

 突然ひらめいたリトルの正体解明に、鈴丸はしばし思考を占領される。けれど考えていてもわからないので、クイーンシティの生き字引に教えて貰う事にして、急遽行き先を変更した。

 珍しく旧市街の自宅にいたラバラは、鈴丸を喜んで迎え入れてくれる。

「お前さん1人かの? ほほう、珍しい」

 と言いつつ、お茶を入れてもてなしてくれたりする。

「リトルというのは天地の護り。リトルペンタグラムはクイーンシティの護り。リトルダイヤモンドはダイヤ国の、リトルジャックはジャック国の、それぞれの天地にいてお互いが影響しながら世界を護っておる。お前さん達の次元にも、目に見えないだけで、天地の護りはそこかしこにあふれておるのじゃよ。ただ、慢心がはびこる世になるとそれらは、いち抜けたー、と、どこかへ行ってしまうのじゃ。傲慢は身を滅ぼすぞ。……と、いかんいかん、また説教じみてしもうた、ハハハ」

 リトルの事を聞くと、ラバラはそんなふうに説明してくれた。

 護りが目に見えるなんて、向こうの世界では信じられない~、と、直正のように思っていた鈴丸がふとつぶやいた。

「でも、そのリトルってなにで出来てるんだろ……」

「なにで出来ておるか? そんなもの」

「そんなもの?」

「わかるわけないじゃろう」

 ガクッ!

 本気でがっくりとずっこけた鈴丸を見て、ラバラはカラカラと笑い出すのだった。


 R-4に聞きに行った泰斗に、「アノ素材と、リトルがイレば、ダイジョーウブ」と、彼は言ったそうだ。

「なんでリトルがいればダイジョーウブ、なの?」

 あとで念のため鈴丸が聞いてみると。

「リトルは、天地ノ護り、ダカラ、ね」

 などと言う。

 鈴丸はこのとき真剣に考え込んだ。

 R-4って、本当にロボットなの?



「こりゃあ、移動部屋の制作、急がにゃならんな。しかも完璧に、だ!」

 話を聞いて張り切りだしたのは、もちろん時田だ。

「はいはい。また何日か徹夜かな」

 トニーは慣れたことと用意をはじめる。

 泰斗と鈴丸、そしてジュリーとナオ、そのほかのロボット研究所の面々も、自分たちの仕事の手が空くと、手伝いに訪れる。


 綴と直正は、王宮に新しくしつらえて貰った通信室で、随時送られてくるJ最北端にある火山帯の動きを綿密に計算する作業に入っている。

 さすがのラバラも、次元の向こうにある火山の爆発まで占うことは出来ない。と言うより、未来は絶えず変化し続けるため、こればかりは誰にもわからない。ナズナのような純粋な魔女にさえ。

 彼らは今までのデータと予測とを組み合わせて、出来るだけ正確にその日を割り出す事に全力を傾けている。それこそ昼夜を問わずに、だ。

 また、月羽やクルスなどの、エネルギー関係の研究をしている者は、陸地と海の動きを、またデータの読み方を教わり、交代で彼らの補佐に入っている。

「こんなにすごいエネルギーの流れを、なぜネイバーシティでは有効利用出来ないのかしら」

 月羽などは不思議そうに言う。

「いやあ、色々あってね、ネイバーシティのエネルギーは純粋に流れていかないんだよ」

 直正は自然界の事ではなく、人社会にうごめく強欲や慢心の事を言っているのだろう。綴も、最もだと思いつつ、今はこちらの世界を守る事が先決だと気を引き締めた。


 その頃琥珀は皆の了解を得て、一角獣の観察のためあちこち移動していた。

「僕がここにいても、特に出来ることがないようですし」

 と言う彼を、誰も責めも咎めもしない。世界は皆が違って成り立っている。出来る者が、出来ることを、出来るだけ。けれど、身の上に起きたことには全力を尽くす。

 時間が過ぎてから、巡り巡って自分のしたことが誰かの役に立ったとわかるのは、ままあることだ。

 反対に、自分が出来もしないことを無理して、かえってまわりに迷惑をかけるのも、またままあることだ。

 短い草と、赤茶けた山。彼が今いるのはクイーンシティの郊外だ。

「一角獣もリトルたちと同じく、ある場所から行き来が出来ないのかと思ったら、どうも違っているみたいだ」

「ほんと?」

「はい。これであのあたりを見てみて」

 琥珀が双眼鏡を渡すと、ララは彼が指さしたあたりを見る。

「あ、いるわね。えーと、ホントだわ。微妙に身体の色が違うのがいっぱいね。あんなにいるなんて珍しいー」

 移動は何故かララと共にだ。とは言え、琥珀が強制したわけではなく、ララが勝手に着いてまわっているのだ。

「ララ、第3拠点へ行ってみよう」

 少し考え事をしていた琥珀が急に言う。

「どうしたの?」

「ちょっと気になってね」

 第3拠点にたどり着いた琥珀とララは、双眼鏡を使ってくまなくあたりを見るが、どこにも一角獣は見当たらない。

「どうしたのかしら? いつもなら何頭かいるはずなのに」

 不思議そうに言うララに、琥珀が答える。

「動物の本能だ。ララたちの星読み通り、もうすぐここで厳しいことが起こる。彼らはそれを察知してここから離れて行ったんだ」

「え? でも、それだとここにはリトルジャックしか来られなくなるわ。いざというとき、それだと困るわ」

「そうなんだ。これは何とかしておかなくちゃ」

「協力するわよ!」

 パチン、と無邪気にウインクするララに、こんな時なのに琥珀はなぜかとても楽しくて、大いに笑ってしまうのだった。




 それからしばらくして。

「おっし! 空間移動部屋ふたつ、めでたく完成だ!」

 最後の仕上げを済ませた時田が、両腕を上げてガッツポーズする。

 おおー! と言うどよめきと共に、皆が拍手をし始めた。

 大喜びの中、ナオがどこかに連絡を入れる。

「試運転の王宮広場、用意はバッチリ整っているようです」

 どうやら丁央に報告したようだ。

「そうか! だったらさっそく始めようじゃありませんか」

 嬉しそうに言う時田の横で、ふだんは冷静なトニーもさすがに嬉しそうに言う。

「じゃあ、俺がポンプ式を担当するよ」


 ヴィンヴィン、……ヴィンヴィン

 王宮広場にふたつの音が鳴り響く。

 グニャグニャと歪んだ空間もふたつ現れ、見慣れない移動部屋が姿を現した。

「おう、丁央。完成したぜ」

 集まった見物客の歓声を受け、二重扉の移動部屋から降り立った時田が、バルコニーにいる丁央に手を振る。

「そっちのは?」

「あ? あれは無人なんだ」

「無人?」

「すごいねえ!」

 観客はほほうと感心した声をあげている。

「意外と早く、やりおったな」

 そこへラバラが現れる。その後ろからステラとララが。そしてステラの持った鏡から、ボウンと白煙が上がり、ナズナが現れて、また観客がやんやと歓声を上げた。

「ラバラさま」

「約束じゃ」

 ニッコリ笑ったラバラは、ふたつの移動部屋を見上げると、後ろに控えた魔女達に目配せをする。

「はい」

 彼女達は四方に散ると、移動部屋を囲むように立った。


 Ωνχ∬※★☆

 呪文と共に4人が両手を上げると、ポワンと優しいあかりが移動部屋を包み込む。


 通信部屋のディスプレイで一部始終を見ていた直正が、グスッとすすり上げる。

「お前、またか」

 綴があきれたように言って、ほれ、とティッシュを渡す。

「うるせえ、あれを見て感動しないなんて、人じゃない!」

 直正は星読みの時、その美しさに、感動のあまり延々と号泣していたのだ。

「わかったよ」

 見えないように綴が笑いをこらえていると、情報画面に変化が現れる。

 見ると、J最北端の少し南のあたりで火山帯に動きがあったことがわかる。


 綴は、誰に言うともなくつぶやいていた。

「いよいよ始まったようだ」



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