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バリヤ 9  作者: 縁ゆうこ
第2章
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第11話


〈クイーンシティ王宮、そのあと旧市街〉


 ここだけは、王宮が誇る花々も色あせて見える。

 4人がかもし出す笑い声のハーモニーは、鳥のさえずりより美しい。

 それは、王宮の庭園で、お茶を楽しむ月羽、ステラ、ララ、ナズナだ。若い女の子の話題と言えば、やはり恋?  おしゃれ?

「でね、その時のラバラさま、とーっても格好良かったのよお」

「そう! 我が祖母ながら誇らしかったわ」

「ええー見てみたかったー」

 どうやら恋やおしゃれの話しとは縁遠いようだ。

「ねえ、今日はどうする?」

「旧市街へ行ってみたい。こちらに着いた時は、ゆっくり出来なかったから」

「OK、旧市街ならこのステラさまにお任せあれ!」

「頼もしいー」「ステキー」

 残りのお茶をそれぞれ飲み干すと、女子会は旧市街へと舞台を移していった。


「月羽さま、お散歩?」

「月羽さま、ご試食はいかがだい?」

「あ、ちゅきはしゃまー」

「月羽さま」「月羽さま」

 彼女たちが旧市街の賑わいに入って行くと、途端に月羽コールが起こる。ステラとララは慣れたものだが、ナズナは、月羽は王妃なのだから当然と思いつつも、少し驚いていた。

 なぜなら、月羽は1人の護衛もつけていない。自由にそこら辺の人と話しもするし、買い物もするし、試食だってしている。ただの女の子と全然変わりないからだ。

 いかに月羽が、と言うより国王と王妃がクイーンやキングを信頼しているか、そして彼らもまた、国王と王妃をいかに大切に思っているかの証しだろう。

「もしや、その見かけない子が、ナズナ?」

「そうよ。次元を超えてやって来たのよ」

「まあ、なんてこと、ステキだねえ」

「それに、美人だし」

「ホント、月羽さまに負けず劣らず」

「あら? 私は?」

「ステラはその次って感じだね」

「ま、失礼しちゃう」

 ハハハ、ははは、と屈託なく笑うクイーンたちに、今度はナズナコールが起こる。

「ナズナ、これ食べてみな」「この花も綺麗だろお」「ナズナ」「ナズナ」

 旧市街の市場はいつでも、お祭り好き、楽しいこと好きのクイーンたちのおかげで、笑顔と喜びがあふれんばかりだ。

 彼女たちもつかの間、この雰囲気をただ楽しむのだった。



〈クイーンシティ・ブレイン地区〉


「おー! とうとうここの一員になることを決めたんだね鈴丸くん、歓迎するよお」

「違いますよ先輩、ただの見学です。で、このあとは空間移動研究所へ行くんです」

「ええ~? ジュリー寂しい~」

 泰斗が鈴丸を連れてロボット研究所に入って行くと、お待ちかねのジュリー先輩が大きく手を広げて歓迎の意を表する。けれど泰斗に阻止された上に、極めつけは。

「わあ! ロボットがいっぱい! これの用途は? これは? これは?」

 鈴丸の目に入るのはそこら中にある研究対象のロボットばかり。ジュリーのことは言うまでもなく、人は眼中に入っていないらしい。

「あれ……」

 シュンとして一瞬肩を落としたジュリーが気の毒になって、泰斗は慰めの言葉をかける。

「彼にとっては、全部初めて見るロボットばかりなんですよ、先輩」

 だが、そんなことで本当に気を落とすジュリーではなかった。

「え? なにが? いやあ平気平気。自分の世界に入り込んだ泰斗くんに無視されるのも、ちょっかいかけに行ってナオに怒られるのも慣れてるし~」

 冗談で泣き真似などしながらそんなことを言うジュリーに、泰斗が苦笑していると、後ろから声がした。

「先輩、そうとう根に持ってますね」

 ナオだ。

「ナオ、ひどいよー」

 などと、たわいないやり取りをしていると、一通り見て回って納得した鈴丸がやって来た。

「ふう、もっと細かく見てみたいけど、それはまたあとの楽しみに取っておきます」

「もういいの?」

「うん、ありがとう、泰斗」

 そして、本当に今気がついたらしく、鈴丸は嬉しそうにジュリーとナオに挨拶する。

「あ、ジュリーさん、ナオ、お邪魔してます。って言ってもすぐに出かけちゃうんだけど」

「そんなの気にしなくていいよ」

 と、また隙を見てガバッと鈴丸にハグするジュリー。

「う、……ムググ」

 頭を抱えられて、苦しそうな声を出している。

「わあ、先輩だめですよ」

「先輩!」

 2人に引きはがされて、大きく深呼吸する鈴丸の横で、ジュリーは今度は標的を泰斗とナオの2人に変えて、彼らの髪の毛をガシガシかき回すのだった。



〈砂漠のキャンプ〉


「今日はこのあたりで一晩明かすか。どうだろう、ハリス」

「そうだな、良い選択だ」

 そろそろ日が暮れようとしている。

 通信を取り合った移動車が着陸を終えると、綴と琥珀は外へ出て大きく伸びをした。遼太朗はそんな2人に「疲れたか?」と、声をかける。

「いや、時間が限られていると思うと、データ収集に力が入りすぎて」

「僕も、遠くを見すぎて目が疲れました」

「俺は楽しいぜえ」

 あとから降りて来た直正がにんまりと笑う。

「お前はいつでも、だろう」

 いつものやり取りに皆が笑っていると、ハリス隊の移動車からゾーイが降りて来た。

「では、夕食の準備を始める。料理できる奴は?」

 ゾーイが聞くと、なんと全員が手を上げた。

 これにはゾーイも少し驚いている。

「遼太朗が料理するのはわかっているんだが。お前たち、腕のほどは?」

 すると、綴と顔を見合わせて直正が言う。

「綴と俺はカレー程度だな。琥珀の実力は知らないけど」

「カレー?」

「あ、あっちの料理の名前。で? 琥珀はどうよ?」

 すると、琥珀はなぜか少し恥ずかしそうに言う。

「ああ、レストランでシェフのバイトしてる」

「ええ?! すげー!」

 なんでなんで? と聞く直正に、琥珀の言うところによると、研究だけでは食べていけないので、アルバイトをしているのだそうだ。

「え? ああ、そうか」

 直正も綴も納得する。あちらの世界では、生活の心配なく研究一筋で行けるのは、今のところソラ・カンパニーしかないのだ。

「じゃあ、帰ったら所長に話してみるよ。こんな優秀な生物学者を放っておく手はないって」

「ありがとう」

 そんなやり取りの中、コホン、と咳払いが聞こえる。

 見ると、ゾーイが腰に手を当てていた。

「よくわからんが、お前はシェフ並の腕を持ってるんだな、琥珀。だったらあいつらと料理を担当しろ。他の者は椅子やカトラリーなどを運べ」

 あいつらと言って顎をしゃくった先には、ハリス隊の移動車から顔を出しているカレブがいた。

「お手並み拝見~。今日の担当は俺とティビーと、そして君、琥珀だよん」

 おいでおいでをするように手招きするので、琥珀は笑いながらそちらへ向かった。


 入れ替わりに、花音とパール、レヴィ、ワイアット、最後にハリスが降りて来た。手には各々椅子を持っている。ハリスなどは軽々と3脚の椅子を持っている。

 テーブルは作業ロボットが抱えてやって来た。

 直正は女性陣の所へ行って、「美しい方が椅子なんて運ばないで下さ~い」と言ってパールから椅子を受け取り、「うお! けっこう重っ!」とその重量に驚いた。

「か弱い方が、椅子なんて運んじゃダメですよお」

 と、花音が可笑しそうに言うので、直正はかえってムキになる。

「大丈夫です! うおお!」

 雄叫びを上げながら、走って作業ロボが置いたテーブルまで行くと、ドシンと椅子を置いて、ハアハアと息を切らす。

「体力なさ過ぎだぞ」

 そういう綴の息はすこしも乱れていない。

「なんだよ。けど、最近ジムもご無沙汰だからなあ」

「じゃあ、鍛えてもらえ」

 と、あとから来たハリスを見て言う。

「ん? なんだ? 鍛えてほしけりゃ、いつでも相手になってやるぜ」

「ほんとっすか? おーっし頑張るぜ!」

 やる気満々だった直正は、ハリスが相当なスパルタだと言うことを、まだ知らない。



「うげえー」

 砂漠の移動も4日目、今日の夕刻あたりには第1拠点であるオアシス湖へ到着する予定だ。

 昼食前のトレーニングを終えた直正が、テーブルにへたばっている。

「情けないな」

「ひでえ、綴はハリスがどんだけスパルタが知らないんだよお」

 突っ伏したまま言う直正だが、綴はハリスのスパルタぶりをよく承知している。そして、嫌になったらいつでもやめていいぞ、と、言われたのにもかかわらず、決してあきらめずについて行く直正を、綴は正直偉いと思っている。

 まあ、そんなことは口が裂けても言わないが。

 たわいない考えに微笑みを浮かべ、晴れ渡る空を眺めていた綴が、ふと何かに気づいたように話題を変える。

「直正、気がついたよな?」

「ああ」

 ごろん、と、頭は上げずに顔だけこちらに向けて直正が返事する。

 まだ夜を3回しか経験していない2人だが、それでもそれを事実だと認めざるをえない。

「正直、俺たちの常識では信じられないけどな」

「ああ、俺もまだ夢を見ているようなんだ」

「何が夢なんだ?」

 ちょうどそこへ琥珀がやって来た。

 ゆっくりとテーブルから起き上がった直正が、綴とうなずき合う。

「信じられないかも知れないが、琥珀」

「?」

「ここ、クイーンシティとダイヤ国は。いや、ここは惑星じゃないんだ」

「え?」

「ここは丸い惑星じゃない。宇宙に浮いてもいない。ただ平面が広がって、そしてなぜか太陽だけが天空を移動している世界なんだ」

「!?」


 言葉を失った琥珀の耳には、かすかに砂が風に舞う音だけが聞こえていた。



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