第十三話 覚悟、君を救うためならば
どうも、お久しぶりですろくみっつです!
少し遅れ気味で申し訳ないです……。
薄く笑う白木。
あともう少しの距離を詰めれば、彼女を捕まえられる。
そんなとき、俺の耳にブォンという、風切り音が聞こえる。直後には、ギィィンという金属が鳴らす音も。
体が不自然に軽くなる。
なぜか……簡単だ。俺の身につけていた鎧が切り裂かれ、鉄くずとなって落ちていったからだ。
そしてまた再び、風切り音が鳴る。
今もまた、ソレは俺に迫ってきているはずだ。
警鐘が鳴り響く。鎧すら簡単に切り裂いたのだ、もしも当たれば間違いなく死んでしまうだろう。咄嗟のことで体だけが動く。
体全体で転がるように避ける。
ブゥンと通り過ぎる音。そして、俺の頬には一筋の傷ができる。
危機一髪で避けられた。だが、それで安心することができなかった。まだ風を切るブゥンという音が聞こえるからだ。
今度こそヤバイ。そう意識すると、体に緊張が走る。
景色の流れがゆっくりになっていく。俺の動きも白木の動きも緩慢になっていく。その中で俺の思考は早いままだ。極限状態というやつなのだろうか。
今はただ音だけ聞こえる風を避けるために思考を回す。
あたりを見渡す。動作は緩慢だが、俺の思考は一つの情報も零さないようにフル回転する。
そして、小さな揺らぎを見つける。
本当に小さな、空間の揺らぎ。だが、その小さな欠片があるだけで、俺の生死が決まる。
さっき俺の頬に傷をつけた一撃は、横向きになったモノのはずだ。だから横へ転げて避けた俺の頬に一線の傷ができた。
今回も横向きという確信はない。が、あとは勘に頼って動くしかない。
「うおおおぉぉぉぉ!!!」
叫び気合を入れる。体勢は先ほどと同じく低く転がるようにしてしかし今度は真横への移動ではなく、前へ進むように少しでも白木に近づくように避ける。
そして、俺が動き出すとともに世界の速度は元に戻っていく。
前に飛ぶように避ける俺の真横をブゥゥンという音が通過する。
その音と共に切り裂ける肩。だが、それは決して深い傷ではなく、俺が不可視の攻撃を無事に切り抜けられたことを示していた。
「切り抜けたぞ……白木っ!」
「ふぅん……避けられたんだ。あなた運がいいのね。それとも今のは実力かしら?どっちであれ、やっぱりあなたがこのまま生きていると脅威になるわね。気が進まないけれど、やっぱりここで確実に殺してあげるわ。今度は手加減なしでね」
「殺されるのは、勘弁だな……。俺はお前を正気に戻さなきゃいけないからな。
それに、俺も今みたいなギリギリの闘いをしたいわけじゃない。こっちもお前に傷を付ける覚悟を決めるよ」
今のままで白木とやり合えば、確実に俺は負けて死ぬだろう。
確かにさっきの不可視の攻撃は切り抜けられた。だが、今の攻撃がずっと続けば俺は早々に切り刻まれるであろうし、白木まだまだ本来の実力を出し切っているわけではないだろう。
だからこそ、俺は覚悟を決めなければならないのだ。
白木 咲という、俺にとって大事な存在に自らの手で傷を付けることの覚悟を。でなければ、俺は彼女を正気に戻すことすらできず死んでしまうだろう。
俺は正義の味方でも自己犠牲の塊でもない。彼女を元に戻したいと願うのは、俺と彼女が共に在れる未来を俺が望むからだ。
だから、今ここで彼女の手に掛かるわけには行かない。
ならば、俺は使わずに済むならばと思い今まで使っていなかったモノを使うことを決心しよう。ソレで彼女が傷つくかもと恐れるよりもソレを使わずに彼女と別れることに懼れを抱こう。
「言うわね。でも、まだ召喚されて日の浅いあなたに、私の本気を越えることができるかしら?」
白木はそう言って魔力を高めていく。
俺には魔力を見ることはできない。だが、段々と強まっていく彼女の圧と陽炎のように揺らぐ周囲を見れば、一目瞭然だ。
「越えなきゃお前を止められないなら、越えてやるよ」
俺はそう言い切って息を整える。
これからすることは、今まで一度だけしかやったことのない術だ。
これをやれば体に異常なまでの負荷が掛かることになり、二、三日は動くこともままならないだろう。
メノスにも出来るだけやらないようにと釘を刺されていたモノだ。
だが、まぁそれをやらなければいけないのなら是非もないだろう。
覚悟も決心もすでに決めている。あとはただ俺が詠うだけだ。
「『我に宿るは八十八の星々なり。
この身は漆黒に染まり夜空と化し、天体はあるべき場で煌々と輝く。
広がる天空は無限の象徴、なれば我が身は無限を宿す』」
詠うと同時に全身に在る星座の『魔法陣』が光りだす。
そしてそれらは俺の体を廻っていき、あるべき場所へと収まっていく。
天体の移動が終わり訪れる変化は圧倒的だった。
まずは、俺の持っていた魔力が、ガリスの言葉に怒り膨れ上がったあの時よりも、更に更に大きく爆発するように増えていく。
そして、体内に限界までたまったそれは、しかし限界を優に超えるそれは、体外へと放出されていく。
不可視であるはずの魔力は、濃紺よりもさらに濃く染まっていて、辺り一面をまるで夜空の中にでもいるかのように塗り替える。
そしてそこまで変化が訪れた時、俺は最後のキーワードを詠う。
それはこの術の名前であり、この状態に更なる変化を加える鍵でもある。
「『限界突破』」
言葉を紡げば、変化が起こる。
体外へと放出された魔力が収縮する。
収縮したそれは、まるで逆再生でもされるように俺の体へと吸い込まれる。
だが、それはただ吸い込まれるのではない。俺の体を夜空のように染め上げるのだ。その姿をこの世界のヒトが見ればこういうだろう。
「あなた……その姿、魔族になったっていうの!?」
そうこの姿は、俺の姿は、魔王であるメノスの青よりも更に濃い藍の肌をした魔族のソレだった。
決定的に魔族と違うのは、体中に星座のサインが煌めいていることだろうか。
「別に魔族になったわけじゃないよ。でも、俺の本気、わかりやすいだろ?」
そう言い、俺は構える。
まっすぐに向る目線は、心から共に在りたいと願う彼女の瞳へと注がれる。
いかがだったでしょうか?
今回では終わりせん、あともう少しだけ戦闘です!
では、今回はこのへんで失礼します!
皆さんのブクマ・評価・レビュー・感想等々お待ちしております!
ではノシ